第34話 法国奪還戦

さて、あいつらは各々散らばったが……成功する事を祈ってるか。


「俺も行くか」


てくてくと南門へと近づく。瀉血刀を鞘から抜き取り、構える。

自分の血を少し吸わせた後、中段横構えで武器を握る。


「んじゃあ……あいさつ代わりだ」


振り下ろす前に【混沌魔王神の神力】を使い、瀉血刀に込める。これを武器に付与させると、どんな建物も一撃で両断されるチート級武器の完成だ。


何で瀉血刀にやった?ノリだよ。


「ほらよ!」


横に構えた瀉血刀が振り下ろされ、街を守る門が一撃で粉砕され、中にいた敵兵が横真っ二つに両断された。


「結構斬れたな。脆すぎるぞこの門」


まぁ壊したの俺だけど。

叩き斬って数秒、左右の方から爆発音が聞こえた。どうやらあいつらも門を爆風で吹っ飛ばしたらしい。扉をTNT爆弾で吹っ飛ばす対テロ特殊部隊みたいなやり方をするなぁ。


「俺はぶった斬ったけどな」


小さい声でそう言う。まぁ、あっちも上手くいってる事を祈ってるか。

軽く走り、敵陣に突っ込む。


「敵襲!レクス公国の抹殺屋が南門にいることを確認!迎撃に入—」


言い切る前に敵兵の首を取る。反乱阻止には犠牲は付き物だ。敵のだがな。

確かに殺すのは良くないが、この世界ではただ普通にボコるだけでは反乱は収まらない。確実に屠る必要があるからだ。


「死にたい奴からかかってこい!名誉な戦死にはなるだろうがな」


次々と反乱兵が現れ、行く手を塞ぐも呆気なく屠られる。屠るたびに地面に血が広がり、地面の上に立つ兵士の数を減らしていく。無双までとは言わないが、実際見れば悲惨である。


「く、クソ!西も東も攻撃を受けてるってのに、こっちは白き邪神と交戦なんてツイてねぇ!」


「なら出てこなければよかったじゃないか」


しかし、ここまで暴れてやったのに敵の防衛隊長が一向に現れない。

この被害は想定の範囲内なのか?それともここ以外の門を守ってんのか?


「もう少し、暴れてみるか」


軽く力を入れようとした時だった。


「お前が陸也か?」

「うん?」


どこからか声が聞こえる。しかも……真上?

上を見上げるとまだ壊れていない方の建物の上に一人の女性がいた。

左目眼帯をした黒髪、白い将校服……差し詰め敵の指揮官か?


「誰だお前さんは?」


「私は『カラヴァの黒狼』、キルジス=ハーガン」


カラヴァの黒狼?聖蛇と対を成す二つ名を持つ抹殺屋がこんなところで何してんだ?


「お前さんが反乱軍の司令官か?」


「そうだと言ったらどうする?」

「質問を質問で返すな、お前さんが司令官かと言っているんだ」


ハーガンは「やれやれ」と言ってため息を吐きながら「そうだよ」と答えた。


「お前は昔から面倒な奴だった。特に同盟会議に参加してる時にお前と来たら厄介事に連れまわされ、聖蛇に来たらハーレムになるわで、散々だったぞ!」


それ逆恨みの気がするんだが…。

まぁそれでも巻き込んでしまったのは申し分ないと思ってはいる。あの事件は俺目的で起こった出来事だからな。根に持ってるとは思わなかった。


「丁度いい……お前の首を討ち取って反逆の狼煙をあげてくれるわ!!」


いや、確かにあの事件は俺が悪かったと思ってるよ!だからと言ってこの仕返しは無いと思うんだが!?現にお前、御主人に噛みつこうとしてるんだぞ!?


ハーガンは何もないところから、黒い瘴気を纏った剣を取り出し、その矛先を俺に向ける。


「戦況では西と東は不利だったな?アレは捨て門だ。やられた同志は布石にすぎん。全てはこの剣の力を増強させるためだ」


「……さすがといったところか、【大悪神の禍力アンラ・マンユ】の使い手め……!」


あの剣は知っている。「負力の魔剣」と呼ばれた彼女専用の武器。名は『アンリルソード』というもの。長剣のカテゴリに入った法国のアーティファクトだ。俺相手になんつう物振り回す気なんだこいつ。


「だが、そんな巨大なものが俺に当たると思ってるのか?」


「当たるさ、避けれるなら避けてみるがいい」


ハーガンは負の力が溜まった剣を縦に振り下ろす。

溜まっていた負の怨念が俺目掛けて飛んできた。しかもいろんな角度に曲がってだ。


追尾式ホーミングミサイルかよ……怖えな!」


当たらないように回避運動を始める。かすりはしないが、当たれば多分。

痛いだけでは済まない。


「これはちょっと、予想外だな……」


回避、瀉血刀の斬撃による斬り払いで切り抜ける。

問題はハーガンが剣を振るたびに怨念弾がこっちに来ること。

まさに害悪とはこの事だ。


「どうした?逃げるだけか?レクスの抹殺屋!」


クソ!煽りやがって……その剣が無かったら普通に倒せてるんだが……無いものねだりは寝て言えって事かよ!!


「ち、まさかPSY、【負の超強化】以外の能力を此奴に使う羽目になるとはな……これ結構負荷がかかるってのに……!」


怨念弾を振り切る。一度武器を地面に刺し、目を閉じた。


「本当はこれは使うべきものじゃないんだが…」


この力は俺の切り札的なものだが、ウザったい怨念弾の弾幕内を潜り抜けるには使わざる得ない。


息を吸い込み、吐く。


「……【属性体エレメントボディダーク】!」


目を開け、力を解放する。

この能力は俺が追放世界に来た時、不死になる代わりに得た副産物だ。

……この能力、かなり負荷がかかるんだけどな。


「慣れないな。この能力の使い心地は」


身体が黒く染まる。文字通り闇に染まり、追撃で飛んできた怨念弾を吸収する。


「な……!?」

「手間をかけさせるな。反逆者め」


闇の力を込め、地面に刺した瀉血刀を抜き取る。

血の刃はたちまち赤から黒紫色に変色し、禍々しさが増した。


「それが邪神と呼ばれる所以か……!」


「悪いが一撃で仕留めさせてもらうぞ。これ以上、延長戦は分が悪いんでな」


風向きが変わる。ハーガンに集まっていた負の怨念が剣ではなく、俺に集まっていく。彼女は危険を察したのか、距離を離そうと後退し始める……が。


「すまんな、この状態の俺からは逃げられんぞ。覚悟を決めて滅するがいい」


瀉血刀に闇が集まり黒い刃が生成された。

俺は彼女を滅多斬りにするかのように瀉血刀を振る。


「ブラッドエレメント……闇刀、滅天」


黒い無数の斬撃が斬撃がハーガンに襲い掛かる。


「馬鹿め……当たらなければ、ん?」


ハーガンは後ろを見る。そこからも俺の斬撃が飛んできたのだった。


「……化け物め」


それが彼女が言い残す遺言となったのだった。

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