第32話 他国での交戦
「お前さんが隊長か?」
「だから何だ?」
冷静かつ冷酷な言葉で返事をしたとなると、此奴がこの部隊の頭とみてもよさそうだ。
「俺の喉元を切っても死なんぞ?それがわかってやってるのか?」
「……死ななくても痛みは感じるんだろう?レクスの狗」
狗扱いとはひどいなぁ……。
「悪い事は言わない。武器を捨てて降伏してくれ。俺は無駄に血は流させない主義だ」
「平和主義か?そうとは見えないが?」
まぁ瀉血で刀の刃を強化した状態で民家に押し入る輩のどこが平和主義なんだか……やっていて思うが。
「その口ぶりは、戦闘する気満々だな」
「勿論だ。レクスの「白き邪神」と戦火を交えるのは人生で初かもしれんからな」
とんだ
「どいつもこいつも弱い兵士ばかりだったからな。お前を倒せば私の株もうなぎ上りするだろう。降伏する気はない」
うわぁ……こういう奴とは並べく相手をしたくない。絶対しつこく戦闘を仕掛けてくるだろ……。
「はぁ……いいだろう。恨むなよ?」
テレポートで部隊長の背後に回り、蹴りをかます。
あまり強く蹴ってはいないが、壁が壊れ、2mくらいの穴が開いた。
その穴の先には先ほどの部隊長が体勢を立て直している。さすがに一発では伸びないか……。
「強い一撃だな……っ!本気を出したか?」
「いや、そんな強く蹴ってないぞ?サッカーボールを蹴るぐらいの力しか入れてないんだが」
部隊長は「そうかい」と言って俺に接近する。
彼の取り出したナイフは未だ刃こぼれしてない。恐らく銃のみで制圧したという感じか。
「今度はこっちの番だ!」
彼のナイフが俺に襲い掛かる。右から来る斬撃を躱す。
左、右、上段、下段、中段。
全てを避ける。
「避けるのが上手いようだな?」
「そう言うお前さんは当てるのが下手くそだな。動きが見え見えだぞ」
軽く煽りながら刺突も躱し、軽く拳で殴る。
「ガッ……ッ!?」
「どうした?その程度か?」
ニヤリとあざ笑いながら攻撃を避けたり、反撃して吹っ飛ばしを繰り返す。
あ、一応この笑い方は漫画を読んで覚えたものだ。これをやっただけで陰キャ及びウザキャラになるらしい。
ヘイトを買いやすいが、これはこれで対人戦で効果がある。
習ってよかったかもしれん。
「くっ……お前!戦士としてのプライドはないのか!?」
「ないな。戦争中なら尚更、王族や貴族の云々とかそう言うのは戦場では一切通じない。戦争を舐めてるのか?」
これだけは正直に言った。俺だって元は貧民街育ちの人間だったとはいえ従軍経験がある元軍人だ。……階級は大尉だけどな。貴族や王族出身の連中はいつもそうだ。「自分は〇〇家の長男で侯爵となる者だぞ!」とか、正直バカバカしくて見てられなかった。
自分の貴族階級を自慢する暇があるなら、勉学で知識なり、戦闘面で攻撃パターンを増やせよ……とか言いたくなった時もあった。だから俺は王族や貴族は大嫌いだ。
そんなに金があるなら病院や孤児院などにその金を回せよ!
おっと、話が逸れたな。済まない。
「……見たところ力を隠してるようだが、俺の目から逃れんぞ。どうせお前も加護を持つ抹殺屋の類だろ?」
揺さぶってみる。ここまで能力を使用してこないのは逆におかしいからな。
部隊長はゆっくり立ち上がると同時に叫び始める。
揺れる大地、変貌していく部隊長の身体。まるで3つ首のドラゴンのような姿へと変わっていった。
「驚いたぞ!私をここまで追い詰めたのがお前が初めてだ!あえて名を言おう!
私はクリミル!この地域の制圧を任された者。そしてこれが私の加護!自慢の力!【
フム、アジ・ダハーカと言ったらゾロアスターの怪物じゃねーか。恐ろしい加護をなんつう奴にくれてやってんだ。この国の王様は。
「喰らうがいい!」
クリミルの3つ首から同時に放たれる火炎ブレスが俺を襲う。並の人間はまる焦げレベルだなコレ。
「……【
ガァン!と何かを弾く音と共に放たれた火炎ブレスが俺の前で霧散する。
この能力は他者を守れるように訓練されたもので、唯一能力開発で手間取ったのはこの能力だ。これを習得するのにどれ程の能力実験を行った事か……考えただけで気が遠くなりそうだ。
「そんな
「何も耐える必要はない」
敵の能力を把握した。ブレスは恐らく何種類かあるだろう。ゾロアスターの怪物だ。確か此奴は知恵の回る怪物だったらしいが、こんな戦闘狂につけられるとは可哀そうなもんだ。
「火炎を吐くだけか?雷とか、吹雪とか吐いてもいいんだぞ?」
「ならお望み通りにしてやる!」
3種の属性のブレスが守護壁にぶち当たる。相変わらずガァン!という音で防がれる。俺?
「び、ビクともしないだと……!?」
「攻撃はそれだけか?なら今度はこっちから行くぞ」
【
「オグワッ!?」
うん。普通に当たるな。何も身体がデカければいいものではないからな。
「ガハッ……!」
まともに攻撃を喰らった時だった。クリミルの巨大な体に無数のヒビが入り始め、崩壊していくのが見えた。
【
今のは確実に殺す気でやったから彼はもう助からない。死の概念がない世界で死の概念が与えられたんだ。断末魔くらい聞いてやろう。
「どうだ?俺にやられた感想は?」
「あ、あり得ん!この私が……たった1回の蹴りで死ぬなどと!これが……白き邪神の名を持つ者の強さ……恐ろ……し……い」
巨体が崩壊した後、ただの砂となってクリミルが消えた。まぁ反旗を翻した代償というべきだろう。自分の上司がやられたのを目撃したのか、一緒にいた反乱軍兵士はすでに
「取りあえず、街一つは取り戻したな。ただこの壊れ具合を見ると復興には何年かかかりそうだ」
ため息を吐きながら、俺はこの街を後にしたのだった。
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