第30話 旅は終わらない
「なわけで、儂も行くぞ」
何がなわけで何だよ……別にそんな遠くには行かねぇだろ。
法国の様子を見に行くはずが、少尉がついてくるのはこの村の防衛網を捨てるようなもんだ。正気の沙汰ではない。
「考え直せ。お前以上にあの村に強い鬼人はいないぞ」
「……は?」
鮫鬼は意表を突かれたような表情になる。
だが、この表情は図星という意味ではなさそうだ。
「大尉、お主いつから儂の種族を弱者呼ばわりするようになったんじゃ?酷いではないか!」
「弱者呼ばわりはしてないぞ、弱体化したこの村の防衛力はどうするんだと言ったんだが?」
「そのためにお主の国の連中が来てくれるわけではないのか?」
「……」
あのなぁ……なんでも国が何とかしてくれるわけじゃないんだぞ?それに俺の階級は大尉だ。発言力はあまり大きくない。言ったところで納得にも時間がかかるし、すぐ来れる訳じゃあないんだぞ?
また奴隷商の連中がいつ来てもおかしくないってのに、呑気だな此奴は……俺もだったわ。
「とにかく駄目だ。それにお前は大して回復してないだろ?大人しく自分の村を守っててくれ。唯一頼りにできるのはお前ぐらいなんだ」
間違ってはいない、彼女の居ない鬼人族の村はとても危険な状態になるのは確かだろう。唯一従軍経験もあり、俺と同等とはいかないが、少尉階級だ。防衛隊長にはなる。
「ぬ、ぬぅ……そこまで言われたら残るしかないではないか……」
よかった。納得したようだ。どこぞのラノベ小説のヒロインが「それでもついていきます」という台詞は普通はありえない。生きてる以上、自身の生存を大事にするはずだ。それはヒロインだけではない、ヒーローやモブだって同じだ。
(まぁ、俺は不老不死だから特に心配はしてないが、面倒事がまた起こされては困るからな。布石だ、布石)
第一、戦場内で回復したばかりの負傷兵をいきなり戦場に突き出すなど、将兵の名が腐るも当然だ。無能な司令官と言ってもいいだろう。
「遅くても4日後には補給部隊と防衛部隊が到着する。それではな」
「ま、待て!」
鮫鬼が俺を呼び留めた。まだ何か言いたいのか?
「……またこの村に来てくれるか?」
「それは分からん。上の事情が優先になってる時があるからな、だが来れる時は来よう。あまり期待するなよ」
そう言って俺は村を出て行った。
*
「はぁ、俺はクールなヒーローじゃないぞ」
俺はただ国外をぶらり旅をしたいだけなのだから、普通に立ち去らせてくれよ……。
「気を取り直そう。まずはお隣の国へ行って、どういう状況かを見てくるか」
カラヴァ法国はこの村から東に行ったところだったな。徒歩で行くから、走れば二日ぐらいで着くか?
「久しぶりの長距離走、走ってみますかね」
【負の超強化】を使用する。走る力を極限まで強化させる。息を吸い込み、走り出す。そのスピードはマッハまでとはいかないが、少なくとも車よりは早い。
そうだな、F1カー並みとでも言っておこう。
「さて、どれ程の時間で着くか、考えながら走りますかね!」
一方、カラヴァ法国……
カラヴァ法国とは、白皇陸也の居る国「レクス公国」よりも巨大な大国であり、国土は第二次世界大戦のソビエト連邦国並みの領土を誇る。人口は700万人以上。強大な軍事力と民需、魔導技術や信仰を元に力となる聖魔法の技術に長けており、宗教もそれなりに存在する。通称、魔法と宗教が合わさった大国。
その国を統治する神であり女法皇、「ヴェイリル・カラヴァ」は癒しと技術を司る古代神である。信仰力が高く、聖なる魔法の力なら彼女の右に出る者はいないだろう。
ただ、その分黒い噂もあり、その国を統治する神は悪神という事やレクス公国を除いた他国と戦争をする準備をしてたりと物騒な噂も存在する。
そんな国の根城、カラヴァ大聖堂の付近の城下町にて、不穏な動きがあったのだった。場所はカラヴァ法国の城下町「イグニル」の路地裏だ。
「それで?法国の警備隊の様子は?」
左目に眼帯を付けた黒長髪の白い将校服を着た女性が、他の将校と会話をしていた。
「現在、カラヴァの聖蛇が帰還したことで、お祭りムードです。警備は少し緩まってます」
「あいつはモテるからな、奴の親衛隊は女性が多い。警備は緩まっても内部は手を抜かぬ手練れは多い」
女性はため息を吐きながら、話を進める。
「だが、無敵でいられるのもそこまでだ。明日、開始するぞ」
「は!必ず成功させましょう」
「……今に見てろ、カラヴァ。この「カラヴァの黒狼」の「キルジス=ハーガン」を舐めた目でこき使った事を後悔させてやる。せいぜい聖蛇の男と仲良く談笑してるがいい」
革命の火が一刻と近づいていた。
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