第29話 礼は受け取らない主義
捕らわれた鬼人族を助け、馬車の荷台と戦車をくっつけて村に戻る事にしたのはいいが……。
「……」
「人間じゃ…」「人間が儂らを助けに……?」
などなどぼそぼそと陰口を叩かれてる。悪かったな人間で。
「それで、怪我は良いのか?少尉」
「すまんのぅ。隊長」
彼女、鮫鬼は無事だった。ただ、栄養失調みたいな感じにふらついてる感じだ。
村に着いたら、休憩しないと拙いな。
「しかし、よく生きてたな。俺はてっきり海の藻屑になって、骨すら拾えなくなって親族にどう説明すればいいか苦労したんだぞ?」
あの時はあいつの遺族にどう説明するか迷ったんだぞ。
まぁ、この世界で生存が確認されているなら、言い訳はしなくていいが。
「馬鹿者。儂があんな魚雷ごときでくたばると思ったか?大尉、お主はそう言うところがあるから他の部隊に舐められるのだぞ?」
「それはまた手厳しい言葉を貰ったな」
そうやって雑談を繰り返していくうちに鬼人族の村に辿り着き、この一件を知らせに俺はレクス様に連絡を入れるのだった。
*
『わかった。彼女の居た鬼人族の村はしばらく、国で保護しておこう』
「感謝します」
『それにしても、ぶらり旅初日に奴隷商に喧嘩を売る。って君も災難だねぇ』
「全くですよ。異世界の方がまだ平和なぐらいです」
取りあえず俺は鮫鬼から聞いた情報を一通り、伝え、その後の対処をレクス様に押し付けた。人使いの荒さが裏目に出たというべきだろう。
え?上司にそんな事させていいのかって?クビが怖くないのかって?
確かに普通の社会ならリストラ案件だろう。だが、レクス公国では俺以上に強い戦力がいない。だから迂闊にクビにはできない。まぁ多少の職権乱用は許されるのがこの世界だからな。
『それはそうと、君はまだぶらり旅を続けるのかい?』
「ええ、続けますよ。まだそんなに移動してませんし、どうせ俺が通った場所は占領してくのでしょう?」
俺のぶらり旅にはいくつかの策略がある。
その一つが、まだ誰の領地でもない地域を歩き、その事件を解決させ、見返りとしてその地域を領土にしていくという。何ともラノベ作品に出てきそうなやり方である。
今のやり方がその一つだ。
正直気に入らないが。
『それじゃあ、良い旅を』
「……」
通信を切り、後ろにある彼女の村を見る。
復興作業は滞りなく進み、これなら後5日ぐらいには終わってるだろう。
「さて、旅のついでだ。法国に行ってみるか」
目標を決めた俺は早速準備に移る。
事件が終わればその地域に用はない。立ち去るのが一番だ。
「どこへ行く気じゃ?大尉」
「法国へ行く。次の旅の目標はそこだからな」
「ほう?儂らからの礼を受け取らずか?」
「礼を言うなら俺じゃなくて俺の雇い主に言え。あの方はとても器が大きい方だ」
実質礼を貰うのは俺じゃなくてレクス様だからなぁ。あくまで助けただけで保護の命令はレクス様の指示だし。
「大尉。お主はいつも手柄を他人に押し付けるのぅ。本能的に我々を助けたわけじゃなくて自分の上司の命令上仕方ないで済ますでないぞ?」
早速バレてらぁ……。
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