第28話 取りあえず

キュルキュルキュルとキャタピラが回る音が響く。俺にとっては戦車なんて可愛いものなのだが、彼女鮫鬼の中戦車は他の中戦車と違って馬力と移動速度は数段速い。耐久性にも優れ、米国の重戦車が持つ砲弾を受けても弾く装甲を持つ。


ゲームで言うなら戦争ゲー内の陸軍最凶の中戦車と言っても過言ではない。砲弾の搭載数を除けば弱点がないようなものだ。


何より、エンジン音があまりうるさくないのも利点だ。彼女らしい。


「ん?あの角は鬼の角だな。そして馬車……例の奴隷商か。早く見つかってよかったな」


千里眼を使って位置を探っていたら偶然に見つかった。そしてこの距離ならこの中戦車の戦車砲が届く。後は狙いを定めるだけだ。


「ふむ、馬車の車輪だけを狙うのも技術がいるんだったな」


砲弾を装填し、少しずつ目標に近づきながら狙いを定める。

そして数分待って集中する。


「まだ撃つな……まだ撃つな……」


少し冷や汗をかく、緊張してるのだ。車輪じゃなく。場所の積み荷に当たったら中の鬼人族は無事では済まんだろう。多くのけが人が出る。だからこそ、慎重に撃たねばならないのだ。


「……発射!」


トリガーを引く。発射音と共に徹甲砲弾が一直線に飛び、目標に直撃する。

馬車は倒れ、馬車を操っていた騎手が慌てて出てきて辺りを見渡す。


「命中!接近を開始する」


すかさず俺は中戦車を動かし、急接近した。


「な、何だぁ!?せ、戦車ぁ!?」


男の前に戦車を止め、外に出る。

銃を片手に、軽く挨拶をした。


「こんにちは、奴隷商。その鬼人族を引き取りに来た」


「ぐ、軍人!?なぜこんな場所に!?」


ほう?俺が軍人であることがわかるのか?良い勘をしてるな。


「まぁ、何だ。軽く山賊行為って奴だ。……戦車をぶつけてくる山賊なんかいねぇけど。まぁなんだ。奴隷を貰うぜ」


男は「それはどういう」と言い切る前に俺は軽く回し蹴りを食らわせ、吹っ飛ばす。

その時だった。


「ちょいと待ちな、兄さん」


「?」


背後から声が聞こえた。

振り向くと、いかにも賊っぽい男が曲刀で肩を叩きながら俺を睨みつけている。


「……」


「アンタ、強そうだな。戦車も扱え、砲撃の狙いも完璧。完全にプロだろ?」


「プロではない。ただの死に損なった元日本軍人だ」


男は「やはり軍人様かぁ」と言って吐き捨て、曲剣を構えた。


「オレァ、レビってんだ。アンタの名を聞こうか?」

「……白皇陸也。今はただの旅人だ」


その名を聞いた瞬間、レビは笑う。

何がおかしいんだろうか?


「白皇陸也?レクス公国の邪神様じゃねぇか!こんな辺境で旅なんかやっていいのか?余裕過ぎか?」


余裕、か。俺はあくまでで辺境にいるだけなのだが?いや、休暇でこの辺境で正義の味方は余裕なのかと思って言ったのかもしれんか。


「確かに余裕かもしれんな。だが近くに知り合いがいてね。知り合いを助けるついでにお前さんらをぶっ倒すって訳だ」


「オレらはついでって訳かい!舐められたな」


舐めてはいないんだよなぁ。まあ確かに他人から見れば舐めてるのと同様か。

いかん、あっちがやたらと人間っぽいな。


「それで?俺は忙しいんだ。何もしないなら消えろ」


「それはできねぇ。雇われた以上、アンタを倒させてもらうぜ?」


「そうか、それは残念だ」


溜息を吐き、拳銃をホルスターにしまい、短剣を取り出す。


「全く、最近の戦闘員は引くというものを覚えないのか?まぁ良い。加減は無しだ、かかってこい」


「上等だ!」


レビの素早い剣技が俺に襲い掛かる。右からフェイントの斬撃、左からは服を掴まんとする手が伸びた。


よくある拘束斬撃戦法か……くだらない。


「ふん」


レビが伸ばした手を掴み、その身体を腕一本で軽く持ち上げる。


「うおお!?こいつ見た目に反して力持ちだな!?」


「鍛え方が違うからな。歯を食いしばれ」


即座にエレキネシスを発動させ、レビの体に電流を流す。


「ヌグワーッ!」


ビリビリと感電する音が響く。


数分後、レビの身体が完全に真っ黒焦げになり、持ってる剣すらも形が残ってなかった。


さて、捕虜を助けるか。

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