第22話 計算内の魔の手

(言い過ぎてしまったか……)


いくら作戦を練ったとはいえ、部下は全員新兵そのものだ。

無理だ。誘導役はまだしも、救出役は難題すぎる。


つい熟練兵感覚でしゃべり、無茶苦茶な作戦。部下を信じる以前、この癖は抜けない。悪い癖になったもんだ。


「……」


正直、逃げても問題ないし、あいつらはソラを守ってくれれば尚更。

俺一人でもできなくはないが、手間が増える。


……何でこんな策を思いついてしまったんだろうか?

頭のおかしい奴なら「イカレてるぜ隊長」とか言われるんだが、こんな事を……。


「やはり俺は部下を持つ物ではないな。荷が重すぎる」


そう個室で独り言という反省をしてると、ドタドタと物音が聞こえる。


やはり、受け入れてはくれないだろう。


バンッ!と扉が開く、入ってきたのは結衣だった。とても汗ばんでるが、何があったんだ?


「どうした?」


「どうしたもこうしたも……ソラが攫われた!アタシらの作戦会議中にトイレに行ったキリ帰ってこねぇと思ったら……やられた!!」


やはりな。情報網にしても行動にしても早すぎる。

そして焦ってると見た。俺達の存在を視認したか、または裏に誰かいるな?


「……そうか」


「……怒らねぇのか?」


「今更怒って何になる?叱る暇があるなら次の一手を考える。それだけだ。これはゲームではない、任務だ……そしてむしろこれは好機にあたる」


結衣はそれは「どういう……」と聞く、まぁ察するとは思うが。


「目標が魔王城にいる。複数が一つの場に留まったんだ。後は取りに行くだけだ」


俺は立ち上がり、支度をする。


「お、おい。隊長、まさかだよな?」


「そのまさかだ。俺は魔王城に行く」


そう言って、出ようとすると結衣が止める。


「待てよ。アンタ一人で行こうってのか?」


「……」


「ならアタシも行く。攫えるチャンスを与えちまったアタシの責任だ。それに、隊長一人が全てを背負う必要はねぇよ。確かにさっきの案は良いが、勝算は本当にあったのか?」


無くはない。が、それは運が良ければだ。だがそれは不確定要素に頼ることになる。

正直、ほぼないと言えるだろう。不老不死じゃなければだが。


「……良いのか?」


「良いも何も、隊長の立案した作戦は最善策と言っても過言じゃねぇよ。戦力を分散させて敵を混乱させる気だったんだろ?隊長が暴れ役になったのは戦闘経験の差があるからで、アタシらを安全に侵入させるのが手だったんだろ?」


そこまで見抜かれてたか。さすが元特殊部隊の人間だな。


「それに、火種も同じことを言いそうだったぜ?何せあの会議の後、言われたみたいな顔してたしな」


「……」


「確かにアンタの言った通り、アタシらのコンビネーションは未だ不完全だ。まさに傭兵でいる感覚でもある。けど、アンタはアタシらを信じてこの作戦を練った。分かってんだよ。だがあの作戦はどうやっても隊長自体が危険な目に遭わされるだろ?自分の心配はしないのか?」


自分の心配、か。逆に俺は部下に心配されてたという事か。

甘く見られたものだな。


「俺は自分の能力を把握してるからこそ、この役を選んだ。最善策でもあり、適材適所というモノだ。何も考えてない訳ではない」


「なら、もう行こうぜ」


魔の手が上がったのはあまりにも早い。逃走ルートが確保されてるならこちらは……。


(レクス様、回収地点を変更してください)


主に連絡を入れ、俺達は向かう。


「俺から逃げられると思うなよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る