第20話 異世界亡命作戦

森から脱出してから数時間。俺達は近くの街で宿を取り、今後の作戦を練っていた。


「なぁ、隊長。東の方はどうだ?あまり人が立ちよらねぇんだろ?」


東側、確かムエルン大陸だったな。……って魔族の大陸じゃないか。結衣、駄目に決まってるだろ?


「……恐らく西は取り押さえられてる可能性がある。少しずつ逃げ道を塞がれていってるのも考えねばならないってところか」


「けどよ、南はアタシらの居た森だし、戻る訳にもいかねぇ。北へ行こうとしてもソラお嬢様の親父の城があるし……これじゃあ八方塞がりだぜ?」


「……」


門前の魔王城、後ろの追手か。どうしたものか……。

やはりあの時、手下を逃がしたのがまずかったか、どこへ行っても逃げられない。


「……ん?」


待て、よく考えよう。まず南と北は排除しよう。

その次、西は魔族と人間が戦争中の前線地帯だ。こんなところにお姫様をやる訳にはいかん。これは排除。


残りは東、魔族が多く健在する大陸だ。友好的な魔族もいるかもしれない。だが、それがいるとも限らない。また、そこにも奴らの手下が配備されてる可能性は捨てづらい。


どのみち奴らと遭遇するリスクがある。その中で一番リスクが低いのは何だ?

結衣の言った通り、八方塞がりだ。


しかし、どこかに必ず答えがあるはずだ。生憎この世界の勇者は西で魔族と戦争中、頼みの綱はない。


あるとすれば……。


「一か八かになるが、手はあるかもしれん」


俺の言った事に3人は反応した。


「何か手策はあるのか?隊長」


「……ソラは命を狙われている。父親は娘を何かしろ不要と考えて暗殺を狙う。要はこの世界にはいらない存在となった。不要ならほっとけばいいものなのに、だ」


火種と結衣は「確かに」と言って首を縦に振る。

俺はさらにつづけた。


「だが、おかしくないか?愛する娘を暗殺に持ち掛けるほど、不要である訳がない。普通は自分がやられてもいいように、魔王の座の継承候補には最優先に彼女が最初になるはずだ。ソラ、家庭内の事はわかるな?」


軽く問い詰める。娘を暗殺に追い込むには家庭内になる元凶があるからこそだ。

それさえわかれば、どうするかが変わる。


「……私の父は、沢山の妻がおる。要するに一夫多妻な生活をしておった」


一夫多妻の大魔王……か。よくラノベ小説の魔王様あるあるの展開だな。


「しかし、私の母上は、体がとても弱く、また身分も他の者と比べ低い。よって魔王継承の優先順位から私が外れたのだ。私の力は他のものと比べて天と地の差ぐらい低い。桁違いなのだ、暗殺の対象にされても文句は言えん」


成程、ちょっとした一子相伝の継承法か。どこの世紀末の拳法家の掟だよ。

無慈悲すぎるじゃないか。


「……今、お前さんの母親は?」


「魔王城の地下治療室じゃ。恐らく母上は無慈悲な実験の材料にされるじゃろう」


そう言って拳を握り、怒りに耐える。よほどお母さんが好きだったんだろう。


「ソラ」


「何じゃ?」


「母親と共に、勇者も差別もへったくれもない世界に生きたいか?」


ソラは「いきなり何を」と言って問い返すが、俺は答えを聞き出す。

数秒の間、沈黙が続いた。


「……それができれば、叶えて欲しいものじゃ」


「可能だ」


一瞬、辺りが静まり返り。


「「「は?」」」


3人の頭上に?が浮かんだ。


「可能だと言ってるんだ」


「え?どういう事だ隊長!?」


「逃げ道の大半は塞がれてるんですよ!?」


「ああ、『この世界』のな」


「「「!」」」


この世界の逃げ道は大半が塞がった。だが、全てではない。

この世界で逃げ道がなくなったのなら異世界に逃がしてやればいい。






そう―――『異世界亡命』だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る