第10話 結衣と火種の実力
翌日、いつもの通り早く起き、朝食の支度を始める。
一人からいきなり三人になったから作る手間がかかるが、不思議に手早く済む。
何だろう、体では面倒くさい気が出てるのに妙に嬉しさが勝っている。
俺自身喜ぶのはいつ頃だろう?もう覚えてないな。
今日のメニューは少し良くしてみた。
卵焼きにネギと豆腐の味噌汁、トマトサラダに沢庵だ。
ちょっと豪華すぎたか?しかしこれじゃあ主夫だな。
「……それも悪くないか」
おっと口に出してしまったか、まぁ二人ともぐっすりだったからいいけど。
準備を終えたとたん、居間の扉が開く。
茶の間に姿を見せたのは結衣だった。欠伸をした後、「うーす、隊長」と半分眠たそうな声で言う。別に今日は休暇だし、別に早起きしなくてもいいぞ?
次に火種が起きてくる。武の家系だからてっきり俺より早く起きて、剣の修行をしてるかと思ったが、彼女は彼女のルーチンワークスでもあるのだろうか?
「今日の朝食、豪華だな」
「あー……確かにな」
流石に違和感を覚えるか。自分でも思ったから当たり前だよな。
取りあえず、レクス様の連絡を待ってみる。
また急用ができたら準備できない。一応、朝食を食いながら。
それから数分後。
「ふむ、連絡がない。となればアレができるな」
「アレとは?」
「新しい遊びか?」
遊びというのかコレは……?まぁざっくり言うと。
「パトロールだ。国周辺だがな」
その言葉を聞き、結衣たちはズッコケる。
別に変な事は言ってない。このパトロールには意味がある。
無許可による侵入者の捕獲、国の周りで起きてる出来事の解決。
それぞれ意味を成してるのだ。
それに丁度良い。二人の実力をこの目で拝めるという訳。
早速レクス様に連絡だ。
*
レクス公国外、自然エリア。
此処は森林が多く、深い森で覆われた地帯でもある。はっきり言うと未開拓地点だ。そんなある所に俺達は足を踏み入れていた。
「それじゃあ、アタイらの実力をこの森で試すって訳かい?隊長」
「そうだ。今後、野外における任務が多くなるだろう。結衣は特殊部隊員だから慣れてると思うが、油断は禁物だ。初心に帰ったつもりで励んでくれ」
ファンタジーの世界じゃ地球の知恵は効くが、効かないのが幾度かある。
昔の俺も良くここで野外訓練をしてたっけ。懐かしい。
「よし、先ずは装備の確認だ。全員。武器や道具を持ったな?」
「あるぜ」
「問題ない」
全員準備完了か……これは楽しい訓練となりそうだ。
「よし!次は辺りを索敵しながらこの森の最深部を目指すぞ!」
「最深部を目指すのか……腕が鳴るねぇ!」
「この森での鍛錬。楽しめそうだ」
二人ともやる気は十分か、この世界にも魔物はいるからな。討伐対象の魔物もいるから、コンビネーションの訓練にもなる。
この国外訓練は割と得する事が多いからな。やらなきゃ損だ。
俺も気合を入れ、ハンマーと長刀を持つ。早速訓練だ!
*
森に入って30分後。
「そっちにゴブリンが行ったぞ。結衣」
「おう!任せな隊長!おぅらぁぁぁ!!!」
向かってきたゴブリンを結衣が接敵する。ゲームやファンタジー小説では雑魚の魔物として登場するゴブリンいえど、油断は禁物だ。その程度でやられては困るからな。
「ギエー!」
「行くぜぇ!」
互いの闘志がぶつかり合う、結衣は拳を振り上げ、能力を行使した。
「【
握りしめた拳が振り下ろされ、地面に直撃する。
瞬く間に地面が割れ、ゴブリンが割れ目の中に落ちていった。
それが終わったと同時に割れた地面が元に戻る。
「ハッ!相手にもなんねぇな!」
うんうん。この程度じゃ緩すぎるか。次はもっと強い魔物と戦わせてもいいかもしれんな。
*
それからさらに30分。
洞窟近くにて、俺達は戦闘を繰り広げていた。
「やべ!ジャイアントスネークを逃しちまった!」
丁度いい。火種の実力を見るチャンスだ。ナイスだ結衣。
俺は念話を使い、火種に連絡する。
『火種、そっちに獲物が行った。倒せるか?』
『問題ない。先ほどブラックベアを屠った頃だ』
ほう、随分と余裕だな。楽しみだ。
「後を追うぞ」
「了解だぜ!」
逃がしたジャイアントスネークを追っていると、火種の声が聞こえた。
「ここで断ち切る!」
目の前に映ったのは、刀を鞘から抜き、上段の構えに切り替える。
かなり刀剣術に長けてるように見えるな。いや、長けてるのか。
「【
刀に、火種の体全身に炎が纏わり始め、文字通り炎のコートだ。
成程、まさに使いようか。
「征くぞ!」
ジャイアントスネークは火種を食おうと口を開けて襲い掛かる。
恐らく丸呑みする気なのだろう。
それに臆さず、火種も突撃する。
刀を振り上げる。巨大な蛇の毒牙が襲い掛かる瞬間、火炎と共に一閃が走った。
「ほぉ……すごいな」
ジャイアントスネークが黒こげの状態で左右真っ二つに割れて死んでいた。
火種の斬撃も炎属性だから、鎌鼬にも焼夷効果がある。正直危ないが、気を付ければ……。
「隊長!」
火種は刀を捨て、ライフルを構える。
「【
引き金を引き、ライフルの銃口から赤い光線が発射された。
赤い光線は俺の頭上を通り抜け、背後の何かに被弾する。
バサバサと木の枝に落ち、俺の足元に魔物が落ちる。
「ここまでやるとはな」
咄嗟に魔物の方に振り向き、調べる。
半裸で、鳥のような翼と足を持つ魔物、ハルピュイアか。
木の上に隠れていた事は気づいていたが、火種が反応して撃つのは正直びっくりしたな……。
*
「ここが最深部だ」
あれから数時間、魔物を倒しながら進み。最深部に到達する。周りは広い場所で、奥には石碑らしきものがある。
「隊長、この石碑は何だ?」
「訳の分からぬ文字が並べられてるな」
「これはセラエノモノリスと言ってな。書いてあるのは地球の文字じゃあないよ」
一応解読済みだが、ややこしいので省くな。
「うん。訓練はこれで終わりだ。二人とも、よく頑張った」
「終わったか……」
「ふぅ……隊長は普段の任務時、こんな奴らを相手にしてるのかよ…」
「魔物だけじゃないぞ?魔王や神様とタイマンを張ったもんだ」
二人は「神とも戦うのか!?」と驚きの反応を出す。
間違っちゃいないがな。
「だが、討伐対象をちゃんと撃破してるから、実力は理解できた。まだ力をうまく発揮できていないところはあるが、任務と訓練を重ねれば強くなれる。後は努力と連携があれば、倒せない敵はいないさ」
「何か三流ヒーローが言ってそうなセリフだな。それ」
あ、バレてたか。
「では帰るか。行くぞ……って火種?」
違和感を感じた俺は火種に近寄る。
「どうした?」
「あ、ああ…大丈夫だ」
顔色が悪いな。能力の使いすぎか?確かに覚醒したばかりの力の扱い方は、最初のうちは難しいし、体力の消耗が激しい。ちょっと無理をさせ過ぎたか。
「仕方ないな」
俺は火種を横に抱き上げ、お姫様抱っこ状態にさせる。
「?!?!」
抱き上げたとたん、火種の頬が赤くなる。
「た…隊長!?何を!?」
「何ってお前さんを連れ帰るんだが?結衣、援護を頼んだ」
「おう!羨ましいねぇ、火種は」
「な!?」
羨ましい事なのか?
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