二人の部下
第8話 入隊者
あの事件から一ヵ月後、俺は再びレクス城に呼ばれる。
一年くらい休みを与えると言っておきながら、呼び出しを喰らうだなんていつ振りだろうか?
コツコツと廊下内を歩く、特別指令室に近くなっていくほど、会話が聞こえる。
誰か指令室にいるんだろうか?
俺は入らず、途中で足を止めて会話の内容を盗み聞く。
「それにしてもさぁ、アタイらの上司はどんな奴だ?」
「噂によると男らしいが、相当腕が立つ人物らしい」
ふーん。俺は案内に呼ばれたのかな?なら俺以外の奴に頼めばいい事なんだが、俺じゃないと不安なのか?
それに先ほど聞いた声のトーンや高さ的に全員女性だな。一人は男勝りで好戦的っぽい。また一人は武人だろうか?堅物らしい口調だった。
レクス様は俺を呼んで何をする気だ?手合わせなら訓練所じゃないと此処が大惨事になるし、頭の良さは……うん、勝ってはいないな。取りあえず、続きを聞こう。
「腕が立つっても見掛け倒しの可能性はあるんじゃねぇか?」
「バカな……それならレクス様が休暇中の人間を呼ぶ訳がなかろう?」
「意外と女好きだったりしてな!」
「レクス様の話ではそんな事はないだそうだ」
何かボロクソ言われてるが、俺の職場に弱者はいないぞ?街にいる奴は引退した奴らが集まる所だし、未だ腕は衰えてない猛者ばかりだ。弱者がいたとしてもむしろ珍しがられて、逆に保護される。弱者は軽い労働に回され、安全地帯で悠々自適な生活が約束されるんだが……そんなんで不安を持つ輩はいないと思うぞ?
誰かが悪い作り話でも流してるのか?見つけ次第根絶やしにせねばな。
それに俺以外に休暇中の奴がいるのか?まさかレクス様初の手違い?いや、あの
「それにしても遅ぇな」
「後5分しかないぞ」
「安心したまえ。彼は遅刻してくるような者ではないよ。どこかで悪事を働こうとしてる連中を潰してるんじゃないかな?」
「ハッ!正義の味方かよ!」
「仮にもそうしてるのなら大急ぎで来るはずだ」
「……」
俺以外に法律に五月蠅い奴いたっけ?まぁ確かに俺は鬱陶しいけど、そこまでやってたっけ?困ってる奴を助けたりはしたが、正義の味方気取りは皆無なんだが……。
まぁ考えても仕方ないな。
扉をノックし、答えを待つ。
「入りたまえ」
扉を開け、敬礼する。
因みに俺の敬礼は日本陸軍の敬礼だ。
「失礼いたします。俺に話とは?」
「見ての通りだよ」
近くにいる人影を見る。一人は赤髪の女性。胸がでかい(巨乳ってやつか?)。ドカリと椅子に座って、テーブルの上に足を乗せてる。すごい態度が悪いな。まぁタバコを吸われるよりはマシか。
そしてもう一人。金髪で青眼の少女で大人しそうな感じだ。服装はドレスに甲冑を合わせた実に動きづらい装備。そして近くに刀と古いタイプの銃が置かれてる。刀は恐らく普通の鉄だ。銃のタイプはライフル……ベースは火縄銃か?いや。M14にも似てるし……M1ガーランド?分からんな。
「この女性二人は?」
「彼女らは入隊者だよ。君がいないうちに歓迎会に参加していた人たちでもあるよ」
入隊者か。呼ばれた理由は?
「何、君にできたんだよ」
「???」
「何が?って顔をしてるね?単刀直入に言うと、君に部下ができたって事だよ」
「……は?」
待て、意味が分からん。何で俺が部下を持たねばならないんだ?部下を持ってしまうほどの手柄を立てた覚えは毛頭ない。何かの間違いではないか?
確かに俺の職場にいる奴らは妻子がいる奴らばかりだ。三週間前までは結婚式にも出てやったのは覚えてるが……。
「レクス様。嫌がらせが過ぎます。俺をおちょくるのは構いませんが、エイプリルフールはもう過ぎましたよ?」
レクス様は苦笑し、話を続ける。
「いやいや。この期に及んで僕が君に嘘をつくかい?嘘ならそこの女性は幻影って事になるよ」
そうか……影もあるし、嘘は言ってない……ってそっちじゃない!
「あの、レクス様?俺は部下を与えられるような手柄を立てた覚えはありませんよ?」
「何を言ってるのかね?十分立ててるじゃないか。何億年も」
「いや、確かにやりましたけど。俺はソロでずっと任務を遂行してましたよ!?」
今更になって部下を得るってどういう事だよ!?
「確かに君は今まで部下を持たず、ほとんど単独で任務をこなし、成功を収めてきた。たった一人で異世界に侵入し、現地で多くの人間を味方につけ、そして、その者たちと共に任務遂行し勝利と栄光を齎した。地位も名誉も求めずに」
「……」
「職場の者たちの大半が既婚者なのは、それなりの報酬を受け取ってるからさ。君だけだよ。唯一受け取らずに黙々と任務をこなしてる人間は」
そりゃあ、まぁ……。
「それに、コレは君にとって好都合のはずだ」
「好都合?」
「君は一人で侵入し、道具を作り、味方を増やした。だがそれを成し遂げるのは多大な日時を消費する」
確かに……それには何ヵ月も掛かったからな。
人員が増えるのは喜ばしい事だろう。だがその分、犠牲がでかい。
死にはしないものの、負傷したり、病気にかかったりすれば戦えなくなってしまう。それがいてしまうと任務の進行速度に影響が出るのが目に見える。
さて、どうしよう。
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