#8錬金術師の邁進
そこからの日々はマナの研究に明け暮れた。マナの波形を読みといて計算によってそれぞれ魔素をマナへと変換することのできる魔法陣を生み出すために。
錬金術の鍛錬も続けていたが、そっちはあくまで片手間で魔石をいじっていた。この技術が完成すれば工房も進歩するだろうということでおっさんも言いくるめている。だがさすがにそれでは勝手がすぎるので月に一度研究成果を発表することになっている。
火、水、風、土、光、闇の属性をもつマナの変換には既に成功しているし、最近の課題はもっぱら無属性のマナと生体マナについてである。どちらも僕のコピーを使えば簡単にできてしまうのだが、それではスキルの延長であって誰でも使える魔法として完成していない。
ということで工房内で集めたいろいろな人の生体マナの波形を分析して結果を述べるのだが、言うのをためらわざるを得ない。
なんせ不可能なのだから。
生体マナとはいわば個性なのである。得意な魔法はこの生体マナのパターンによって分かれているというのは前から分かっていたが、いざ生体マナに変換する魔法陣を組もうとしても無理なのだ。
何度方法を変えて計算しても必ず崩壊してしまう。それこそまだ知らない何かの要素を見落としているかのように。この世界を構成する要素だけでは足りない何かがあるようにすら感じる。
しかし魔石から自分の生体マナへと変換するのは容易だった。魔石から魔素を吸収すると勝手に生体マナへと変換されてしまうのである。
そうして行き詰まった状態の発表が片手で数えられる回数を超えた頃、おっさんは魔法学校への招待状を持ってきた。
「小僧、お前はもう工房を出ていったほうがいい」
なんの前触れもない突然のことに反応に困る。
「お前の錬金術の技術は外に出ても恥ずかしくない程度にはなった。ならお前はその研究にもっと勤しめる環境に身を置いたほうがいいと思う。ちょっと前から知り合いのやつに声をかけてたんだがちょうどお前の研究を支えたいってやつがいてな。時がきたんだろう」
僕が何も話せないでいると、おっさんは、返事は分かったと言って招待状を机に置いて部屋を去った。
実際このままここで研究を続けてもらちが明かないとは思っていたし、錬金術もそこそこできるようになって工房で働くことが決まっているわけでもない僕を工房に置いておく意味などもうないのかもしれないと、そう利己的に考えてしまう自分に嫌気が差した。
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