#6 錬金術師の審査

 そうして、2週間ほどたった後。僕の錬金術の修行はまたランクアップして、実践の修行が始まった。地味に初めて錬金工房で作業をする。するとおっさんが何かが入った袋を持って現れた。

「最初に作るのは、何の魔導的加工もないナイフだ。切れ味がある一定以上だったら、合格とする」

「しなかったら…?」

「出来るまで工房に軟禁」

暴力的だなぁと思いながら、工程についての説明を受ける。

「まずこの袋の中の鉄鉱石から、鉄を抽出する。その鉄を適当な密度に圧縮して、ナイフの形に形成する、それだけだ」

「形成の方法は…?」

「自分で考えろ」

この場合の自分で考えろは、押し付けではなくて、自分でできるだろという意味だろう。楽観的に受け取らないとこの人と話すのはしんどい。

それだけ言ったら見張りのレールさんを置いておっさんは去って行った。


 とりあえず、一度石を【解析】で確認する。見た目からしても、粗悪品の鉄鉱石だったが、【解析】にかけてみると、それは予想以上にヤバイ石だった。鉄は酸化したものと、硫化したものが混ざっていて、その濃度は極めて低い。ナイフ作りには大きすぎると思ったが、使える鉄の量はサイズがギリギリである。

 まず、最初に鉄を取り出す必要がある。解体用の錬金陣を机の上に魔力線で描く。

一番内側に解体を指示するルーンを刻む。その外側に分離する三つの物質の錬金式を刻む。錬金陣には生体マナを貯めることが出来ないので、魔石をそれぞれの六芒星の角に置く。魔石には魔力を取り入れる機能があるので、陣を消さない限り、その効果も消えない。

 鉄鉱石をその陣の上に乗せるとすぐに分離が始まる。分離は同時には行われず、少しずつ物質ごとに分離されていく。錬金式を酸素、硫黄、鉄の順番で描いたため、まず酸素が鉄鉱石から排出される。そして、硫黄も分離して鉄だけが塊となって陣の中心にたまっている。酸素は空気中に放出されたが硫黄は分離しただけなので陣から出しておき陣を解除する。

 次に出来た鉄を次はナイフの形に加工していくために混合用の陣を描いていく。混合用の陣は形が一つしかないので簡単である。魔力線で六芒星を描き、真ん中に形成のルーンを刻む。そして、さっきと同じようにそれぞれの角に魔石を置く。そこに鉄を置くと鉄が液体のようにグニャグニャになる。最初は粘土で形作るように大まかな形を手で形成していく。大まかな形を決めたら、物質の硬さを少し増して細かい調整に入る。持ち手の部分まで鉄で作ってしまうから重心が刃先にならないように、柄の部分の厚みを多めに取り、刃を薄くして片刃にする。別にその種類の指定されていないので作りやすい方でいいだろう。そして、最後に刃に十分な切れ味を持たせなければならない。鉄だけで切れ味を持たせようとするならば一番手っ取り早い方法がある。刃先の凸凹を極限まで減らせばいい。今の状態の鉄には切れ味は無いので、魔力を纏った指で少しずつ凸凹を減らしていく。ある程度までやったところで完成とし、陣を解いておっさんを呼んだ。


「おお、出来たって?」

「はい」

「よしっ、さっそく見せて見ろ」

ナイフを手渡すとおっさんは少し驚いた表情をした。

「こんだけしか鉄が無かったのか?」

「質の悪い鉄鉱石だったので」

「本当か?」

とずっと見ていた工房の人に聞くとその人は頷いた。

「すまんな。それは」

「いえ、別に出来たので何も問題は」

「だから、片刃なのだろ?作りにくかっただろうに」

とか、ぶつぶつ言いながらおっさんはナイフを見ていく。そしてストレージから魔獣の皮を出して適当にカットしていく。

「うん、まぁ、及第点ってとこだな」

「ありがとうございます」

と礼をする。すると、後ろから工房の人に話しかけられる。

「この人が及第点なんて言うのは凄いことだぞ」

だろうなと少し思いつつその人に笑顔を返した。

「じゃあ次のステップに進むか。次は魔導回路について勉強してもらう。まぁ、最初は座学だ。さっさと覚えて実践に移れよ」

「はい」

ということで、序盤の課題はすべてクリアできたことになった。こんな速さで習得できたのは僕の力ではなくて、おっさんの実力が凄いからだろう。感謝しかないな。

 そして修行は更にランクアップし魔道具の作成についても学び始めることになった。そしてやっぱりおっさんは講義しないらしく、レールさんがやってくれることになった。


「まず魔導回路の道、魔力が流れる回路の部分には何が使われると思う?」

そんなこと急に言われても知っている訳がない。

「魔石…、とかですか?」

「うん、それは三世紀くらい前の話だね」

一応あってはいたが、三世紀って絶対この時代で使われてないだろ。

「実は今の回路には物資が使われていないんだ」

何言ってんだこの人…。

「そんな引くような顔しなくても…、ちゃんと説明するからね」

僕は一体どんな顔をしていたのだろうか。

「まず魔道具は、魔力を吸収して貯めるための魔石と魔法陣により魔法を行使する可部分に大まかにわかれている。つまり2つが完全に繋がっていれば回路は要らないんだ。そうだね、分かりやすいので言えばランプとかになるかな。魔素を取り込む魔石と光るための陣が一体になってるよね。ではもし2つの部分の距離が離れたらどうすればいいのかっていう話だけどね。陣を無理やり引き延ばして魔石にくっつければいいんだよ」

何を真面目に講義してんのかと思ったらまさかの力技で面を食らってしまった。

「いや、驚くのもしょうがないよね。まぁ、実際無理やり引き延ばしてるだけだから効果が弱くなりやすくなってしまうんだ。だからそれで魔素とエネルギーが消失しにくい方法をこれから話すよ」

そっからは眠たい話が続き過ぎてよく覚えていない。というか引き延ばさなくてもよくなる魔道具の作成について考えていた。魔素が通るための道が薄くては良い効率でエネルギーに変換できない。つまり燃費が悪い。【解析】で家の魔道具を見ていた限り今の主流はもうじき頭打ちになってしまうだろう。だが、いささか知識がまだなさすぎる。そっち方面について調べることにしよう。幸いにも古代の精霊が近くにいるしね。


 ということで夜寝る前にアキナに聞こうと呼ぶ。

「アキナ~。ちょっといいか?」

するとルリの鏡台の前で髪をとかしていたしたアキナはその手を止めてこっちにやって来る。精霊なんだからする必要ないだろとちょっと思ったが堪えておく。

「はい。マスター。何ですか?早めにしてくれませんと寝てしまいますよ?」

ああ、そうだった。忘れていた。

「まぁすぐ終わることだから」

「そうなんですか」

と話しながらベットにやってきて女の子座りをする。こういう姿を見ると本当にただの女の子にしか見えない。

するとアキナが首を傾げた。呼びつけたのに話を始めないからだろう。見つめていたことは気付いていないようだ。

「あっそうそう、魔道具について知りたいんだ。えっと、今の時代にあるやつじゃなくて昔の魔道具ね」

「わざわざ言わなくても分かりますよ」

とアキナはくすっと笑う。別にそんなこと言う必要ないじゃないか…。

すると昔の魔道具ですか…、なんて独り言を言いながら少し考えこんでいる。そんなに考えなければならないものなのだろうか。

「うーん、えっと、そうですね。日常生活で使ってたとなるとランプとかになるんですかね。戦闘で使われてた魔道具となると凄いしょぼいのしかなかった気がしますけど。魔法障壁とかでも一撃で術師ごと吹き飛ばせるような残念なものばかりでしたし」

と笑っている。だがそれは今も名を馳せている魔術師のマキナだからな気がする。

「ああ、でも1つだけ凄く性能の高い魔道具がありましたね…。あれは確か人型の魔物、いやホムンクルスに近い魔導生物が持っていたもので、1つしか魔道具を使っていないはずなのに多属性の魔法の攻撃が出来て、障壁もはってましたね」

そんな魔道具、僕は一度も聞いたことがない。魔法式を1つの道具に詰めようとおもったら相当の大きさが必要になるし、使う魔素の量も異常に多くなる。もしかしておっさんも知らないんじゃないか?

 そしていつかアキナが言っていたことを思い出した。

『魔法はそれぞれの個人が違う使い方をして、開発していくものであると』

つまりその魔導生物は錬金術を新しく生み出したのではないか?現に体内で錬金術を使う魔物はスライムとかゴーレムとかこの時代にもいる。そこに知性が生まれれば人間と同じように錬金術を使えたとしても全然おかしいことではない。

「でも、その魔道具ある程度使ったら壊れちゃったんですよね。そしたらその魔物も消えちゃったんですよ。今思えば不思議だなぁ~」

当時は特に何も感じていなかったらしい。まぁ魔導具自体がさっき言ったような残念性能なんだろうし。だとしてもその魔道具には今の魔道具を改良するヒントがあるかもしれない。

「それで、マスターは何をしたいんですか?」

とキラキラした目で聞いてくる。

「え?何をって?」

考え事をしていたから一瞬は二を言っているか分からなかった。

「だから魔道具について私に聞いて何をなさるつもりなんですか?」

「今の魔道具は魔石と可動部のつなげ方が適当で効率が良く無いんだ。それで魔石から取り入れた魔素をどうにか燃費よく可動部に伝えられないかなって」

「それは単純じゃないんですか?接続のためだけの陣を増やせばいいんじゃないですか?」

「それもそうなんだけど、そうするとその陣に魔素を送る用にもう1つ魔石を増やさなきゃいけないんだ。それぞれの陣で使う魔素の性質が違うから分けない作動しないんだよ」

「じゃあ、魔素の性質を変えるための陣を作って、それに魔石で変換した魔素を流せばいいんじゃないですか。でもそれじゃあ魔素の損失が起きますよね…」

さすが『赤髪の女魔導士』と言うべきだろうか。今の錬金術師ではそんな発想には至れないだろう。

「そしたらその魔素を変換する陣を作らないと。次の週末にでもするか…」

「工房長に教えなくていいのですか?」

「だって教えたらその研究成果は工房のものになるじゃん」

「意外とマスターは強欲なのですね…。まぁいいです。それなら陣の形成だけだけ私も手伝います!」

その日から講義は見た目だけしっかりと受けいよいよ週末を迎えた。



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