#2 錬金術師の開始

 そうして、僕は早速、工房を見学させてもらうことになった。工房の半分ほどの面積は武器製造に使われ、半分は魔道具制作に使われていた。といっても錬金盤が並んでいるだけの殺風景な風景にしか見えないが。

「そして今日から俺は教育係ってやつだ。でも、まぁ、日常生活のことには首突っ込まねぇから、それは自分でどうにかしろ。部屋は散らかさないようにな。姉貴、ああ寮母さんにキレらっれっから」

「はあ」

経験した口調で言ってるし、多分おっさんの部屋は汚いんだな。

「だが、工房ではお前の師匠だ。まぁ、一人前って呼べるようにしてやるから、それは安心しとけ」

凄い自信だなと思いつつも僕は頷いた。

そしてついてすぐなのにおっさんは錬金術について語ってきた。

「じゃあまず、錬金術では何が一番重要だと思う?」

おっさんに言われ一瞬考えこむ。錬金術で一番大事なのは、その工程を知ることだろう。ならば一つしかない。

「錬金式ですか」

錬金式とは加工前の素材の魔粒子配列を示したものから、順番に使う陣によって、物質が変わっていく最中の素材を素材式を繋いで、完成形までを示す、計算式のようなものである。

「まぁ、魔力制御って言わないだけ、及第点か」

この人そう言ってたら、キレる気満々だったんだな。

「じゃあ、錬金式を書くためには何が必要だ?」

紙とペンって言いそうになったが、そうするとキレられそうなのでやめる。

「素材の知識と、錬金術の知識ですかね」

「そうだな。それも大切だな。だが、錬成した物質の知識も無いとな。錬金術も魔術だから、イメージが無いと使えないぞ」

「なるほど」と頷く。

「ということで、お前には一ヶ月かけてこの世にある、よく使う素材全ての錬金式と特徴などを覚えてもらう」

そう言って、おっさんは【ストレージ】から素材を出して作業中の人を呼ぶ。

「おーい、レール、ちょっとこっちこい」

すると工房の奥から青年が顔を出し、は-いと大きな声で返事をしてやってくる。

「ここの連中はみんな覚えてるからな」

とおっさんは収納魔法【ストレージ】から鉱石をだした。その鉱石には見覚えがあった。

「この鉱石の式と特徴を答えてみろ」

とおっさんが言うと、レールさんはすらすらと話し始めた。本当に覚えているのだろう。

「それは、トラコナイト希石で錬金式は#######、魔素の抽出や、挿入に使用します」

「と、まぁこのくらいは言えるようになってもらうぞ」

「本当にそれだけでいいのですか?」

それだけじゃ、その素材を知ったというには少なすぎるだろう。

「何だ?」

「トラコナイト希石は魔素濃縮度85%、半透明の火成岩で280G以上の力や、350度以上の熱で気化し、魔素に還元される。一定量の魔素を流すと光り、その光り方は魔素の性質によって決まる。生体マナの場合は黄色に、外気魔素の場合は白色に光る」

「よくおぼえてるなぁ。小僧」

おっさんの中でお前から、小僧にランクアップしたらしい。

「まぁ、覚えてるならいいことだ。だが、他の鉱石まで覚えてる訳じゃないだろ」

「はい。第二種錬金鉱石までしか、覚えてなくて」

スキル【解析】を使用をする練習のために、家にあった鉱石とか植物とかは何回も訓練を積んだので暗記している程に覚えている。第一種錬金鉱石は銅や鉄などの治金でも加工できる鉱石で、第二種錬金鉱石は希石や魔石などの錬金によって加工できる鉱石である。第三種錬金鉱石はほとんど使う機会はない。

「おお、第二種までか。なら、一から教える必要はないな。じゃあ、明日からの座学では錬金式を学んでもらう」

「はい」

座学以外の訓練が果たしてあるのだろうかとおもいつつ返事をする。

「そういうのは、早い方がいいからな。錬金術は実践が一番だからな。じゃあ、今日はもう休め、明日から早いからな」

「はい」

「それと、魔法と体術も一通りはやってもらうからな。その様子だと形意文字も使えるだろ。じゃあ、実践の相手は俺がやってやるぞ」

「ありがとうございます」

 錬金工房では、武器を使う必要もないから実践訓練なんて無いと思っていたが、あるなら嬉しい。昔思った夢に近づいている気がするから。

「じゃあ、今日は休めよ」

そう言っておっさんは工房へ行ってしまった。寮の場所教えて貰って無いのに。すると、レールさんが教えてくれた。

「あの人、ズボラだから」

とはにかみながら。


 寮は工房から歩いて三十秒で、走れば三秒の場所にあった。寮は三階建てのコの字型をしたレンガ造りの洋館だった。。

 入ってすぐに食堂があって、寮母さんが食事の片付けをしていた。多分、寮自体が工房の食堂を兼ねているだろう。丁度昼過ぎの時間である。

「すいません」と声を出して食堂に入る。

すると、はーいとテーブルを拭いている手を止めて、寮母さんが腰のタオルで手を拭きながらやってくる。

「君かい?新入りってのは」

「はいエルトミア=ローグです」

「やあ、歓迎するよ。私はこの工房寮の女将アキだ。工房のやつからはアキ姉とか姉貴とか呼ばれてるよ。お前さんもそう呼んでおくれ。部屋へ案内するよついてきな」

とアキ姉さんと一緒に食堂から出て階段を上り、三階の端の部屋までやってくる。

「ここがあんたの部屋だよ。たまに見回りに行くから、汚くしないようにな」

「はい」

おっさんの言っている通りである。

「ああ、そのうち相部屋になるかもしれないけど、その時はよろしく頼むよ。じゃあ、荷物は運んどいたから~」

とアキ姉さんは階段を下りて行った。まだ食事の片付けが終わっていなかったようだし何かと忙しいのだろう。


 部屋にはベット、机、クローゼットが左右対称に二つずつ並んだ相部屋だった。右側に荷物が置いてあったので、恐らく僕の範囲は右側なのだろう。

 持ってきた鞄の中から陣の書かれた羊皮紙を出し、机に広げる。そして魔力を流し収納魔法を起動する。その中にはあらかじめ本や、服などを入れておいたので部屋に並べていく。元々持ってきた量も少なかったので片付けは半時もかからなかった。

 特にすることもないので、いつもしている魔力制御の練習をする。魔法陣を順番に展開していくだけであるが。

 まず、第一陣を起動する。第一陣はシンプルな六芒星の形をしていて、常に右回転で回っている。魔道具を起動するときなどに使う、【魔力動作】のスキルが無くても使えるものである。

 続いて、第二陣を形成する。第二陣は六芒星の周りを二重線で囲い、その線の間に三角形と逆三角形をはめ込んだ形をしている。第二陣では、魔力に方向性を持たせることができ、属性によって、火は赤色、水は青色、土は茶色、風は白色、光は黄色、闇は紫色と別々の色を示す。今回は風を選択したので陣の色は白である。

 さらに、第三陣を形成する。第三陣は第二陣の外側を三十線で囲い、その一番外側の線で、中心の六芒星のそれぞれの頂点を外側に複製して、より大きな内側とは逆の左回転している六芒星の形となる。第三陣では魔法に対して収束や拡散、限界があるが方向性や範囲なども指定できる。今回は自分の前に、机がある方に向かって拡散するように威力室内なのでなるべく抑えるよう設定する。

 更に、第四陣を形成する。第四陣は第三陣の更に外側を二重線で囲い、その間にその魔法の魔法式が刻まれている。第四陣に魔力を流していくと、徐々に陣が輝きを帯びていき、輝きがあふれ出しそうになったところで魔法が起動する。小規模の魔法なら、魔力をためる時間はそんなにいらないため、すぐに魔法が起動準備状態になる。途中で魔力を流すのをやめると陣はその体裁を保てなくなり、魔素として霧散する。

 最後に、起動用の陣を形成した陣の外側にかぶせて、魔法を起動する。

 陣から、弱い風が机に向かって吹いた。成功である。近距離即時詠唱魔法には更に第七陣まであるが、家にそれが記された魔導書はなく、まだ習っていないので僕に扱うことは出来ない。

 すると吹いた風によって、机の上の物が倒れてしまった。倒れたのは真っ赤な勾玉だった。この寮にもしっかり持ってきている。お守りにしてるしね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る