錬金術師の修行時代

#1 錬金術師の出向

 貴族街を出ることが危ないことだと分かっていたので平民街の方へと走らなかったが、それでも貴族街は広い。ここが何処かなんて分かる訳も無かった。

 そしてそれから、あてもなくぶつぶつと独り言を漏らしながら歩いていた。

「なんで、こんなことになるんだよ」

何故かなんて理由なんてないことを知ってるのに

「神様の加護なんて、嘘っぱちだ」

それをついさっきまで信じていたはずなのに

「ずっと僕ばっかり、こんな目に」

決して不幸なことなんて今まで無かったのに

「もういっそのこと…」

「なんてばかばかしいことを」

 すると後ろから真っ赤な黒髪の少女が話しかけてきた。赤を基調とした黒色のドレスを纏い、勾玉のようなデザインが刺繍された布を首輪のようにつけている。

「きみ相当に病んでるね。私と一緒に来ないかい?いいことしようじゃないか」

「誰だ?君は」

「僕かい?僕は君の救世主と言ったところかな」

「救世主?」

「ああ、君を救う存在だ」

臭すぎて笑える。誘拐犯でももう少しうまくやるだろう

「うさん臭すぎるよ。もっとましな誘拐の方法は思いつかなかったのか?」

「そうではないのだよ。君のことを思ってのことなのだよ」

なぜか話していると、少し気持ちが晴れたような気分になった。

「そうなのか。でも僕からすればまだ不信感が拭えたとは言えないんだけど」

「全くのその通りだね」

「自覚しているのか」

「ああ、その上での提案だ私についてこい」

「嫌だな」

「ならせめてこれだけでも受け取って下さい」

その少女がそう言うと魔法陣を展開して、僕に何らかの魔術を施した。僕は勝手に発動された【解析】でその少女について調べていた。

《結果》 精霊・???

すると、遠くからお母様が探している声が聞こえた。何かしてもらった覚えはないが何となく感謝しようと思って振り向くとそこにはもう誰もいなかった。

 そして僕はお母様に見つかり、家に帰されることとなった。家に帰ったらポッケに赤い勾玉が入っていた、その美しさはこの世ものとは思えない様なものだから、それ以来、お守りとして持ち歩くことにした。赤色はかの英雄に仕えた魔法使いクロス=アキナの象徴であり、守られている気がした。


 それから一週間、僕は結局立ち直ることもなく自分の部屋に閉じこもっていた。ただ、スキルについてどうこう思っていたわけでは無くて、途中からはあの少女のことしか考えていなかった。

『彼女は誰だったのだろうか。精霊とは何なのだろうか』

そんな調子で家にある精霊や神に関する資料を読みあさっていた。しかし、そんな名前の神様はおろか、精霊もいなかった。

 だって資料の神様や精霊は実際に見たわけじゃなくて、信仰のために人が作り出したものなのだから。

 そしてもはや引きこもりも止めて半月立った後、僕は調べるのを諦めることにした。というかそれ以上に重要なことが始まった。

 僕は将来の就職のため、修行を始めた。修行といっても、すぐに魔術や錬金術を学ぶわけではなく、基礎の学力や体力を身に着ける所からである。専門的なことは二年後、出向してから行う。


 その世界の文字は主に、音から形成された【形成文字】と、文字自体が意味を持ち決まった読み方を持たない【形意文字】の二種類がある。日常生活で使うのは【形成文字】の方でこれさえ覚えていれば普通の日常生活を送れるだろう。そして【形意文字】は主に魔術を行使するために使用されている。例えば、魔法陣を形成する文字はこちらである。そして、僕は目指す職業柄、二つの文字を両方覚える必要がある。

 そして、体力づくりの方はもっと単純だ。毎日走り込みをするだけである。まあ、子供が魔力を制御するためにはある程度の体力が必要なので惜しむことなくやっているが。


 そうして二年間はあっという間に過ぎた。単純作業程、辛いことなどないだろうと体感していた。 そうして、二年の修行を終えた僕は錬金工房での修行に移ることになった。修行する工房は国で最高峰と呼ばれるインカテラ工房である。

「お父様、お母様行って参ります」と別れの挨拶をする。

長くいると家族が恋しくなりそうなので早めに歩く。するとそれを感じたお父様は、気を付けろよとだけ言って早めに屋敷に戻ってしまった。僕にはそれがうれしかったし、優しさだって気付いたけど、妹と姉様は気付いていない様で馬車の後ろの窓から覗いて見たら、ふてくされていた。


 そして四年間の修行の旅は始まりを告げた。

 そのまま馬車はある程度整備された街道を進み、王城のある王都へ向かった。王都の街並みは今までいたへルティア領と違い、更に整備させれた街だった。

 魔術による街灯が均等な間隔で並び、水路が街を走っている。そして馬車は街の中心部に向かっていき、そこに目的の工房はあった。それは工房とは思えないほどの大きさの屋敷だった。前で降ろされると、そこにはムッキムキのおっさんがいた。

「おい、お前、俺見てキモいゴリゴリのマッチョおっさんだと思っただろ」

「いや、お、思ってないですよ」

図星すぎて反応に困る。

「それは、思ってる口だな。出会って早々無礼なやつだ」

「すいません」

僕は多分物凄く嘘が下手なのだろなと感じる。

「まあ、いい。お前がエルトミア=ローグか」

「はい。そうです」

「まあ、入れ、案内するぞ」

と言われても、この人が誰かも分からないままである。

「あなたは誰ですか?」

「ああ、挨拶がまだっだたか、俺はインカテラ工房工房長、カルマラ=ストライトだ」

「はい。ストライトさんこれからお願いします」

「いい、返事だ。よろしくな」

そういって、拳を突き出してきたので、僕も合わせて突き出した。

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