8(推理編)
「それじゃあ改めて確認するが、君が部屋を出たのは五時五十分頃。そして間違いなく六時になる前には部屋に戻っていた、と」
「ええ、その通りです。そうだよな、皆」
周りの皆も頷いてくれた。既にカードゲーム部と美術部のアリバイは確認がとれており、この場にいるほぼ全員のアリバイが確認できたことになる。そう、柳沼ただ一人を除いて。
「さて、これでも言い逃れをしますか、柳沼さん」
ぐうの音も出ないとはまさにこのことだろう。プルプルと体を震わす柳沼の姿は、まさに負け犬のそれだった。誰もが柳沼の弁解を待ちわびているであろうその時、意外なところから横槍が入った。
「あのー、お取り込み中に申し訳ありません、警部」
それは今までどこにいたのか、随分と気弱そうな警官だった。
「なんだ牛尾。用事なら後にしろ」
牛尾と呼ばれたその警官は、秋捨警部の言葉におどおどしながらも、答える。
「はー、そう思いまして、さっきまでずっと待っていたんですけれど、流石にそろそろ彼女を待たせるのも悪いかと思いまして……」
「彼女だと? 一体誰が待って……」
牛尾さんが示す方向を見た瞬間、秋捨警部の言葉が止まる。つられて視線を向けた僕たちもまた同様に絶句する。
そこにいたのは高山さんだった。
「はあ、何でも彼女、忘れ物があって、それを取りに戻ってきたらしいんですが……」
ここにいた人については、皆のアリバイが確認されている。そう、ここにいる人については、だ。既に帰った人物についてのアリバイは確認されていない。
「……さて、君はどれくらい今の話を理解しているんだい?」
秋捨警部がそれまでとはうってかわった親しげな口調で問う。
「そうですね、アリバイが無いのは柳沼先生と私だけだって程度には話を理解していると思います」
それを聞いて秋捨警部は深いため息をつくと、皆の方を向きなおってから告げた。
「皆さん、今日のところはお帰りいただいて構いません。後日、また詳しい話をお聞きすることになりませんが、その時はご協力お願いします。ああ、高山
それは考えうる限り最悪の展開だった。
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