4(事件編)

 山崎先生はうちのクラスの担任であり、団子にした髪と柔らかな印象を与える丸眼鏡がパッと目につく、スラリとした長身の女性で、はっきり言ってしまえば美人の部類に入ると思う。教師としては二年目で年齢が近く、また、本人の明るい性格も相まって、生徒からの人気はかなり高い。もっとも、僕にとってはそれだけではないのだけれど……まあそれについてはここで語る必要はないだろう。

「はい、この調子で頑張れば、明後日には十分間に合います」

 先生の質問に対して、皆を代表して、鈴木さんが答える。とはいえ、未だに元気に溢れているのは彼女くらいなもので、他の皆はもうあまり頑張る気力が無いのは傍から見て明らかだ。先生もそれに一目で気づいたらしい。

「頑張るのもいいけれど、ほどほどにしておきなさいね。それで体壊しちゃ元も子もないんだから」

 苦笑交じりにそう告げる。それを聞いた皆が一様にホッとした表情を見せる中、唯一鈴木さんだけは不満げな表情を見せているが、今更気にするほどのことではない。

「でもまあ折角だから、皆の努力の成果を見ていきましょうか」

 そう言って、一歩を踏み出そうとした山崎先生に待ったをかける。

「あ、その前に先生、今の時間、教えていただいていいですか?」

「え? 今の時間?」

 問われた先生はチラリと自分の腕時計に視線を走らせ、

「六時十分前よ、あら?」

 時間を告げてから、何かに気付いたように声をあげると、山崎先生は微かに含み笑いをして見せた。

「どうかしました?」

「ううん、こっちのことだから、気にしないで」

 先生の態度はちょっと気になったが、こちらもあまり時間がない、ありがとうございますと告げて、すぐに部屋を出ようとドアノブに手をかけようとしたところで、

「ちょっと大佛君! どこに行くつもり!」

 案の定、鈴木さんが声をかけてきた。一瞬、柳沼先生に鍵を返しに行く、と言おうかと思ったが、写真部でよくこの特別校舎を使う僕と違って、バレー部の鈴木さんにはここの仕組みはよく分からないだろう。だとしたらそれを一から説明するのは面倒だ。そんなわけで、

「ちょっとトイレ! すぐに戻るよ!」

 それだけ言い残して部屋を飛び出した。それにトイレに行くというのも、決して嘘ではない。

 部屋を出たついでに中庭の時計を確認しておくと、先生の言うとおり、時計は五時五十分を指していた。

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