第17話

「秀之助、浪士隊の選別は大丈夫か」


「お任せください兄上。

 水戸家系の尊王派浪士は、兄上が新たに創設された尾張黒鍬衆に任命して、全員蝦夷に派遣致しました。

 何があっても江戸や京で暴れる心配はありません」


「そうだな。

 南蛮が攻め寄せた機に乗じて、討幕運動を起こされてはかなわん。

 蝦夷地を抜けだすようなら追手を放って殺す」


「はい、兄上」


 徳川慶恕は、誰よりも信頼する松平武成を江戸に常駐させ、全てを相談していた。

 その様子を江戸にいる弟達に見せ学ばせていた。

 今回打った手は、上覧武芸試合で優秀な成績を納めた者で、尾張家に仕官することを望んだ者達に対する処遇であった。


 徳川慶恕が何よりも恐れているのが、水戸家の尊王思想だった。

 徳川御三家の一つ水戸徳川家が、幕府より皇室を重んじることを危険視していたが、徳川松平一門内で表立って争う愚も分かっていた。

 そこで裏で水戸家と尊王を封じる策を考えた。

 それが尊王浪士を懐柔する事と、懐柔できない尊王浪士の蝦夷流しだった。


 尾張家黒鍬衆には十五俵一人扶持が与えられ、更に十町の開拓地が与えられる。

 しかも屯田兵の役割が与えれれ、武具鉄砲が貸し与えられる。

 それだけではなく、開拓に役立つ馬まで貸し与えられるのだ。

 だが当然、露国軍が攻め寄せてきたら、命懸けで戦わなければならない。

 危険だが、開拓に成功すれば、地行百石の上士、騎乗士となれるのだ。

 ただやらねばならない義務として、開拓のために貸し与えられた馬は、繁殖させて仔馬を藩に献上しなければいけないし、採れた雑穀は酒にすることを求められる。


 それでも、多くの浪人や部屋住みにとっては夢のような話だった。

 いや、当主や跡継ぎにも夢のような話だった。

 将軍家に仕える旗本でも、騎乗資格のない者がいる。

 知行地を与えられず、一段低く見られる蔵米取の旗本もいる。

 それが百石とはいえ、一国一城の主、知行取になれるのだ。

 家督を子弟に譲り、尾張家に仕官する者が沢山現れた。


 同時に、将軍家、徳川松平家に忠誠心厚いと判断された者達は、徒士組として取立てて、尾張家の最低蔵米三十俵が支給された。

 もちろん武家長屋を貸し与えられるし、なによりも大きかったのが、騎乗資格が与えられ、軍馬と武具が貸与された事だった。

 浪人や微禄の出身で、甲冑などをそろえられない者達には朗報だった。

 同時に尾張家が軍馬農耕馬を買い集めたため、奥羽の困窮する諸藩には、藩財政が息をつける朗報となった。

 

 「年貢基準一反(三百坪)」

上田 :一石五斗

中田 :一石三斗

下田 :一石一斗

下下田:九斗

上畠 :一石二斗

中畠 :一石

下畠 :八斗

下下畠:六斗

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