第11話
徳川慶恕の計画は着々と進んでいた。
蘭国に問い合わせた南蛮式城郭の絵図も届いていた。
過去の日本式城郭との防衛力と築城費の比較も始まっていた。
アイヌとの信頼関係も順調で、松前氏が支配していた頃とは比較にならないくらいの俵物が集まり、貿易高が飛躍的に増加していた。
俵物と米の交換比率がよくなったことで、千島アイヌや樺太アイヌに加えて、沿海アイヌまでもが俵物を持ち込んできたからだ。
同時に蘭国や朝鮮から色々な作物が持ち込まれ、ジャガイモ・ライ麦・高粱が蝦夷地で栽培されはじめたが、自給自足と商品作物として導入された。
元から栽培されていた、小麦と大麦、稗や粟や黍も、アイヌの手で徐々に作られるようになっていた。
徳川慶恕と側近達が集め検討した多くの商品があったからだ。
ジャガイモを原料にした酒、アクアビットとウォッカ。
ライ麦を材料にした酒、コルンとクワス。
大麦を材料にした酒、麦焼酎とビール。
高粱を材料にした酒、白酒。
小麦を材料にした酒、ビールとボザ。
大切な主食、米を使わない酒をを生産し、あわよくば商品にしようとしていた。
蝦夷地開拓の費用も、田沼意次の計画を再検討していた。
田沼意次の策をそのまま使うのは色々と問題が多かった。
特に穢多頭・弾左衛門の願いをそのまま鵜呑みするわけにはいかなかった。
そこで徳川慶恕兄弟と側近達で新たな策を考えた。
叩き台ができあがってから、主要な一門と家老を加えて相談して微調整した。
その上で徳川家祥に話し、将軍・徳川家慶と幕閣と話し合った。
結局幾つかの案のうち、八王子千人同心と開拓郷士の案が採用された。
八王子千人同心はあくまでも農民であり、当主が役目中だけ武家奉公人だった。
同心としての二本差しが許されるのも、役目中の当主だけだ。
耕した農地の収穫から年貢を納めなければいけないし、苗字も許されない。
だが武家奉公人として十俵一人扶持(十五俵)の玄米が支給される。
今回蝦夷地に自費開拓に入る蝦夷千人同心も、身分は農民で収穫から年貢を納めなければいけないし、苗字のない武家奉公人でしかなく、二本差しが許されるのも役目中の当主だけだが、十俵一人扶持(十五俵)の玄米が支給される。
ただ土地は十町(百反・三万坪・百石の玄米が収穫できる広さ)貸与される。
だが開拓郷士は無給である。
身分は農民で収穫から年貢を納めなければいけないし、苗字のない武家奉公人でしかなく、しかも非常時以外は無役で十俵一人扶持(十五俵)の玄米も支給されない。
ただ土地は十町(百反・三万坪・百石の玄米が収穫できる広さ)貸与される。
しかも三年以内に十町を開拓できなければ貸与地を召し上げられてしまう。
非常に不利な条件なのだが、それを望む者達がいたのだ。
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