第30話 チートペンのチート
俺の異世界生活はイージーモード! そんなことを思っていると、俺の右側から聞き慣れた音がした。マジックペンで書いたときのキュッキュッという音だ。俺がふと右側を見るとあいくる椎名がチートペンでQRコードに落書きをしていた。
「しっ、椎名さん! そんなことしたら……。」
俺はつい大声を出してしまった。すると、ルチアがあいくる椎名のしていることに気付いて言った。
「貴女っ! QRコードの改ざんは御法度ですよっ!」
そう。改ざんは御法度って、さっき外でカホウが言ってた。あいくる椎名は、落書きを終えると、悪びれた様子もなくQRコードを炙って乾かすような仕草をしながら言った。
「えっ。私、何もしていないよ! このペン、書けないやつだから!」
そして、帳票を俺の手元から抜き取るとカウンターに置き、チートペンで書き書きした。しかし、全くインクは出なかった。
「なっ、なんだぁ。驚かさないでくださいよ!」
ルチアはころっと騙されたみたい。たしかにあいくる椎名はチートペンでQRコードに落書きをしていたのに。でも俺は、それ以上は何も言わなかった。
「じゃあ、次は私の手続きをしてーっ!」
あいくる椎名は、あいくるしく言いながら、不自然に真っ黒なQRコードをひらひらさせた。ルチアはそれを見ると、素早くピッと君2.1をあいくる椎名に渡した。
「じゃあ、いっくよーっ!」
ピッ!
「名前、椎名従者。年齢、17歳。愛称、あいくる。職業、従者。役割、メイド」
あいくる椎名って、俺と同い年だったんだ。仕事していたせいで、歳上だと思い込んでた。従者っていうのは、奴隷の中では最も格上の職業で、いつも勇者の側にいる存在のこと。役割は勇者の奴隷に付与される、文字通りの役割のこと。
「彼氏いない歴、17年。ブラのカップ、F」
「何ですって? 私と同じじゃないの!」
あいくる椎名とカホウ。どっちもFか。好きかな、好きかな! 奴隷の衣服の調達は主人の務めとなるため、こうしてブラのカップが公表されるんだって。
奴隷には成長がなく潜在能力は存在しない。QRコードがひとまわり小さかったのはそれが理由。代わりに、奴隷独特の能力、忠誠心というのがある。それは、最高を示す1023。
そのあとに表示されたあいくる椎名の能力には、俺も驚いた。全て7桁!
「HPが2097151って! 凄いじゃん!」
「あっ、あははははっ。ゆっ、勇者くんにそう言われると、照れちゃうよ……。」
俺は興奮を抑えきれずに、さらに思ったことを口にした。
「直ぐにでも、1戦……。」
(バチンッ! )
交えよう、魔物と! 俺は、このあとそう言うつもりだった。あいくるしいなの顔がなぜか真っ赤になっているということに気付かずに。気付いたのは、あいくる椎名の右手が俺の左頬に乾いた音を響かせたあとだった。俺、なんかまずいことを言っちゃったみたい……。
「他の能力も軒並み2097151。これで奴隷ってもったいない」
「主人あっての奴隷ってことよ」
「なんか知らないけど、私、絶対に勇者くんを夜の勇者にはさせないわっ!」
最後は自信たっぷりにあいくる椎名が言った。俺は、夜の勇者になることを諦めた方がいいのかもしれない。
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