第23話 QRコードがなくっても
異世界に転移した俺は、手続きをすることになった。といっても簡単なもので、手にしていた白いチケットのQRコードをピッてかざすだけ! お手軽なものだ。
ふと、俺の脳裏にゲートの前で追い出された人のことが浮かんだ。彼が追い出された理由は、QRコードの改ざん。俺のQRコードも、あいくる椎名にチートペンで落書きされた。もしかしたら俺も、追い出されるんじゃないかなぁ。あぁーっ、心配だよ。
カホウとは別の、おそらくは手続き専用の女の役人が、俺とあいくる椎名にチケットの提出を促した。俺は、恐る恐るチケットを差し出した。だが、あいくる椎名はチケットを持っていない。
「私、持っていません」
あいくる椎名は堂々とそう言った。ある程度は予想されていたみたい。
「でしたら、勇者様の手続きの前に、発券いたしましょうか?」
「ルチア、そうしてあげなさい」
女役人の名前がルチアっていうことが、カホウが呼んで分かった。ルチアはよく見ると、俺好みというか、とっても愛嬌のあるかわいらしい顔をしている。ルチアは黒い髪を靡かせて、カウンターの向こう側からこちら側へやってきた。俺の身体をどうにかすると、自動発券機が作動し、あいくる椎名用のチケットが出てくるらしい。奴隷のチケットは、どうにかすることにより簡単に発券できる。そんな説明がルチアからあった。これは、困ったぞ。あいくる椎名と俺の関係って、主人と奴隷ってわけじゃないのに。それに、どうにかするというのも気になる。
「どうにかするって、どうするの?」
「大丈夫ですよ。主人側は気持ちいいだけですから!」
「へっ? 気持ちいいの?」
「はいっ! 直ぐ終わりますけどね。勇者様も服を脱いでおいてくださいね」
そう言いながらルチアは、手を休めることなく準備をしていた。この狭い空間のどこに収納されてたか分からないけど、マットレスを取り出して空気を入れて膨らませた。それからルチアは熱湯と、ぬるぬるの液体を用意し、よく混ぜはじめた。ほわーっと白い湯気が大量に出ている。冷めてくるとルチアは混合液に直接手を突っ込み、全体を捏ねるようにして混ぜた。混合液はとろみのある液体になった。
「よしっ!」
頃合いと見たのか、ルチアは手をよく拭き取ると着ていた服を脱ぎはじめた。1枚、2枚と……。既に下着姿だけど、全く止まる気配がない。このままだと、本当に裸になってしまう! そのあと一体、何をするんだろう? 俺は、どうにかされそうで怖くなった。いけないことがはじまりそう!
「はひーっ!」
俺は、奇声を発した。緊張しているせいか、身体のあちこちが硬くなってカチンコチン。どうしよう。ここは素直にズボンを脱ぐべきだろうか。そして、言われるがままいけないことをするべきだろうか。ルチアは慣れてそうだし、身を任せちゃえばはじめてのいけないことも楽勝かもしれない。でも、あいくる椎名とカホウの2人が見ているところでそんなことするなんて、恥ずかしい……。俺がもたもたしているとそれを見たあいくる椎名が言った。
「私たち、そういう関係じゃないわ……。」
俺はコクリと何度もうなずいた。俺とあいくる椎名は、名前が勇者と従者なだけであり、主従関係というわけではないんだから。だとしたら、発券のためにいけないことをする理由さえない。
「そんなはずは、ありません! どこかで契約をしているはずです!」
話に入ってきたのはカホウ。もしあいくる椎名が俺の奴隷でないなら、1度に2人が境界を跨ぎ手続きをすることができないんだって。つまり、せーのぴょんが成立しないはずだ。それは、この世界が他所の世界から人々を受け入れる上での破ることのできないルールで、聖なる力によって護られているらしい。
「そっ、そんなぁ。じゃあ私、やっぱり勇者くんの従者なの……。」
あいくる椎名は悲しそうに言った。
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