四年に一度の日

ゆなか

目覚めた時

ここは、とある地下室。

真っ暗なその空間は、昼間だというのに一筋の光も差し込まない。

完全な闇の世界である。

誰も手入れをしない部屋の中は荒れ果て、沢山の蜘蛛の巣や埃にまみれていた。


その部屋の真ん中に置かれた漆黒の棺。

六角形に型取られた漆黒の棺の蓋には、銀色の十字架が描かれている。


そう。物語に出て来そうな棺がそこにあったのだ。


ギーーッ。

今まで隙間無く閉じられていた漆黒の棺の蓋が、ゆっくりと音を立てながら開き出すと、その開いた隙間からは、白く細い指先がソロリと顔を覗かせた。



そして……

「んー!よく寝た!!」


繊細さを醸し出していた指先が、ガッと棺の蓋を一気に開け放ち、棺から半身を起こした少女が両腕を上げながら大きく背伸びをした。


白銀色の長い髪に透き通る様な白い肌。瞳は金色で、唇は血のように真っ赤だ。

身に付けている黒いベロアの上品な光沢のあるワンピースには、上品な黒色のレースが幾重にも施されており、まるで精巧なドールの様だ。

この少女はまさか、現代に現れた吸血…………!!



「ピイ……何してるの?」

《《私は》目の前のコウモリにジト目を向けた。


「おはようございます!マリー様!」

黒い羽を広げた小さなコウモリが、私を目掛けて飛んで来た。


「マリー様のお目覚めを心待ちにしておりましたー!」

小さなコウモリ……ピイが頬ずりしてくる。


むーっ。

モフモフの毛が顔に何度もスリスリしてくるから……、今まで作っていた私のジト目が溶けて無くなってしまったじゃないか。


「……眠ってなかったの?」

「いえ!僕はマリー様の従者なので、あなた様の眠りの期間中は一緒に眠っていますよ?」

ピイが瞳を細めながら嬉しそうに口角を上げた。


「ただ、今回はマリー様よりも早めに目覚めてしまったので、ちょっと実況中継なるものをしていました!」


実況中継……って。

私はピイの頭を撫でながら天を仰いだ。


人が寝ている時に何をしているのかと思えば…………。

随分とピイも人間世界に毒されて来ているらしい。


まあ、かくいう私もピイのことは言えない。



私は【マリー・アインシュタッド・デイ】。

もう何千年のときを生きている純血の吸血鬼である。


白銀の髪と金色の瞳こそが純血種の証……!

さあ、今日も血の宴を行おうではないか!!


「……マリー様。今時、中二病ごっこは流行らないんじゃ……」

「う、うるさいな!ちょっとやってみたかっただけじゃない!!」

べ、別に嘘なんか吐いてないんだからね?!(動揺中)


コホン!

大きな咳払いをした私は、漆黒の棺の中から起き上がった。


「……っ!ぺっ……!!」

蜘蛛の巣が口の中に入った。


ううっ……。どうして四年の間にこうも部屋が荒れ果ててしまうのだろうか?


私は涙目になりながら、蜘蛛の巣を睨み付けた。


蜘蛛は嫌いじゃないけど、生活するのにはとても邪魔だ。


「さあ、四年に一度の大掃除をするわよ!」

私は黒いワンピースの袖を捲り上げた。


邪魔な棺は窓際に立て掛ける。


「ぐっ……ゴホッ!……ゲホッ!」

涙ぐみ咳き込みながらも手にしたハタキを動かすことは止めない。

パタパタと部屋中の埃を下に落としていく。


「ピイ。その上の埃をお願い!」

「はーい」

そうしてピイと協力しながらハタキを終えたら、ホウキで埃やゴミを集める。

これでもまだ掃除は終わらない。

最後に掃除機をかけて、テーブルを濡れたクロスで拭く。

窓もどうにかしたいところだが……そんなに時間は残されてはいない。


私はスピードアップして部屋の掃除を終わらせた。


*****


「さあ、私の従順な僕達しもべたちよ!主である私が目覚めたわよ!!」

お風呂にも入ってサッパリと身綺麗になった私は、テーブルの上に置かれたパソコンのキーボードを叩いた。


すると……


『うお!?ま、マリー様が降臨なされたぞ!!!』

『キターー(・∀・)ーーー!』

『キターー(*・∀・*)ーーー!』

『(*ノ゚Д゚)八(*゚Д゚*)八(゚Д゚*)ノィェーィ!』

『マリー様だ!!お待ちしておりました!!』

『マリーたん……(///∇///)ハアハア』

『(#^_^#)マリーたんカワユス』

『皆の者!!祭りじゃあぁあああ!!』

『祭りーヘ(^o^)/』

『\(^o^)/』


画面があっという間にメッセージで真っ黒に埋まった。


「お、お前達!!」

忘れずに待ってくれていたことが純粋に嬉しい。


四年振りだというのに……こんなに……!!


「マリー様。お酒とトマトジュースどちらにしますかー?」

「どっちもちょうだい!!」

私はパソコンの画面に釘付けだ。


『今年もオールで行くわよ!!最後まで全員付いて来なさいよ!!』

『『『おーーーー!』』』


四年前は、ポケモン達と一緒に歩きながらキャラクターを集めるポケモンGOが流行って……ピコ太郎……?って、SM〇Pが解散!?

次から次に僕達しもべたちが、私が眠っていた間の情報を教えてくれる。


「へ、へえ……やっぱり人間の四年間は大きいわね」

私はピイが用意をしてくれたトマトジュースベースのカクテルの【ブラッディ・マリー】に口を付けた。


今年も色々なことが各地で起こっているのね……。


私が本気を出せばこの日本という国は数日あれば余裕で狩れる。

だが……命に限りのある人間だからこそ面白いことを沢山してくれる。


飽きたら狩れば良いし、飽きなければ現状維持だ。


今のところは飽きそうにもない。



私は【マリー・アインシュタッド・デイ】。

もう何千年のときを生きている純血の吸血鬼。


百年前に面白い人間に出会ったことで人間の血を飲むことを止めた私は、あれから四年間眠って一日だけ起きるというライフスタイルをし続けている。


たまに血が恋しくなるが……僕達しもべたちとワイワイ騒いでる方が楽しいのだ。


また眠りに入るその時まで、嬉々としながらキーボードを叩き続けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

四年に一度の日 ゆなか @yunamayo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ