【第六章】
【第六章】
魔王の姿が消え去ってからも、俺はぼんやりと空を眺めていた。ただ、何も考えていなかったわけではない。
タイムリミットは、明日の明朝。それまでに魔王の居城に到達し、頼み込んで現世に戻してもらう。今ある情報はこれだけだ。
「なあケイ、俺は一体どうしたらいいんだ?」
「あ、ちょい待ち」
ケイは背負っていたバックパックから、一枚の紙切れを取り出した。地図の描かれた羊皮紙だ。おお、ファンタジーっぽい。
「取り敢えず、この森を東に抜けて渓谷を乗り越えれば、真っ直ぐ魔王城に着くねぇ」
「距離は?」
「んーっと、現世の単位で五・三キロくらいかなぁ」
よし。善は急げだ。ケモミミナース服少女がいたり、アイドル系女子が魔王を務めたりするような世界である。危険なことなんてあるはずが――。
「ッ! 伏せて、憲治!」
「え?」
再び無防備な腹部にケイの頭突きを喰らい、俺は仰向けに転倒。
「ぐぼっ! な、何しやがるんだ、さっきから!」
そう言い切った次の瞬間、俺は我が目を疑った。というより、異常なものを目が捕捉した。
数本の弓矢が、頭上を通り過ぎて行ったのだ。もしケイに頭突きされなければ、俺の上半身は穴だらけになっていただろう。
「何だ何だ⁉」
「敵だよ、憲治! 戦って!」
「は、はあ⁉」
俺が顔を上げると、ちょうど敵が木々の間からのっそり出てくるところだった。
二足歩行でふんどしを身につけ、弓矢を構えた豚だか猪のような怪物。いわゆるゴブリンというやつか。目をギラギラさせて、こちらを睨みつけている。
「武器は? 何か武器はないか?」
慌てて周囲を見回すも、石ころやら木の枝やら、そんなものしか見当たらない。
「憲治、これっ!」
ケイが何かを差し出してくる。『それ』は、俺にとっては見慣れた代物だったのだが、
「お前、どうしてこんなものを?」
この幼女のバックパックは四次元ポケットか? と、内心ツッコみつつ、俺は『それ』を手に取った。
自動小銃、MP5。小振りな形態とフルオート時の速射性の高さで、多くの国の軍や警察で正式採用されている。
そして何より、俺の趣味、すなわちFPSゲームにおける愛用武器だ。
しかし、それは飽くまでゲーム内での話。
「突然実物渡されたって、使えねえぞ!」
「大丈夫だよぅ! 憲治なら使いこなせ――きゃん!」
「ケイッ!」
俺があたふたしている間に、俺たちの背後を取ったゴブリンが棍棒でケイを殴りつけた。致命傷には見えないが、ピンチであることに変わりはない。
「伏せてろよ、ケイ!」
俺はストックを肩に当て、セーフティを解除。勢いよく引き金を引いた。
パタタタタタタッ、と勢いよく弾丸が吐き出され、ゴブリンに殺到した。銃自体も発射の反動も、思ったより遥かに軽い。
「うああああああ!」
ゴブリンは怯み、後退し、ばったりと倒れ込んだ。出血の代わりに、黒い霧のようなものが傷口から噴き出し、さあっと消え去る。
俺はゲームをしている時と同様、素早く弾倉を交換し、振り返って弓兵ゴブリンたちに狙いを定めた。
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