【第二章】

【第二章】


 ピンポンピンポンピンポーーーーン!


「どわあっ!」


 鋭利な電子音が、鼓膜を震わせた。部屋ごとに設けられているインターホンだ。


 俺の驚き具合については、少し説明が必要である。

 来客など、皆無と言ってもいい。何故なら、友人知人が近所にいないからだ。

 やって来るのは、通販で購入した商品を運んでくる宅配業者くらい。映画やアニメの映像媒体、それにゲームソフトとその関連機器を届けてくれる、福音書の具現のような人々。


 って、考えてみれば、『皆無』などではなかったか。

 だが、それにしてもおかしい。こんな時間に宅配業者? そんな馬鹿な。アマゾンで注文したガンダムのブルーレイの到着予定日は明後日だ。


「って違うわ!」


 俺は自分でツッコんだ。問題は、今という時間帯である。

 午後十時。こんな時間に届け物など来るはずがなかろうに。


 俺がじっと玄関扉を眺めていると、インターホンが再び怒号を上げた。


「……んぐ」


 俺は観念し、のっそりと腰を上げて扉へと向かった。唾を飲み、一抹の恐怖心を抱きつつ、覗き穴から外を覗いてみる。しかし、


「あれ?」


 誰もいないじゃないか。イタズラだったのか?

 しかし、三度インターホンは鳴らされた。けたたましい騒音が、部屋中に響き渡る。


「ひっ!」


 誰もいないのに、鳴らされるインターホン。何だ? 何が起こってるんだ?

 ええい、こうなったら開けてやる。扉を思いっきり、向こう側に開けてやるぞ。怪しい奴は突き飛ばしてやる。


「どりゃあっ!」

「きゃん!」


 ん? 『きゃん』ってやたらと可愛らしい悲鳴が……?

 ゆっくり視線を下ろすと、そこにいたのは、


「何するんだよぅ、厄島憲治!」


 思いっきり尻餅をついた状態で、こちらを涙目で見上げてくる少女、否、幼女だった。

 一瞬、驚愕で頭が真っ白になりかける。理性を総動員し、腕の神経に指令を送る。そして、バタン! と扉を閉めた。


「ぶはあっ!」


 何だったんだ、今のは?

 俺が確認したのは、相手が幼女だということだけではない。この寒いのに、半袖の上着に膝上までしかないスカートを着用。そしてそれが、ピンク色を帯びたナース服であるということだ。ナースキャップもちょこんと頭に載っていた。


 相手の素性は知れないが、これだけは言える。『厄島憲治はロリコンである』と勝手に決めつけた、トンデモ幼女だ。


 すると今度は、ドンドンと玄関扉が叩かれた。


「おーい、厄島憲治! 寒いよぅ! 開けてくれよぅ! 私、あんたを助けに来たんだ!」


 は? 俺を助けに?


「どっ、どういう意味だよ?」


 俺は扉の反対側に向かい、問うてみる。すると幼女は、甲高い声でこう言った。


「それはちゃんと教えるから、早く部屋に入れてくれよぅ! 寒くて死にそうなんだ!」

「断る! お前は明らかに不審者だ!」

「だったら……!」


 すぅっ、と息を吸い込む気配。まさか、コイツ……!


「だずげで~~~~っ! さらわれるぅ! 連れ込まれるぅ! ここに不審者が~~~~!」


 バッカ野郎!

 俺は胸中で怒鳴ってから再びドアを押し開け、


「いったぁ!」


 鼻の頭を押さえる幼女の腕を掴み、部屋に引っ張り込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る