第二話(1) お前は俺のヒーローだ
「ハルは進路どうすんの?」
「何も考えてないなぁ。アツシは?」
「俺も考えてねぇ。やりたいこと、って言われてもなぁ、別にそういうのねえし」
「進路調査なんて、いきなりだよな。二年から考えてるやつなんていないんじゃないの?」
「とりあえず今が続けばいいじゃん、みたいな?」
「そうそう」
「はは……」
「……」
「……俺らってさ、なんで生きてんのかな」
「は?何、急に」
「将来のこと考えてるわけでもない、今すぐ働けるわけでもない。だからって、どうすりゃいいか、なんて分かんねえし。大人になればできること増えるかもだけど、今できるやつに、大人になってから追いつけるわけねえじゃん」
「いや、それなりでいいんじゃね?普通に稼いで、生活できるだけでいいじゃん」
「んー、例えば、今俺が死んでも別に何も変わんねえじゃん?世界が平和になるわけでも、ヒンコンがボクメツ?するわけでもねえ。俺が死んでも、俺がいなくなるだけで、世界は変わんねえ」
「大げさだなぁ。この世の富と名声を手に入れたい、とか?」
「そうじゃねえけどさ、なんつーか、生きてても死んでても同じじゃん、っつーか」
「生きてても、死んでても……」
「俺は、何かを遺したいっつーか。俺が産まれてからと俺が死んだ後で、何か変わってて欲しい、とか」
「……」
「なんて、はは、冗談冗談!恥ずかしー!マジっぽく語っちゃってる俺、恥ずかしー!」
「……例えばさ、」
自分の部屋に戻って、俺は今日のことを考えてた。
俺が死んでからどれくらい経ってるか分からなかったけど、部屋は生前のままだった。ほこりが溜まってなかったのは、母さんが掃除してくれてたからだと思う。
電気はつけられないから、暗い部屋で床に座り込んだ。
さっき、姉ちゃんは俺が見えてたのか?俺の声が聞こえてたのか?でも、最初は気づいてなかったし、父さんや母さん、他の人にも気づかれなかった。偶然?勘違い?それとも、壁抜け以外に俺にできることはあるのか?だとしたら……。
考えて出た結論は、試してみなきゃ分かんねえ、ってことだった。
とりあえず今日はもう遅いし、明日から色々やってみよう、ってことでそのまま床で横になった。
閉じていく意識の中で、俺は学校の友達のことを考えてた。
俺が死んだことに、あいつらどんな反応をしたのかな?忘れられてたら、結構ショックだな。明日、確かめて、みよう、かな……。
目が覚めて、朝になってること、俺が幽霊のままでいることを確認して、安心とも期待外れともつかない微妙な気分で起き上がった。やたら寝覚めがよかったのは、やっぱり幽霊になった影響かな?
時計を見て、学校行かなきゃ、って当たり前みたいに思った。まぁ、ずっとそうやって生きてきたから、いきなりは変えられない。こればっかりは、仕方ないよな。
朝御飯を食べてる両親に、おはようと行ってきますを言って、返事を聞かずに外へ出た。
いつも通りの道を学校へ向けて歩いていくと、だんだん人が増えてきた。
眠そうなやつ、友達と喋ってるやつ。知ってる顔、知らない顔。
それら全てが俺を通り過ぎていって、まるで画面越しに世界を見ている気分だったな。
校門の近くまで来ると、前の方にアツシがいるのが見えた。他の友達と一緒に、だりーだりー、って言いながら校舎の中へ入っていった。
同時に朝の予鈴が鳴り出した。いつの間にそんなに時間が経ってたのか、周りにいた生徒達も数が減って、何人かが慌てて校門を潜っていた。
俺も人波に混ざって、一番仲の良かった友達の姿を追いかけて、校舎に向かって走っていった。
アツシとは高校に入ってから知り合った。
入学初日の席が近くでなんとなく話してるうちに、いつの間にか一番長くつるむようになってたんだ。学校ではほとんど一緒にいたし、放課後もよく町で遊んだりしていた。
軽い性格だったけど、嫌なやつじゃなかったよ。
アツシとは馬鹿な話ばかりしてて、特別なことは何もなかったけど、俺の思い出の中の何でもない日常はアツシとの時間でできてたんだ。
教室に入ると、懐かしいざわめきがあった。アツシもそこにいて、友達と笑いながら話をしていた。
けど、何だろう、作ってるっていうか、無理してるっていうか。
でも結局、俺がアツシに違和感を抱いてても、誰も俺に気づかない。
なんだか違う世界に来たみたいだった。
担任がやってきて、皆が席に着いていった。アツシの隣にあった俺の席は、机と椅子ごと無くなっていた。
俺は、自分の痕跡を探して、教室内を見渡してみた。どこかに俺がいた証があるんじゃないかと思って。
そこで、カナタがいないことに気づいた。
あれ?と思ってる間に、担任が出欠をとり始めた。アツシが呼ばれて、当然俺の名前は飛ばされて、カナタの欠席が確認された。病欠らしい。
別に、無遅刻無欠席な優等生ってわけじゃなかったから、珍しくもないか、なんて暢気にその時は思ってた。後でお見舞いにでも行こうかな、程度に考えてたんだ。
ホームルームが終わって授業が始まると、俺はすぐに退屈になった。
だって、もう真面目に聞いててもしょうがないことだったしな。俺はもう、試験も何にもない、って状態だから。
アツシのことはとりあえず後回しにして、俺は教室から出て、校内を巡ることにした。
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