第52話 復讐編 『警察の対応』


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 特殊強化ガラスで区切られた、特殊合金の堅固な牢の前―。


 ジョーカーと名乗るその男が、牢の入り口に両手を当てた途端、その強化ガラスの分子、いや原子の運動が加速され、その振動で特殊強化ガラスが粉々に砕け散ったのだ。






 「なんと! この頑強な特殊強化ガラスを砕くとはのぉ・・・。あんた・・・、只者ではないの。」


 豺狼がそう言い、牢から出る。


 「不死鬼! 出てこい!」


 「ぐお!」


 不死鬼も豺狼に言われ牢の外に出てきた。




 「ほんま、すごいなぁ。あんさん。」


 サワ・チョマレヨもそう言って頭を掻きながら外に出ていた。


 「では、急ぐぞ。すぐ警備が駆けつけてくるぞ。」


 ジョーカーがそう言って、通ってきた通路を進み出し、駆けつけてきた警官をあっという間になぎ倒した。




 「わしらの出番はなさそうじゃの。」


 「ぐが!」


 「まあ、ええやんけ。楽させてもらえるわ。」




 こうして、脱獄した十魔剣の三人は、ジョーカーの案内するがまま、離れの屋敷に逃げ込んだ。


 「俺の雇い主の名は明かせないが・・・、ザビア家ゆかりの者とだけは教えておこう。」


 ジョーカーがそう三人に伝える。


 「そうか・・・。それなら納得じゃ。そして、礼を申さねばならんの。」


 「ぐが!」


 「ほんまかいな! そりゃ、ありがたいわ。助かったわー。」




 「お前たちを助けたのも、もちろん、仕事をやってもらうからだ。慈善事業でただ助けたわけではない。」


 「ま、そりゃそうやろなぁ。」


 「ふむ。もちろんじゃ。で、何をするんじゃ?わしらは。」


 「があ!」


 ジョーカーは地図を見せながら、そこに「X印」をつけ、命令を出した。




 「この格闘道場『獅子の穴』を襲撃し、みな殺しにしろ!」


 「ほえぇー。そりゃ、豪気やなぁ。」


 「あのライオンマスクは本物であると踏んだのかのぉ? まあ、その可能性もあるがの。」


 「があ。」




 三人はおのおの思うところがあっても、特に反対もしない。


 なぜなら、今までさんざんに罪もない人たちを、簡単な理由で殺害してきた彼らにとって、たとえ、それが濡れ衣であったとしても、その殺害にためらう理由はなかったからだ。


 ジョーカーもそこは把握した上で、みな殺しの指示を出しているのだ。




 誤認での暗殺だろうと、憂いを断つためなら、平気で殺してしまう。


 この組織の者たちは、理性のタガが外れた者たちの集まりなのは間違いないのであった。



 そして、十魔剣の三人は、再び、夜の闇に解き放たれたのであった―。





 ◇◇◇◇



 警察本部では、緊急対策本部が設置されていた。


 特殊強化ガラスで区切られた、特殊合金の堅固な牢から、見事に脱獄されてしまった。




 対応によっては責任を取らされかねないこの事態に、ピリピリとしていた。


 若き警視官、ツーネモ・アカネが緊急対策本部へと抜擢された。


 そして、緊急対策本部のメンバーが選出される。




 警視官補佐が1名、副本部長として、クシャナ・ギサーイ・オンジ警視官補佐が選ばれた。


 ツーネモ警視官とは常にライバルであり、かついい同僚であった。コンビを組んでいた時期もあるらしい。


 思想・信条は意外と似ているのかも知れない。




 さらに捜査監視官が2名、シンディ・アラビアータ捜査監視官と、東宮・サー・ダイブ捜査監視官の2名だ。


 そして、シンディの相棒・バディを組んでいるケイト・ミール・イグアナフ捜査官がシンディの配下につき、


 東宮班からは、馬頭(バトウ)・アンノウン捜査官と意志華(イシカ)・ホノリス捜査官の2名が配下につくことになった。


 いずれのメンバーももともと、十魔剣絡みの捜査を担当してきたため、適任と言える。




 「いいか!? この私がこの緊急対策本部長のツーネモ・アカネだ! ここに集められた諸君にもいろいろ派閥など考えが違う者たちもいるだろう!」


 ツーネモはみんなに向けて演説を始めた。


 「だが! 十魔剣の捕らえた奴らはこの天下の警察本部から脱獄したのだ! これは警察全体の威信に関わることなのだ!」


 たしかにそのとおりだった。警察の、しかもその本部からぬけぬけと重大犯罪者が脱獄をしてみせたのだ。


 世間に与えるインパクトは大きい。しかも警察の信用は失墜する。




 「これは警察という組織に対しての挑戦とも言える! 今は派閥の垣根を越え、みな総力を上げ、全力で捜査、そして、現場でヤツラが抵抗するなら・・・。」


 ここで、ツーネモ警視官は息を飲んだ。


 「執行も許可する! 以上。 捜査にかかれぇ!」


 「は!!」「はっ!!」


 みんなが大声で声を合わせて返事をした。




 「東宮班は牢獄からなにかわかるか調査とその解析を! シンディ班は、すぐさま周囲の聞き込みに行け!」


 「了解!」


 「わーっかりましたー!」


 クシャナ警視官補佐がテキパキと指示を与える。




 シンディはケイトと一緒に、外に出る。


 「さぁて、じゃあ、ケイト。ひさびさに私の『今にも壊れそうないつか夢に見たようなガラスの街』を全開にして行くよ?」


 「そうか! シンディ。あまり無理はしてくれるなよ?」


 「ま、ニ、三時間は持つでしょうね。」


 「じゃ、もしぶっ倒れたら、私の能力『誰かを傷つけても離れられない痩せちゃった君』で守ってあげるから心配しないでね。」


 「はは。頼んだよ。相棒!」




 シンディとケイトは逃げたヤツラの行き先を見当をつけて、絞り込みしていくようだった。




 一方、東宮班のメンバーは、破られた特殊強化ガラスの堅牢の前に来ていた。


 ヤツラは逃げ去る時、数名の警官を殺害している。




 東宮(トウグウ)・サー・ダイブ捜査監視官が、二人に指示を出す。


 「イシカよ。この特殊強化ガラスの破片を解析してくれ。」


 「了解です。この破片からチャクラの痕跡を読み取るんですね。」


 そう返事したのは、意志華(イシカ)・ホノリス捜査官。




 「やつら十魔剣の3人がこの牢を破ったとは思えない。何者かの手助けがあったに違いない。」


 東宮が答える。


 もうひとりの捜査官・馬頭(バトウ)・アンノウンが、さらに問う。


 「痕跡がわかれば、あのメギツネ監視官に教えるより、我々だけで対処すべきじゃないですか?」





 バトウ捜査官は、パワー型サイボーグな見た目のまま、考えるよりも感情で動く傾向がある。


 「まあ、そう言うな。バトウ。今回は警察全体の信用勝負なのだ。この際、派閥の争いはいったん棚上げにして、全力を尽くすのだ。」


 「なるほど。それもそうですな。東宮さん。」

 



 東宮捜査監視官は、派閥争いには非常にご執心ではあるが、決して警察の誇りがないわけではないのだ。


 「ま、頼んだぞ。おそらく、何かの痕跡があるのは間違いなさそうだ。」


 「は!了解です!」


 「へい。わっかりました~。」


 こうして、東宮班の彼らから情報をもたらされたシンディとケイトの二人の警察官が、すぐさま、レスラー道場『獅子の穴』へ向かったのだ。







~続く~



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