第51話 復讐編 『牢の中の囚われ人たち』


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 アール・ベッドとデス・キングが、通路の先から歩いてくる人影を見つけた。




 男物の服を上から羽織っている美しい金髪の髪をポニーテールに束ね、眼の色は青の美しい女性がふらつきながら歩いていた。








 「あなた! 止まりなさい!」




 アールとデスに気がつくと、その女性は足を止めた。




 「あなたたちは・・・。あの子のお仲間さん・・・かしら?」




 それはキャサリン・セタ・ソージーズだった。








 「あなた・・・。十魔剣の一人ですわね?」




 「その通りよ。十魔剣の一人、『アクセラレーター』のキャサリン・セタ・ソージーズ。あなたたちはアクターのお仲間ね。」




 「アクター・・・? 誰よそれ?」




 「はて? お嬢様。我らが仲間にそのような名前の人物はいませんでしたよ。」










 アールは改めて、キャサリンに尋ねる。




 「誰かと勘違いしているのかしら?」




 「そうなの? じゃあ、あなた達もシシオウ様の敵ってことかしら?」








 「そのシシオウはワタクシが滅ぼしてあげますわ。これからね!」




 「それを聞いて私がここを通すとでもお思い?」




 「我ら二人を相手にするというのか? 女よ。それは無謀であるゾ!」




 「死ぬしかないわね? あなた。」




 アールがそのチャクラをメラメラと練り上げ、オーラを放ちだした。








 デス・キングも闇のオーラを身にまとう・・・。




 「なかなかの腕・・・というわけね。だけど!」




 そのしなやかな身体から上段からの踵落としがまるで舞を踊るかのように繰り出された。




 だが、一瞬早く、アールとデスは右と左、二手に分かれ、それを避けたのだ!




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 さらに、キャサリンは瞬時に、デス・キングの下へ距離を詰めた。




 そこから、独楽のように回転しながら、回し蹴りを叩き込んだ。




 「ぐはっ! は・・・速いっ!」




 デス・キングが声を漏らした。








 「エナジードレイン!!」




 デス・キングがその闇のチャクラをまとい、その腕で、キャサリンの足を掴もうとした。




 だが、その前にキャサリンは身を翻し、距離をとっていた。








 「っしゃーーんなろぉっ!!」




 アール・ベッドがその拳を叩きつける!




 その初速は異常に速く、瞬きの間に距離を詰めたため、キャサリンも一瞬、戸惑ったかに見えたが、アクセラレーターの異名は伊達じゃない。




 あっさりかわして、さらに回転し、空中に舞う。








 「我流暗殺格闘術・壱時!!」




 キャサリンは上空に舞い上がったやいなや、アールの背後に回り込み、回り込むその動きで、その中心にいるアールの身体に、衝撃波を叩き込んだのだ。




 アールはその動きに一瞬、心を奪われ、嫉妬した。




 「美しい動き・・・。」




 だが、その次の瞬間にはそのチャクラを一気に高め、衝撃波をまるで、涼風のごとく、受け流した。












 これには、キャサリンも戸惑いを覚え、せっかく取った背後から、距離をとった。




 「この私の死のカウントダウンを・・・。躱しもしないだなんて!」




 だが―。








 パラリ。




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 アールの髪の毛が少し切れていたようだ。




 数本の黒く艶のある髪の毛が地面に落ちる。




 「ワタクシの・・・。ワタクシの髪を!」




 ワナワナと肩を震わせ、キャサリンのほうを振り返るアール。








 「お嬢様! いけません! お気をたしかに!」




 デス・キングがそう言って、アールの隣に並び立った。




 「許せないわ! ワタクシの美しい髪を切ったあなたは、万死に値する!」




 「髪をちょっと切ったくらいで何を言ってるのかしら? これからもっと切ってあげましょうか!?」




 キャサリンもそう言って、再び構えをとった。








 ◇◇◇◇










 さて、ミギトたちが十魔剣のアジトであるシンジュク・アンダーグラウンドに侵入を開始した頃に時は遡る―。








 場所はカスミガセキにある警察本部。






 十魔剣の捕らえられたメンバーはすべてこのカスミガセキの警察本部に集められていたのだ。








 十魔剣の事案は特殊事案で、エリアをまたいで警察本部の取り扱いとなっていたからだ。






 その地下3階の留置場に、サワ・チョマレヨ、豺狼、不死鬼の三人が捕らえられていた―。




 特殊硬化ガラス製で作られた壁で周囲を覆われ、その周囲を超強化合金で固められたビヨンド能力者専用の檻に三人は入れられていた。








 「ふーむ・・・。この牢は堅牢だな・・・。わしの能力『窒息しそうなスリルな瞬間・SOUL』もこの牢の外にまでは届かぬようじゃ・・・。」




 「ちっ・・・。じいさんもこうなっちゃ形無しやなぁ。ウチの『僕はつい見えもしないものに』もあかんわ。壁に跳ね返ってきやがるで。こっちが傷つくわ。」




 「・・・がぁ。」




 「不死鬼も同じようじゃの・・・。そのチカラでも砕けんとなると、わしらではどうすることもできんの。」








 「は~。シシオウ様に失望されたかのぉ・・・。見捨てられて当然じゃな・・・。」




 「まぁ。しゃーないやろ。ウチらが失態おかしたんやからな。」




 「おれ、失態、おかした・・・。」




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 三人が自力脱出を諦めて、ただ漫然と過ごしていたその時―。




 ふっと豺狼が牢の外に目を向けると、誰かが立っていた。




 しかし、豺狼はその男の目を見た瞬間、ガタガタと震えだした・・・。




 とてつもなく恐ろしいチャクラ・・・。禍々しいそのチャクラに、震えが起きてしまうほどであった。








 「ま・・・まさか・・・。わしらを・・・始末しに来たのか?」




 豺狼が思わずそう考えてしまうほどその男からは殺気が溢れていたのだった。








 サワもまったく同様のことを考えていた。








 「こらあかんわ・・・。ウチら、死んだな・・・。このチャクラ・・・。カタギのものではない・・・。しかもウチらみたいな野良やないわ・・・。訓練されたビヨンド能力者や。」




 サワもそう直感し、自分たちの始末をしに来た者だと思ったのだ。






 「ぐぅ・・・。ぐが!」




 不死鬼だけは、何考えてるかわからなかったが―。










 やがてその男が口を開いた。




 「俺の名はジョーカー。ある御方から命を受けてここに来た。」




 そして、おもむろに豺狼の捕らえられている牢の入り口に両手を当てた。










 豺狼たち十魔剣の捕らえられた者は、この夜、忽然と姿を消したのだった―。












 ただ、いかなる衝撃も耐えうるはずの特殊硬化ガラスの牢の壁が、こなごなに砕け散っていたのだった―。






~続く~


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