第46話 復讐編 『色欲のアスモデウス』


 アカシックレコーズのそれぞれの正義の基づいた執行権を有する七人、それを人は『七つの大罪人』と呼ぶ。


 それぞれはコードネームでしか知られていない。


 その一人、『色欲のアスモデウス』と呼ばれている女性、それがアール・ベッドだ。




 彼女の配下には『色欲の守護神』という七人のビヨンド能力者がいる。


 その中でいつもアール・ベッドに付き従い、彼女を常に守り守護する補佐役の男がデス・キングという男である。


 デス・キングはアールのことを『お嬢様』と呼んでいる。


 まあ、アールの素性を知るものは、組織の人間でさえほとんどいない。





 アカシックレコーズに彼女が加わったときにはすでにデスキングは、アールの傍に付き従っており、『お嬢様』と呼んでいたのだ。


 実際に彼女がどこかの令嬢で、デスキングがその仕えし者なのか、はたまた何かのプレイでそう呼ばせているのか・・・とんと区別はつかない。


 そして、今回の任務も彼女と彼だけ別行動を取っていた。


 他の『守護神』たちは、別の任務を行っているのか、はたまた別行動を取っているだけなのか・・・。それも不明であった。




 デス・キングの隠形の技『デス・マジック』はその影の中に味方の気配を包み込むことができる能力でアールをすっぽり包み込み隠していた。


 そして、自身も隠形の技でまったく闇と同化している。


 ゆうゆうと地下迷宮を進んでいた―。




 三叉に分かれていた場所で、みんなと別れて左の道を選び、歩を進めていたデスキング。


 どうやら、行く手が右に折れているのを確認する。


 その先に誰から待ち構えているかも知れない。


 だが、彼が闇と同化しているかのごとく、また辺りも闇に包まれているのだ。




 生命チャクラ反応はまったく感じられない。


 もしかしたら、こちらの道はハズレで、この先には誰もいないのかもしれない。


 そんなふうにも思えるほど、辺りは静まり返っていた。




 「すーすー」


 自身の影から寝息が聞こえてきた。


 外にはまったく漏れないが、自分にだけは自身の影の中の音も聞こえるのだ。


 (お嬢様・・・。眠っておられるのか。まあ、起こさぬように気をつけたいものだな。)


 デスキングはそう思った。


 彼はいつだって、アールのすることには肯定的なのだ。




 道を曲がってひたすら進むが、生物の反応も一切なく、やがて、遠く向こうに少し明るい場所が見えてきた。


 そこには何か巨大な丸い物体(?)がたたずんでいる・・・。


 いや、物体ではない。人間だ。巨体の太った男が、ボケー―っと突っ立っていたのだ。


 この特徴は、イワン坊やである。




 「ほう。先刻の戦いで逃げ出したというヤカラか・・・。お嬢様を起こすまでもないな。」


 イワン坊やの目は相変わらず虚空を見上げ、ボケーーっとただただ立っていた。


 「我に気がついてる素振りもないな。」


 デスキングはそう判断し、奇襲をかけることにした。




 「音も立てずに、葬り去ってやろう。」


 念の為、イワン坊やの死角から、そっと近づいたデスキングは、その骸骨の仮面の下から、鋭く怪しい眼光で睨みつけた。


 「ふん! 我が能力『どんなに悲しいことも伝えるあなたの瞳エリス』発動!」


 イワン坊やが一瞬、ピクリと動いた。




 「・・・ぐぎっ!?」


 イワン坊やが叫び声ともなんとも言えない声をあげた。


 そして、背後を振り返る。


 デスキングがその闇のオーラを身にまとい、悠然と目の前に立っていた。





 デスキングのビヨンド能力『どんなに悲しいことも伝えるあなたの瞳エリス』は、簡単に言うとエナジードレインである。


 相手の生命チャクラを吸い取り、自身の生命チャクラに変換できる。


 この能力に魅入られた者は、デスキングを倒すか、デスキングが能力を解除するまで、その生命チャクラを吸い取られ続けるのだ。




 しかもその発動条件は、デスキングが能力を使う相手をただ、一瞬見つめるだけ・・・たったそれだけなのだ。


 これほどに隠形に徹したビヨンド能力も珍しい。


 イワン坊やは、なぜ、自分が力が減っていくのかさえ理解していない様子だ。




 「ぎぎ・・・。」


 デスキングの能力がさらに加速する。


 すると、イワン坊やが急に瞬間的にゴムまりのように勢いよく突進してきた。


 その衝撃に思わず、デスキングも身をよじり、吹き飛ばされてしまう。




 イワン坊やの能力『この腐敗した世界に堕とされたゴッドチャイルド』は念動力、サイコキネシスの能力である。


 自分自身の巨体をその能力で操り、ぶつけたということだ。


 だから初速が以上に早く、その動きの予測は難しい。




 デスキングもチャクラでガードはしたが、その勢いに耐えきれずすっ飛ばされたってわけだ。


 だが、デスキングの能力が解除されることはない。


 着々と力が抜けていくイワン坊やは、自身の身体の変化に戸惑っている様子だ。




 そして、やたらめったらその巨躯をまるで狭い部屋の中でスーパーボールを投げつけたかのように、壁、床、天上と跳ね返りながら、襲いかかる。


 この縦横無尽に跳ね返りながら攻撃を仕掛けてきたことは、さすがのデスキングもちょっと予想外だった。


 デスキングが身を躱そうかと下がろうとした瞬間ー。





 「こぉのっ!! ぶっさいくがぁ!!」


 ドカッ!! ボォオオオーーーーン!!


 デスキングの影から飛び出したアール・ベッドが思い切り、イワン坊やをただただ殴りつけた!!


 そのあまりの衝撃と勢いで、イワン坊やはその能力で自らの肉体を固定する暇もなく、そのまま通路の向こうへふっ飛ばされた・・・。




 「ええーい。醜い!」


 アール・ベッドは養豚場のブタでも見るかのような冷たい眼でイワン坊やを睨みつけた。


 が、そのイワン坊やは、その丸い巨体をピクピク震わせていたが、動く素振りはなかった。


 そう、気絶していた・・・。




 「行きましょうか? デスキング。」


 「え・・・えぇ・・・。」


 さすがのデスキングもアールの問いかけに即答できなかった。


 アールを起こすまいとした行動も、ちょっと手強そうだったイワン坊やも、簡単に片付けてしまった。


 デスキングは自分は何だったのだと嘆くしかなかった。




 「はい。お嬢様。」


 「はぁあ。よく寝たわ。あら?」


 アールはさきほどまでイワン坊やがいた辺りの壁に違和感を感じた。


 「ここ。何かあるわ。デスキング!」


 「御意。」




 デスキングがそこを闇のチャクラで衝撃を加えると、壁が崩れ、隠し扉が出てきた。


 「ふぅーん。こっちがどうやら正解みたいだねぇ。ねぇ? デスキング。あなたもそう思うでしょう?」


 「はい。そのとおりかと思われます。」


 「では、こちらを進みましょう。」


 「御意。」


 アールとデスキングは、隠し通路を進むことにして、先を急ぐのだったー。




~続く~



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