第45話 復讐編 『ジャックの奥の手』


 ぬらりー。


 ジャックが音も立てずに立ち上がった。


 全身から血が滴り落ちている。


 ぽたり。ぽたり。





 ジャックが急激にそのチャクラを練りだした。すると、その身体の傷がすべて、驚くべき勢いで回復していく。


 「オレの中にある野生の本能が倒れることを許しちゃくれねえ。」


 「ば・・・ばかな!」




 キャサリンは驚愕した。


 今まで自身の殺人技、碌時まで使わせた敵もそういない・・・その上、まだ立ち上がってくる。


 「ば・・・化け物め・・・。」


 思わずそう言ってしまうほど、眼の前のジャックが人外の獣だったのだ。




 「オレを・・・化け物と呼ぶなあああああっ!!!」


 とてつもないチャクラの集中で、まるで、ジャックの身体が銀色の光で輝いたかに見えた。


 「ええーーい! 次の連続技であなたは終わりなのよーー!!」




 そうキャサリンも叫びながら、チャクラを集中させる。


 「我流暗殺格闘術・死地時!!」


 キャサリンが何の構えもなく、ジャックの眼の前に突っ込む。


 まさに死地へ自ら赴き、死中の活を拾うという戦術ー。




 「からの~! 我流暗殺格闘術・蜂時!!」



 キャサリンの身体が無数の蜂になったかのように、超スピードで無数の手刀と蹴りを同時多発的に繰り出す大技だ。


 「この技を出して生きていたのは、シシオウ様以外、存在しない!!」




 「それを待っていたっ!! 喰らえ! 残心・牙砕波!!」


 ジャックはその両手から繰り出した掌打の大振りによって、一気に弾き飛ばし、キャサリンの身体にチャクラの波動を叩き込んだのだ!


 「ぎゃほっ!!」


 くの字に折れ曲がったキャサリンの肉体がそのままその場に倒れ込む。




 「この技は、すべてのエネルギーを反転させ、己の掌打に乗せ、叩き込む技だ。自分の技の威力も上乗せされたのだ。もはや、立つことは敵うまい。」


 ジャックがそう言い、事実上の勝利宣言をした。


 キャサリンは起き上がってこない。




 「だが・・・、この技の反動が跳ね返ってくるんだ・・・がな・・・。ゴボっ!!」


 そう言いながらジャックが血を吐いた。


 そして、満身創痍になりながら、前へ進んでいく。




 その背後ー。


 ゆらり。


 なんとキャサリンが音もなく起き上がった。




 ジャックは気が付かず、前にゆっくり歩いていく。


 キャサリンはそのまま音もなく、近づいていく・・・。


 キャサリンがそこで、カッッと目を見開き、膨大なチャクラを一気に練り上げた。





 「なっ!?」


 これにはさすがのジャックも気がついて、後ろを振り返ることもなく、前に前転し、そして、キャサリンに対峙した・・・。


 「我流暗殺格闘術・死地時から蘇り、そしてこの技へ紡ぐのよ!

苦時ーーーっ!!」




 キャサリンの拳が、一瞬、巨大化したかのようにも見えるくらいの膨大なチャクラを練り込まれたその拳が、空手の右正拳突きのように、もはや何の小細工もないかのように打ち出された。


 どっかぁーーーーーーっんっ!!!


 ものすごい轟音がして、煙がもうもうと充満している。




 キャサリンが、正拳突きの構えのまま、立っていた。


 ジャックは・・・。




 立っている!




 だがその両腕のあるべき位置には何もなかった。


 その両腕は黒焦げに消し飛び、シュウシュウと音を立て、なくなっていたのだった。


 「私の・・・勝ちだわね・・・。」


 「く・・・くく・・・。」


 「悔しいかしら? まあ、その姿ではもはやあなたに打つ手はないっ!」




 「く・・・くくく・・・。


 く・・・くあっはっはっは! 手がない? 手がないだと!?」


 「そうよ! 文字通り、手がないあなたに私のいかなる攻撃も防ぐすべはないわ。私はまだ・・・戦える・・・ぐほっ・・・。」


 キャサリンの大技もそうとうチャクラを消費した様子で、強気なセリフを吐いているが、口から血を吐き、もう満身創痍であった。




 「血を吐きながら、その強気なセリフを吐くとは・・・。その執念に、こっちが吐き気がするぜ。」


 「ふふ・・・何とでも言いなさい。さあ、その手のないあなたはどうするのかしら?」


 「ああ、勘違いしているようだな。」


 ジャックがすっくと立ち上がり、そして、チャクラを集中させていく―。




 その肩口からシュウシュウと黒煙が出ていたが、異常なチャクラの集中により、光り輝くように見えたかと思うと、なんと!


 「くあーーーっ!!」


 ずるるりんっ!!


 ずぶりゅりゅるるっ!!


 新しい両腕が、生えてきたのだ!




 「な・・・!? なんですってぇーーー!?」


 「ふぅ・・・ご覧の通り。オレにはまだ奥の手があった・・・というわけだな。文字通りな。」


 「手が・・・生えてくるなんて・・・。トカゲか何かなの!?」


 「失敬なヤツだな。オレは人狼なんだぜ。このくらいの回復能力、当然だろ?」





 「くっ!! 殺す!!」


 思わずまた出た。クッコロさんである。キャサリンはやはり、もうチカラが残っていなかったのか、そのまま何の小細工もなく殴りかかった。


 ジャックは、目をつぶった。




 「残影・牙烈掌!!」


 瞬速で背後に回り込み、キャサリンに背後からの抜き手が今度は命中した!!


 ジャックはその超スピードを活かし、キャサリンの背後を一瞬で捉えた。


 さっきまで対峙していたジャックの位置にはあまりのスピードのため、まだその残像がゆらめいていた―。






 「く・・・私がシシオウ以外に負けるだなんて・・・。」


 キャサリンはそう言ってバタリと倒れた。


 「狼のチカラをなめんなよ・・・。」






 ジャックもかなりのチカラを消耗したため、人間の姿に戻ると、ふらふらしてしまう。


 そして、キャサリンのほうを一瞥し、動かないのを確認し、アカリンやサーシャが向かったほうへ行こうとし、くらっと意識が一瞬、飛んでしまい、横の壁にもたれかかってしまった。


 そこで、ジャックの身体が壁に吸い込まれるように壁の向こうに消えてしまった。




 壁の一部が反転し、くるりと回転ドアのように回ったのだ。


 「隠し扉かっ!?」


 ジャックは偶然にも隠し扉から続く隠し通路を発見したのだった。




 「むぅ・・・。アカリンたちを追うべきか・・・。この隠し通路を進んでいくべきか・・・!?」


 ジャックは悩む。このままアカリンたちを追うのは定石だが、隠し通路については、おそらくシシオウの居場所へ直結している可能性が高い。


 しばし考えたジャックは、決断した。




 「オレはこの隠し通路を進むとしよう。先にシシオウの元へたどり着けば・・・。倒せばいいだけだ!」


 ジャックは隠し通路を進むことにした。


 隠し通路の両脇には、明かりのためのランプがところどころに灯してあった。




 ジャックは、だが、身体が思うように動かず、少し立ち止まってしまった。


 「やはり、エネルギー不足か・・・。チャクラを使いすぎたか・・・。」


 ジャックはポケットから簡易食料の錠剤を飲む。


 「急がなきゃ・・・。」


 ジャックは先を急いだ―。




~続く~



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