第42話 復讐編 『ウースイVSミギト』
チャキィイイイィイイイーーーーンッ!!!
目の前の空を金属音が切り裂いた・・・。
僕には、一瞬のことでまったく見えなかったのだが、なんとか躱せたようだ。
チャクラを全開で警戒態勢をとっていたからか、一瞬、気配の察知が間に合ったようだ。
「うふ・・・今のを躱すのね!? やるわねぇ。未来剣・壱の剣を躱されたのはシシオウ以来かしら?」
「くっ・・・。」
僕はこのウースイに対して、『剣』で対抗できなければ、殺られてしまうと悟った。
剣豪・・・といえば、あの人しか思いつかない!
演るしかない!
「宮本武蔵!! 降臨!!」
僕は思い切り大声で叫んだ。
その瞬間、大地からなにかのエネルギーを受け取る・・・。
僕は肉体が修練されていくのを感じた。
顔がごついおっさんの顔に変わっていき、ヒゲも不精に伸びる。
そして、腕の筋肉が非常に引き締まり、その手から二本の刀を持っているかのように実感できた。
いや、実際に剣は持っていないのだが。
そして、その場にあった木製のテーブルを手刀で切り裂いた。
「ワチョーーーイイ!!」
「ホワッチャーーーー!!」
なぜか変な掛け声が出る・・・。いや、宮本武蔵って、変な人だったの?
だが、自然にそうなってしまうのだ。
テーブルはあっという間に、二本の木刀に姿を変えた。
僕=宮本武蔵が手刀で彫刻刀のように造作したのだ。
「では、いざ参る! 尋常に!!」
「こ・・・これは? 素晴らしいわねぇ。剣豪・宮本武蔵・・・ですか? 本物と見間違うほどね。アタシの未来剣・・・、名高い二天一流に敵うか楽しみじゃないの!」
ウースイも構えをとる・・・未来剣の極意はおそらく、その先読みの能力にあるのだろう。
「きえええぃ!!」
二刀を同時に抜刀するかのような剣閃で、一瞬で踏み込み斬り込む僕・・・いや、宮本武蔵。
ウースイはその刃先を見切りによって寸前で躱し、さらに踏み込んでもう一刀をその鋭い剣閃で切り飛ばそうとする!
だが、それを生命チャクラを木剣の剣先にまとわせ、瞬間の硬化で受け流す。
そして、それをまた読んでいたかのように、ウースイが剣先をさらりとひねり、下段から上段に斬り上げる・・・!
だが、それを先に躱された木刀を水平に斬り込み、弾き飛ばす。
ギャンギャギャン!
キキィイイイイイイン!!
そこで、ウースイが後方に一歩飛び、さらに後ろに下がり、また対峙した。
僕の左腕から血が吹き出した・・・。斬られたのだ。
「おやおや・・・斬り飛ばせませんでしたか? 動きは完璧に見切ったはずが・・・。さらに変化を加えてくるとはねぇ。複雑すぎて未来剣の神眼の見切りが追いつかないだなんて・・・。面白いわねぇ。」
「ふん! 貴殿こそ! 我が剣を初見で躱すとはな。やりおるのぉ!」
「へぇ。口調まで変わっちゃうのね。あなたがアタシたちの獲物の少年・・・なのね? 当たりを引いたわ。」
「我も貴殿を殺る予定だったからの。お互い相思相愛というやつか?」
「あらぁん。ヤダ!うっそぉ!嬉しいのねぇ!」
ウースイがオカマ口調ではしゃぎつつ、剣を再度構えた。
「じゃ、そろそろ死んどく?」
「この武蔵、廿一歳にして都へ上り、天下の兵法者にあひ、数度の勝負を決すといへども、勝利を得ざるといふ事なし!! いざ参られぃ!!」
オレ・・・いや僕は宮本武蔵として、チャクラを練る。
見えた! ウースイの神眼の見切りに勝つには・・・、先の先ではなく後の先を取る! それこそ唯一の勝機だ!
そこから・・・お互いが見合って銃数分の時間が経つ。
読み合いの読み合いが始まり、動かずして数百回、お互い斬り合っていたのだ。
何度となく僕は斬られている・・・が、すべて致命傷をすんでのところで躱していた。やつの見切りの少し先をうまくずらす。ほんの少しの甘えも許されないその読み・・・。
さすがは宮本武蔵・・・。その兵法が無ければ、僕はすでにやられていただろう。
「埒が明かないわねぇ。だーけど・・・。あなた・・・チャクラが持つのかしら?」
「ふっふっふ・・・。揺さぶりをかけようとて、そうはいかんぞ?」
「ちぃ・・・。その精神力・・・子供の持つものじゃあないわねぇ。ホントの宮本武蔵・・・かしら?」
「そう言っておる。こっちから動けぬとでも思っておるのか?」
そう言って僕が、いや、身体が勝手に・・・宮本武蔵の意思なのか・・・動き出す。
「おりゃーーーーっ!!!」
なんと、持っていた木剣の一刀を目の前のウースイに投げたのだ。
「なにっ!?」
投擲っ!! 驚いたのはウースイもだが、僕もそれ以上に驚いたのだった。
そこにチャクラを込めたとはいえ、こんな手がウースイに通用するはずがない!
僕は自分のしたことながら、しまった! と心のなかでそう思ったのだ。
「こんなもの・・・こうしてくれるわよ!!」
ウースイは一瞬、驚きの表情を浮かべたが、冷静に木剣の投擲を薙ぎ払った。
だが!
その薙ぎ払ったその瞬間に僕=宮本武蔵が驚くべき速さで踏み込み、最速の一刀を放っていた!
「甘いわっ! ここで突っ込んで斬りかかってくることは読んでいたのよぉ!!」
ウースイはその動きを読んでいた!
薙ぎ払いの動きは予定されていたのだ。そこから神速の袈裟斬りを叩き込んできた!
このまま、ウースイの胴体頭をを僕の剣が斬りつけたとして・・・。遠い・・・。その距離よりも、ウースイの斜め袈裟斬りの剣が僕を捉えるほうが速いだろう。
だ・・・だめだ・・・。やはり、木剣を投げるだなんて奇策が通用する相手ではなかったのだ。
まずい。だけど、もう剣を振り始めた僕の身体は止まれない・・・。
いや・・・この身に宿る宮本武蔵がその剣を止めてはくれない・・・。
「武蔵!! 破れたりぃ!!!」
ウースイが叫ぶ。そのセリフ・・・武蔵のセリフじゃないか!!
「武蔵ーーーーー!! 僕の身体で好き勝手しやがって!!! 負けたら死ぬのは僕なんだぞ!!」
思わず僕も叫んでしまった!!
ドッギャァーーーーーン!!
鋭い金属音がして、、、。
なんと! ウースイの剣が折れて、その剣が吹き飛ばされたのだ!
そう、僕の剣がウースイの剣を斬ったのだ。
武蔵は最初から、ウースイの剣を狙って斬りつけていたのだ。
たとえ、ウースイがその神眼の見切りで見切ったとしても・・・、『後の先』をとったのは僕・・・いや、武蔵だったのだ。
フォフォッフォッフォッフォッ・・・ガツッ!
ビィィイイイイイン!!
斬り飛ばされ宙に舞っていたウースイの剣が、地面に突き刺さり、振動音を発した。
ウースイは顔面蒼白になり、その一瞬、呆然としていた様子だった。
「ありえ・・・ないわ。アタシの能力『見つめるだけが たったひとつの愛』はあなたの動きを完全に予見していた・・・。ばかな!!」
そう言ったウースイはそこから喀血した!
「ぐはぁっ・・・!! ゴボッ!! そして、まさか、その先も・・・まだ剣を止めないだなんて・・・。」
そう・・・武蔵の僕は、ウースイの剣を斬り飛ばした返す刀で、ウースイの胴体を薙ぎ払い、木剣でウースイの肉体を砕いたのだった。
「飛燕の動き・・・燕返し!!」
「そ・・・その技・・・あなたの技じゃないじゃない? かつての敵の技を使うだなんて・・・剣で勝てるなら・・・手段を問わないのね・・・。」
僕もそう思った・・・。ずるーーーーいって・・・。
武蔵が答える。
「 常に糸かねを心に持べし。相手の心に、いとを付て見れば、強き処、弱き処、直き処、ゆがむ所、はる所、たるむ所、我心をかねにして、すぐにして、いとを引あて見れば、人の心能しるる物也。」
「ふふふ・・・あなたと死合えて・・・アタシは幸せ者だったわ・・・。我が人生に悔いなしってところね・・・。うふっ・・・ぐはっ!!」
「言ってることはよくわからないが・・・武蔵さん! ありがとう!」
「何を言うか・・・小僧。我を呼んでおいて、久方ぶりにいい死合だったわ。こちらこそ礼を言おう。」
武蔵はそう言って、僕の身体から消えた。
僕はもとのヒョウリに戻った。
つか、僕の能力・・・演技っていうか、イタコじゃね?
そう思ってしまったのは仕方ないだろう・・・。
~続く~
©岩波文庫版「五輪書」/「兵法三十五箇条」の第十条「いとかねと云事」
十、いとかねと云事
常に糸かねを心に持べし。相手の心に、いとを付て見れば、強き処、弱き処、直き処、ゆがむ所、はる所、たるむ所、我心をかねにして、すぐにして、いとを引あて見れば、人の心能しるる物也。其かねにて、円きにも、角なるにも、長きをも、短きをも、ゆがみたるをも、直なるをも、能知るべき也。工夫すべし。
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