第43話 復讐編 『キャサリン・セタ・ソージーズ』
アカリンとサーシャ、ジャックは、先を進んでいた。
暗闇の道がしばらく続いたが、また部屋があった。
そこには一人の女性がやはり待ち構えていた。
その髪は長い金髪、眼はキラリと光る青い眼。そのしなやかな体つきはセクシーな肢体でありながら、エネルギーに満ち、パワーが溢れている。
その装束は動きやすい薄手の布を身体に巻き付けているだけなのかと思える。
その女は、アカリンたちが近づくと、ぬらりと立ち上がって、こう言った。
「ライオンマスクの男はいるかしら?」
「ライオンマスク・・・は、ここにはいないのら!」
「ええ・・・。残念だなぁ。じゃ、代わりにあなた達が死ぬかしら?」
美しい金髪の髪をポニーテールに束ね、眼の色は青、薄いレースの青い服装をしている。
ジャックは生来のプレーボーイの血が騒いだのか、ちょっと気取ったポーズをとり、ウインクをしてこう言った。
「お嬢さん! 獅子もいいけど、狼のほうがいい男だぜ?」
「あら? 狼さん・・・。私と釣り合う男は、シシオウ様ぐらいなの。残念ね。」
「いやいや、まあそう言わずにちょっと付き合ってよ?」
「カッパちゃん! ウィッチ! お前たちは先にいけ。オレがこいつと殺ろう!」
「ウルフ!! わかった!」
「わかったのら!」
「う~ん・・・。私がそんなこと見逃すとお思い?」
「おっと。見逃してやってくれないか? お嬢さん。」
一瞬・・・。
目を離したその瞬間だった。
その女性がアカリンに襲いかかった。そのしなやかな身体から芸術品かとも思えるような上段からの踵落としが繰り出された。
間違いなく躱せない・・・そんなタイミングであった。
「ウィッチーー!!」
思わずジャックは声を上げた。警戒はしていたが、なんとも恐ろしいスピードだった。
かろうじて獣人になったジャックの目では追えたが、反応し追撃まではできなかった。
超速・・・まさに『アクセラレーター』・・・こいつがそれだとジャックは確信した。
だが、その攻撃は空を切った。
なんと、そのアカリンの姿は幻影だったのだ。
サーシャとアカリンは幻影で目くらましをかけ、そのすきに奥へと進んでいたのだった。
「ちっ。まあ、いいわ。私の持ち分は・・・。ここで果たすとするのかしら?」
「おまえ・・・。『アクセラレーター』か?」
「へぇ・・・。私をご存知なのかしら?」
「ああ。今日のオレのターゲットはおまえだった!」
「あら? そんなにも私に注目してくれてたの? 嬉しいわね。」
「じゃあ、名乗らないで殺すのも可愛そうだわね。私はキャサリン・セタ・ソージーズ。能力は『hard to say i'm sorry』。 そして、我流暗殺格闘術を極めてるわ。」
「なるほど。では、オレは『シルバーウルフ』、銀狼だ。能力は『月と狼の誓い』だ。人間ごときが人狼たるオレに敵うはずがないだろう。」
「ふっふっふ。自信があるのねぇ。ま、そういうオトコ・・・嫌いじゃないわ。」
「くくく。オレは女でも容赦はしない。さあ、殺ろう。」
「ええ。殺りましょう。」
言うが早いか二人の姿は、いや、二匹の姿は消えた。
常人の肉眼では見えない超スピード同士の獣の戦い。
時々、二匹の攻撃が放たれたときの音が遅れて聞こえる・・・そうとしか見えない。
この空間で、時々衝突音と衝撃波が炸裂する。
ゴガッ!! ドガッ!! バキッ!! ギャンっ!! シャキィン!!
ギューーーン!!
キャサリンのものすごい勢いの攻撃。上段からの打ち下ろしの拳からの裏拳。さらに前蹴りが出たかと思えば、その足が止まらずにジャックの蹴りを躱しつつ、踵落としを繰り出す。
しかし、その攻撃をものともせずにすんでのところで躱すジャック。上段の打ち下ろしを体ごと躱したかと思うと、裏拳をのけぞって躱す。
前蹴りをバク転で躱し、蹴りを繰り出す。それを躱され、踵落としでの攻撃を受けるも、前へ出て体ごと受け止めた。
二人の動きが止まった。
キャサリンの踵落としの足を前に出てその肩口で太もも辺りで受け止めた。
一本足で見事なまでにバランスを保ちながら、いつでもその支えている足からの追撃を繰り出せる様子でタイミングを伺っているキャサリン。
その美しいまでのボディバランスと身体。
一方で、ジャックはキャサリンの足を肩口で受け、彼女がセクシーな足を高く上げた体勢のため、その巻きつけられた布で彼女の股間がちらちら見えそうな見えなさそうな・・・。
思わず目のやり場に困ってしまったか、ジャックはキャサリンの目をじっと見つめた。
「なかなかのスピードだ。この人狼の力を解き放ったオレと互角に渡り合えるとはな。」
「あら。あなたもやるわね。私の動きに来れたのは、シシオウ様についで二人目だわ。」
このままだと、ジリ貧の戦いを続けて長引いてしまう。
ジャックはキャサリンの高く上げた方の足を掴み、思い切り上にぶん回そうとした。
「それは悪手ね。シルバーウルフ!」
キャサリンは掴まれた足を軸に空中に飛び上がり身体をコマのように回転させ、もう一方の足でジャックの頭を蹴りつけた。
コマのように回転した遠心力が加わったことにより、威力の増した蹴りにチャクラが練られたことにより、さらにその威力を増し増しで衝撃を与え、ジャックの頭が弾け飛ぶ。
「ぐあっ!!」
飛ばされたジャックは部屋の壁にぶつかり、倒れた・・・が、すぐにジャックが口元から血を垂らし、吐き捨てながら立ち上がる。
「タフな方ですねぇ。私の『独楽』を食らって立ち上がってくるとは。」
「なるほど。お嬢ちゃんは格闘術の天才か・・・。」
ジャックは改めて仕切り直す。
このままでは埒が明かないな・・・ジャックはそう思った。
ジャック・ジャンモードは生まれついての能力者だった。
物心ついた時から、常に『月と狼の誓い』により、自身の異能の影響下にあった。
自分がまわりの人間と違うということをまざまざと感じていたジャック。
実の両親でさえ、ジャックの心は理解できない。能力者の孤独を、非・能力者がわかるはずもないのだ。
孤独であった―。
だが、ある時ジャックは運命の出会いを果たすことになる。
それはアカシックレコーズの『七つの大罪人』の一人、強欲のマモンとの出会いだった。
9才にして、ジャックは地元でも札付きのワルになっていた。
すべての人間はのろまだ。ジャックから見るととるに足らないつまらないヤツラとしか見えなかった。
その超スピードで思ったことは何でもできた。
欲しいものはすべて盗むことができたし、自身に喧嘩を売ってくるものはすべてボコボコにしてやった。
まわりの人間は子供のジャックの顔色を見て接し、両親でさえ、ジャックを持て余していた。
ある日、ジャックは盗みに入った店で、強盗団の一味と鉢合わせをし、店の主人を殺そうとする強盗団をぶちのめした。
だが、それを恨みに思った強盗団の頭が、ジャックに懸賞金をかけ、その追手のプロの殺し屋にジャックは初めて負傷をする。
殺し屋もそのころは知らなかったがビヨンド能力者だったのだ。
毒を盛られ、その能力を発揮できなくなったジャックは絶体絶命、死ぬところであったが―。
そこにさっそうと登場したのが、強欲のマモン、その人であった。
圧倒的なパワーで殺し屋を蹂躙したマモンの姿に、ジャックはスーパースターのように憧れを抱くのであった。
そして、アカシックレコーズの一員になり、更生したジャックはその身体能力を活かし、格闘サッカー選手の道へと進むのであった。
ジャックは、改めてキャサリンの姿を見て、ニヤリと笑った。
この世はこれだから面白い。自身の存在の可能性をまだまだ知ることができた。そう思える。
ジャックは自身の『月と狼の誓い』の能力をチャクラで全開にし、自身の生み出した格闘術、我狼戦闘技術の構えをとった。
~続く~
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