第33話 復讐編 『和流石建設本社・潜入3 力の差』


 僕は、タイミングを伺う作戦を取ることにした。

たしかに、事を起こしてからは危険度は増すことには違いない。


 だが、僕は半ば、カタキさえ討てればいいという気持ちもあったのだ。失敗だけは絶対に駄目だ。


 孤児院のみんなの恨みを晴らさなければ、彼らは浮かばれない・・・。僕はそう自身の気持ちを追い詰めていたのかも知れない。




 護衛の男の一人が、僕を見つけて、声をかけてきた。


 「あ、ユージンさん。こっちです。」


 「おお。」


 軽く僕は返事して、案内された部屋の前に立つ。




 部屋の中に・・・生命反応チャクラが3つ・・・。


 アクノと和流石、ナオの三名だろう。


 「社長、ユージンです。失礼します。」


 中から、和流石の返事が聞こえる。


 「おお。入れ。」




 僕は、障子を少し開いて、入ろうとして、衝撃を受けた。


 中には・・・4名いたのだ。


 おかしい・・・さっきは三名のチャクラしか感じなかった・・・。


 もう1名は、アクノ大臣の後方に気配を消して立っていたのだ。




 (こ・・・この男は。。。相当できる・・・。ベリアルと同等か、それ以上か・・・。)


 僕は動揺をさとられないように、平成を装い、ナオの立っている横に立った。


 アクノ大臣と、和流石社長はお互い向かい合って座っていた。






 アクノ大臣の後ろの男は、どうやら、アクノのボディガードということらしい。


 これは、外の護衛を先に片付けるのはやめておいて正解だったらしいな・・・。


 もし、そうしていたら、この男に即座に悟られ、警戒されていただろう・・・。




 僕は、名乗ることにした。


 「私はユージン・シーナ。和流石社長の護衛兼手足のような存在です。以後、お見知りおきを・・・。アクノ様。」


 僕はユージンの記憶を読み取り、アクノとユージンは顔を合わせたことがないことを知っていた。


 「おお、そうか、なかなかいい面構えをしておるな。和流石の。いい部下を持ったな。」


 「いやいや、お大臣様。そちらの護衛の者、なかなかの者とお見受けしましたが?さすがですな。」


 「ああ、この者はガルウ様からお借りした十魔剣の頭だ。名をシシオウ・マコール・カルキングという。強さでこの男の右に出るものはおらんじゃろうて。」


 「ほお、ガルウ様から!?ああ、今は様子見の期間でしたね。それででしょうかね。」


 「だろうな。我々ガルウ派が、いずれゾーン財閥の主流になる日も近いじゃろうて。」


 「ほんにほんに。お互い、ワルですなぁ。」




 「ふっ。和流石の。お主には及ばんて。ふぁっふぁっふぁっ!!」


 「いえいえ、お大臣様こそ。ふぉっっふぉっっふぉっ!!」


 な・・・なんだこれ。時代劇の一場面をリアルに見てるような変な感じ。演技としては・・・大根役者だなw




 しかし、やはり、目の前のシシオウという男、十魔剣の頭、つまりリーダーか。


 今は黒のスーツで上下を着ていて、髪は黒髪、だが、その顔は大きな白い仮面をつけている。表情が読み取れない。瞳の色は漆黒ともいうべき、闇の色・・・。

そして、その肉体は恐ろしいまでに鍛え抜かれているのが見て取れた。


 見ていては吸い込まれそうだ・・・これは相当ヤバい相手だな・・・。


 だが、しかし、ここまで来て僕も諦めるわけには行かない。アクノと接触できる機会はほとんどないからだ。




 「ところで、アクノ様、例のショッピングセンターの完成も間近になってきました。いよいよ、我らの懐にも莫大な利益が入ってきますぞ。」


 「んん~w それは愉快だな。わっはっは。」


 ああ・・・僕の前でこんな言ってはいけないことを・・・。


 心の奥底から押さえきれないものが湧いてきた。


 どす黒い復讐の炎・・・僕は・・・カタキであるはずの・・・あの悪魔の貴公子、ベリアルの姿をイメージしてしまった。




 瞬間に僕は、あの顔の赤い残忍な悪魔、ベリアルの姿になり切った。


 「喰らえ!みんなのカタキだっ!!ソドムの黒龍炎をっ!!!」


 そして、ヤツの能力『The brainless throngs steps of horror』の能力で、黒い炎『ソドムの黒炎』を生み出した。そして、それを龍の姿に模して、和流石とアクノに向かって、一気に解き放った!


 轟音とともに黒龍の炎が、ヤツラを襲った・・・。これは躱せるタイミングではない。


 殺った!僕はそう思った。実際、隣のナオは何にも反応できていなかったし、和流石とアクノはただただ、驚きの表情を浮かべていたのだった。




 ・・・。




 シュォン・・・。プシュァァ・・・。





 僕は、愕然とした・・・。


 なんと、あの勢いのあった黒龍の炎が・・・一瞬にして消え去り・・・。


 ただただ、もとの状態だったからだ・・・。




 「な・・・なんだ?お・・・おまえはベリアル・・・裏切ったのか!?」


 そう和流石が僕に問いかけてきた。


 僕の思考は、なぜ?どうして?が渦巻いていたが、もうこうなっては奇襲に失敗したのは明白。


 「うわああああーーーー!!」


 正面から、もう一度黒龍波を放つ。




 そのどす黒い炎が放たれたかと思った瞬間、青く辺りが光ったかと思うと、さっきと同じ現象になった。



 シュォン・・・。プシュァァ・・・。


 炎は一瞬にして消え去ったのだ。




 アクノの後方のシシオウが、手をかざしていた・・・。


 そこから青い光が放たれていたのだった。


 「ふむ・・・きさまは・・・ベリアルではないな?」


 シシオウは声を発した・・・。




 「残念ながら、オレがいる限り、アクノ様や和流石社長には傷一つつけられないよ?」


 そう言って、シシオウが一歩前に詰めてきた。


 まだ、間にテーブルがある。


 「おい!こら!きさまぁ!!!」


 すぐさま、となりのナオが殴りかかってきたので、一瞬にして、チャクラショックを与えて気絶させた。




 そして、僕は入口近くに、一瞬で下がった。


 得体の知れないシシオウの能力を警戒したからだ。


 「ふむ・・。素早いな・・・。その能力・・・セブンス能力者・・・いや・・・ふむ・・・興味深い。だが+5以上の能力者と見受けた。」


 「今、何をしたんだ!?」


 僕は思わず聞き返した。





 「シシオウ!こやつを・・・殺せ!たとえ、本物のベリアルだろうと、かまわん。殺してしまえ!!」


 アクノが必死にそう叫んだ。


 「そうよそうよ。殺ってしまえ。」


 和流石が追随して叫ぶ。




 「オレの能力『歴史が問いつめるまぶしいほど青い空の真下』の前に敵はいない。この世の全てのどんな能力よりオレが強いのだ!」


 能力名・・・名は体を表すという・・・。謎の能力ではあるが、どうやら、さっきの青い光は何か消し去ることのできる能力と推察した。まだそれが全てではないとは思うけど・・・。


 勝てない・・・このままでは、ヤツラに文字通り、僕は傷一つつけることができない・・・。


 ベリアルのあのものすごい必殺技を仮に出せたとして、無理な気がする。


 ここは、残念ながら撤退しかない。




 僕はもう一度、黒い炎を思い切り、自分の周りに身にまとって、一気にヤツラにぶつけた。


 「ソドムの黒炎!!喰らえ!おまえらも地獄を味わうんだ!!」


 それは心から思っていたことであり、本心であった。


 そして、この攻撃がシシオウには通じないこともわかっていた。


 僕は、一目散に後方の障子を突き破って逃げ出した。まさに脱兎のごとくだ・・・。




 表にいた護衛3名が、驚きの表情とともに、一瞬で攻撃に転じてきた。このあたりはさすがと言えよう。よく訓練された護衛だ。


 「ふん!」


 「こいつ!」


 「うりゃー!」


 それぞれ、蹴り、拳、そして一番後衛の護衛が、銃を構えた。


 


 前にいた二人の連携攻撃ををかわし、黒炎をお見舞いした。


 銃を撃ってきたその弾丸を、手をかざし、黒炎で消滅させる。そのままの勢いで後衛の護衛に近づき、黒炎の一撃を食らわせる。


 まあ、おそらく死にはしないだろう・・・。僕の復讐の気持ちはこいつらに直接は関係ないし、ベリアルのようにこいつらを恐怖させることはできなかった。


 威力は本物のベリアルの十分の一くらいにしかならなかっただろう。




 料亭『和流匠亭(わるだくみてい)』の入り口まで駆け抜けた。


 このままだと逃げ切れると少し安心したその瞬間、目の前の右壁から青い光がレーザーのように貫いて、シシオウの姿が出現した。


 そう、まさにいきなり瞬間移動でもしたかのように、僕の逃走経路の目の前に現れたのだ。


 くぅ・・・、やはり、まだ隠され能力を持っていたな・・・。




 シシオウは黙ってその左手をかざし、僕の方を指差した。


 瞬間、僕の右肩に、青い光のレーザーが発射された。


 「ぐぁっ・・・ぐぐ・・・。」


 僕の右肩に穴が空いていた・・・。


 この能力は、ヤバすぎる。ベリアルよりもこのシシオウという男・・・格上だ。


 今の僕では、勝てない・・・。




 絶望か・・・。


 ヒョウリ、キャサリン先生、シスター・テレサ、ガストーン、、孤児院のみんな、すまない・・・。


 そう思った瞬間、僕はシシオウの後方に現れた人物に目を釘付けにされた・・・。





 まさか・・・ダメだ・・・。来ちゃダメだ・・・。


 その人物は、リーヴァイス・ジーンズ班長、その人だったのだ・・・。


 意外! 意外すぎるその人物の登場に僕は、ただただ、どうして?という疑問しか考えられなかった。


 シシオウがその僕の異変にきづき、ゆっくり、リーヴァイス班長のほうを振り返った・・・。


 「んんーー?おまえは・・・誰だ?」


 


 リーヴァイス班長はただ、黙って僕に向かって微笑んだ。



~続く~



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