第32話 復讐編 『和流石建設本社・潜入2 決行』


 一週間が何事もないかのように過ぎ去った。水曜日になった。


 あいかわらず、『ライオン王子、ライオン王に俺はなる!』公演は連日満員御礼、感謝感激雨あられだ。


 また、俳優ランキングも、変動があった。




 そして今、僕=ヒョウリの俳優ランキングは、283位まで上がっていた。


 この急上昇は若手としては異例の上昇で、雑誌やテレビの取材も頻繁にくるほどになっていた。


  まあ、大きな理由としては、ヒョウリがイケメンだってことなんだけどね。


 今やモデルとしても活躍の場を広げつつあった。






 そして、我が『チョーサ劇団』きっての看板俳優のリーヴァイス班長は、一気に世界に名を轟かせた。


 今、世界俳優ランキング30位にまで上がっている。


 これは、ジャパンエリア出身の俳優で、過去最高記録であった。




 僕は本当に素直に、嬉しく思う。憧れのリーヴァイスさんがやっと認められてきたことに・・・。


 ミカも変わらずの人気で、77位をキープしていた。すごい。さすがミカだ。


 まだまだ、僕の俳優王への道は始まったばかりとも言える。


 気合を入れ直して、演技に集中していた僕であったが、一週間が経過して・・・。僕は例のアクノ大臣と和流石が会合する日になったことは、忘れてはいなかった。




 そして、今日の公演が終わったら・・・。ちょうどヤツラが会合の場所に集まる。


 僕はなぜか、これは運命の予感しか感じられなかった。


 孤児院のみんな・・・。僕は・・・。彼らの無念を晴らさなくてはいけない。


 そうだろう?




 僕は公演が終わった後、着替えを済ませて、帰り道につこうとした時、後ろから呼び止める声がした。


 「おい!飯でもいかねぇか?」


 それはリーヴァイスさんだった。




 「あ・・・!いや・・・すみません、今日はちょっと野暮用がありまして・・・。」


 僕はとっさにごまかして断った。


 「すみません、お誘いはありがとうございます。今度・・・今度、行きましょう!」


 「おお!わかった。そりゃあ、残念だな。ま、今度な。」


 「はい!・・・リーヴァイスさん、さよなら・・・。」


 「ん? お、おお。また明日な!」




 僕はひょっとしらた、もうリーヴァイスさんとは会うことがこれで最後になるかも知れない・・・そんな気持ちを押し殺して、別れを告げた。


 そして、帰路についた。


 『獅子の穴』に帰り、以前、アカリンに護身用にもらったグローブを嵌めて、全身防弾黒タイツに着替え、前もって用意しておいたユージンの着ていたスーツに着替えた。


 「・・・行くか・・・。」




 そして、『獅子の穴』を出て、ロッポンギエリアのヤツラの系列の料亭『和流匠亭(わるだくみてい)』へ、向かった。


 途中、誰に会っても大丈夫なように、まったく見知らぬ他人になりすまして、気配をできるだけ消して、人並みを避けるかのように進んでいった。


 だが、僕の心の中は復讐の炎がめらめらと燃え上がっていた。




 一方、料亭『和流匠亭(わるだくみてい)』では、奥の座敷の間にはすでに、アクノ大臣が到着していた。


 時間の入りをずらすことで、会合が行われることを少しでもカモフラージュするという意図だった。


 アクノ代官の護衛には、なぜか、たった一人の男しかついていなかった。


 目立ちたくなかったのだろうか。




 その男は、髪は黒髪、だが、その顔は大きな白い仮面をつけている。表情が読み取れない。瞳の色は漆黒ともいうべき、闇の色・・・。その肉体は恐ろしいまでに鍛え上げられた肉体をしていた。


 明らかに、やり手って感じの護衛だった。だが、この男は完璧な隠形の術を身に着けていたのだ。僕はこの時、この男の存在に気がついていなかった。


 アクノも安心しきっている様子だった。お酒をちょびちょび飲みながら、芸者とゲスい会話を続けていた。




 僕は料亭『和流匠亭(わるだくみてい)』の近くで、待機していた。


 ヤツラのチャクラはもうすでに把握している。半径300m以内に来たら、もう感知できる。


 そして、その時は意外と早くやってきた。


 2台の車が近づいてきた。そのうち後ろの車に、和流石八千王が乗っている。


 そして、その両脇をヤツラ、チンピラコンビ、ナオとユージンが乗っている。




 僕は少し緊張感があったが、それよりも集中力が増していた。


 そして、前に止まった車から全部で3名の黒スーツの男たちが降りて来て、後ろの車の助手席からも一人おりてきた。


 そして、料亭入り口の側の後部座席のドアが開き、先にナオ・カイザワが降りてきた。相変わらず顔だけはイケメンだな。嫌味なやつだが・・・。


 その後、和流石が降りてきて、反対側のドアから、ユージン・シーナが降りてきた。こいつはスキンヘッドが眩しいな。街灯に反射してるよ、もう。




 そして、僕は傘を取り出した。いかにも和柄の芸者が差す提灯傘だ。そして、芸者姿に成りすました。


 その上から着物を羽織る。この着物は上からすっぽりとかぶるタイプのもので、一瞬で豆粒ほどまで縮むことができる圧縮機能付きのものだ。


 まあ、本当は収納スペースを取らないための機能ということなんだが。


 そして、タイミングを見図るように角から、すぅーーーっとできるだけ気配を消し、歩いて近づく。無心・・・。そう僕は芸者だ。






 先に3名の男が料亭の入り口から中に入り、その後、ナオが和流石をサポートしながら、先導する。


 残りの一人に入り口外に見張りとして立たせて、そこをユージンが、


 「しっかり見張っとけよ?」


 と声をかけ、中に入る。




 その一瞬・・・。まさにその瞬間しかないというほどのタイミング。


 芸者の格好をした僕が提灯傘で、外の見張りの男の視界を塞ぎ、ユージンとの間に入り込んだ。


 そこで早変わり中の早変わりだ。ユージンを前と同様、チャクラショックグローブで、一瞬に気絶させ、上着の着物をユージンの上からかぶせる。


 そして、ユージンの手を僕が握り、一緒に傘を差した。そのまま、見えないようにもう片方の左手を後ろに回し、デンキウナギのように変化させ、ユージンの足に絡ませ、歩かせたのだ。


 「おいおい、サービスのいい料亭だな!」


 と、わざと、声を上げ、ナオや、和流石、先に入った3名の男の気を引く。


 「なんだか、この姐さんが、気分が悪くなったそうだから、ちょっとオレ、誰かに任せて来ますね、社長。」


 「ふむ、ま、早く戻ってこいよ。」


 「へい、もちろんです。」


 和流石は何の警戒もしていない様子だった。そして、玄関を入ったところで、女将が出迎えに来ているのを見ながら、僕は、ユージンを抱えながら、


 「女将、空いてる部屋はあるか?」


 と聞くと、女将は、何やら察したって感じのイヤラシイ笑みを浮かべ、


 「どうぞ、このさきの奥の部屋で少し休ませてあげておくんなまし」


 と、答えた。




 「おう。さすが、女将。気が利くな。」


 そう言って、僕は、示された奥の部屋に、芸者に成りすましたユージンを、デンキウナギのちからで、歩かせつつ、部屋へ滑り込んだ。


 ふぅ・・・入れ替わりはうまく行ったようだ。




 ユージンを押し入れに押し込み、芸者の着物を圧縮させ、僕はユージンの姿に成り切った。


 ここからだ・・・。


 作戦としてはおおまかに2つ、見張りの男たちを全て気絶させてから、会談の座敷に入り込むか・・・。


 このまま、ユージンとして、座敷に入り、機会を伺うか・・・。


 前者の作戦のメリットは、敵の数を減らしてから、仕掛けるので背後の憂いがないこと。だが、デメリットとしては、即行動に移さなければ、倒した見張りが見つかり、警戒されるまで時間がないと言うことだ。


 後者の作戦のメリットは逆で、タイミングを伺える反面、背後の憂い、また人数の不利が絶対的だということだ。


 どちらの作戦をとるべきか・・・。僕の決断は・・・。



~続く~



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