第28話 復讐編 『警察』


 ここは、ミギトたちが十魔剣の豺狼たちの襲撃を受ける数刻前の警察署内―。


 「来たか・・・?」


 「は!我々をお呼びですか?東宮監視官!」



 東宮(トウグウ)・サー・ダイブ捜査監視官が、二人を眺めながら、話す。


 「うむ・・・。忌々しいが、シンディ監視官からクシャナ警視官補佐へ応援要請があり、我々東宮班が子供の監視を行うことになった。」


 「ほう・・・。しかし、めずらしいですな。あちらの側から素直に応援要請が来るのは・・・。」


 そう返事したのは、意志華(イシカ)・ホノリス捜査官。




 「まあ、やつらは十魔剣の相手をするそうだ・・・。」


 東宮が答える。


 黙って聞いていたもうひとりの捜査官・馬頭(バトウ)・アンノウンが、ここで声を発する。


 「ふん・・・。ま、あまり色気のない仕事だが、任務なら仕方ありませんな。あとで、あのメギツネ監視官に何かお礼ぐらいさせたいもんだがな・・・。ふっ。」





 バトウ捜査官は、パワー型サイボーグだ。身長187cm。コミカルで少々下品な一面を持っているが、同僚の死に激昂する一面など、性格のメリハリがより顕著。


 先日、別の事件で仲間が殉職したときには、激しい怒りを表し、犯人をボコボコにして一時、謹慎させられていたこともある。


 イシカ捜査官は、電脳戦闘のエキスパートで署内で一番の高齢、わりと小柄。その経験は捜査で非常に役立つことが多い。

 



 東宮捜査監視官は、身長178.5cm。捜査メンバーの中では唯一の妻帯者である。家族は妻と一女。情報収集能力・推察力・直感力に優れている一方、感情的に揺さぶられる傾向にある。


 シンディ監視官とは、何かと争う傾向にあるが、その実力は認めている。それに、直属の上司であるクシャナ・ギサーイ・オンジ警視官補佐には頭が上がらない。


 「ま、頼んだぞ。おそらく、何か動きがあるのは間違いなさそうだ。」


 「は!了解です!」


 「へい。わっかりました~。」


 こうして、彼ら二人の警察官が、すぐさま、情報を得たレスラー道場『獅子の穴』へ向かったのだ。





 彼らが『獅子の穴』へ向かっている途中で、バトウがイシカに声をかけた。


 「イシカさんよ、どうやら、この先で何かあったらしいですぜ。」


 「ふむ。やはり、私の勘違いじゃあなさそうだな。」


 「ああ。何かチャクラの激突したような波動を感じた。間違いない。」


 「じゃ、急いで行きますかね。」


 「おう!」




 二人の警察官が、その現場に直行したところ、その場所は、工事中のフェンスで区切られた仄暗い空間だった。


 そこに、巨大な男と、小柄な老人が横たわっており、そのそばに大きな男・・・レスラーっぽい肉体の男と、子ども・・・と言ってもまあ、17~18才くらいの少年・少女ら三人が立っていた。


 「お前たち!そこで何をしている!?」


 バトウが大声で叫んだ。


 イシカは用心深く、電子銃を後ろ手に構えていつでも抜けるようにしていた。




 そのレスラー風体の男が、両手を上に上げてこう叫んだ。


 「私は、格闘家のナオト・デイトと申す者。怪しいものではありません。この倒れてる二人に突然、襲われたので正当防衛として反撃したまでです。」


 「ほぉ? あのレスラーのライオンマスクか・・・。」


 「はい。ご存知頂けていましたか。それはありがとうございます。」


 「我々はこういうものだ。」


 警察官二人は、例によって警察電子証を掲げる。


 そのプロフィール情報がその場の全員に伝わったところで、口を開く。




 「さきほど申し上げましたが、彼らが私に向かって急に襲いかかってきたのです。私はレスラーという職業柄、いわれのない恨みを買っていることもしばしばあるので、そのたぐいかと。」


 「ふむ。で、反撃したというわけですな。ま、正当防衛といえど、一応、事情を詳しくお聞かせ願いたいので、署までご同行願えますか?」


 イシカがそう言った。


 「もちろんです。この子たちは巻き込まれたに過ぎませんので、帰してもいいですか?」


 「一応、名前と住所、連絡先は聞かせてもらいますよ?」


 バトウが言う。




 ミギトはそこで、初めて口を開いた。


 「ええ、かまいません。僕も『獅子の穴』の関係者です。」


 そう言って、その場では、三人は開放されたため、ナオト兄さんには申し訳なく思いながら、二人を駅まで送ることにした。




 駅へ向かう道すがら、アカリンが自分の推理を展開していた。


 「おそらく、彼ら警察官達は私達をつけていたか、追いかけてきたかでしょうね。」


 「どうして、そう思うんだい?」


 僕は疑問に思った。




 「来るのがやけに早すぎた・・・。」


 「なるほどなのら!さっすが、アカリン!」


 サーシャも妙に納得している。


 「そんなものかな。確かにちょっと早かったようには思うけど、誰か近所の人が通報したんじゃないかな?」


 「いや、あの場所は工事現場で、人通りもない場所だった。周りの住人に気づかれたとは考えづらい。」


 「そっか。じゃあ、やはりその前に来たあの警察官たちも僕たちが目的だったようだし、これから監視がつくかも知れないのか。」


 「そうね・・・。これからは慎重に動かないとだめだね。」




 「相手を待っているだけではダメなのかもしれない・・・。」


 「でも、ミギト。一人で動くのは危険だから、絶対ダメだよ。」


 「ああ、わかってる・・・。」


 そうこうしている間に、駅に着いた。




 「うん、気をつけるのら。ミギト。」


 サーシャも言ってくる。


 「はいはい。わかってますよ。僕より、アカリンやサーシャも気をつけてよ。」


 「もちろん、わかってるわよ。」


 「のらー!」




 僕は彼女たちが電車に乗り、電車が出発するのを見届けた。


 すると、その時、携帯情報端末が通信をキャッチした。


 音声データや、映像データを直接、遠隔地につなげる双方向の端末である。




 「ミギトか!?オレだ!」


 そう音声とともに、ナオト兄さんのホログラムが目の前に現れる。


 「ナオト兄さん!」


 「ああ、今、警察署から開放されたよ。」


 「え?けっこう早かったですね。」


 「うむ。どうやら、ここの管轄の警察のお偉いさんは、シルフ系らしいな。」




 「そんなことが関係するのですか?」


 「ああ。オレは今までシルフ系の役に立ったこともあるからな。」


 「それで・・・。」


 「ああ。ひとまず、オレの言うことを信用してくれたようだ。」


 「なるほど。」


 「まあ、最も、オレと同行してたあの警察官の一人は反対していたようだったがな。イシカとか言ったか。」


 「あぁ、あの人ですか。」





 「うむ、彼はサラマンダー系らしい。警察権の独立を願っているみたいだな。」


 「なるほど、警察内部でもいろいろあるんですね。」


 「そうだな。だが、どの派閥が優れているとかいうのは、オレはないと考えている。今は、シルフ系を利用させてもらっているが、オレはオレの信条に反することには従わん。」


 「ナオト兄さんの正義は、僕も知っているよ。」


 「ふっ。そう言ってくれると嬉しいものだがな。」


 「じゃ、道場に帰るから・・・。」


 「うん。わかった。ありがとう、兄さん!」


 「いいってことよ。」


 僕は、道場『獅子の穴』へ帰路についた。






~続く~



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