第26話 復讐編 『襲撃・二番手合い』



 暗い夜道のはずだが、街中に電灯が灯り、月明かりもあり、意外と明るい。


 そんな中、僕=ミギトたちは駅の方に向かって歩いていた。


 その途中に工事中のフェンスで区切られた空間があり、そこだけ少しほの暗かった。




 「えー、ミギトってば、そんなこと言ってたの?」


 「いや、まあ、正確には僕ミギトではなくって・・・うーんややこしいな。」


 「あー、ヒョウリ君が言ってたってことね。サーシャって子どもみたいだと。」


 「あ、いや、若々しいってことだよ?誤解しないでね。」


 「むぅー、今度ヒョウリにはご飯のとき、おごってあげない!」


 「・・・って、僕が言ったんじゃないんだし、それに別に一回も今までおごってもらったことないじゃないか!?」


 


 とか、他愛もない話をしながらここまで帰ってきたのだったが、その工事現場の前を通るとき、なぜか静かになってみんな黙り込んでしまった。


 「な・・・なんだか、こんな雰囲気は怖いのら・・・。」


 「そ・・・そぉ?わた・・・わたしは、ぜ、ぜんぜん、平気だけどな。」


 「そのわりには、声・・・震えてるよ?アカリン。」


 「こ、これは別に、そ、そんなんじゃないんだからね。」




 そう言っていた僕たちの前に、なんだか巨大な影がいつのまにか立っていた。


 「はっ!」


 気づいたら、後ろにも、小さくて丸い?太っているのか、影が立っていた。


 前の方の巨大な影は人・・・というには大きすぎるくらいの巨人で、その肩にだれか小柄な老人が座っていた。




 「ふむ・・・。お前らが、サワのヤツをやってくれたヤツラかの?」


 老人がそう言葉を放った。


 「うが・・・。」


 巨人が返事?のようなうめき声を上げる。


 後ろの丸い影は一言も発しない。


 「・・・」




 「まさか!?あなた達は?」


 「十魔剣のヤツラか!?」


 「ほほ。御名答・・・。サワのやつ、相変わらず、口が軽ぅて困るの・・・。わしらが二番手合いというわけじゃ。」


 「がぁ・・・。」


 


 老人がみるみる狼の姿に変わっていく・・・。


 「わしは豺狼と呼ばれておる。今宵は月明かりがいい夜だわい・・・わしの能力『窒息しそうなスリルな瞬間・SOUL』が彩り冴え渡るのぉ。」


 「不死鬼!イワン坊やよ!一斉にかかれ!スキを与えるんじゃないぞ!」


 「がぁ!」


 「・・・」




 


 「・・・って、爺さんも自分や仲間の名をバラしてるじゃんよ!?サワって女のこと言えんのかよ!」


 「ふふ・・・わしにとって、死にゆくものに名乗っても差し支えがないからのぉ。今までわしは仕事を失敗したことがないのでな・・・。」


 「そう言って、やられるのが悪いやつなのらー。」


 「そうね。サーシャ、そのとおり。例のヤツ、やるわよ!」


 「らじゃーなのー!」


 


 そうアカリンが言った途端、周りの空間がおかしくなった。なんだか、異常に歪んで見える・・・。


 どうやら、あたりの空間を捻じ曲げたようなアカリンの幻覚の能力のようだ。


 アカリンの能力って、味方にも効いちゃうんだな・・・。ちょっと、これはやっかいだな。




 すると、大量の水が、あたりを包み込んだ・・・。そして、後方の太った丸い男・・・イワン坊やって呼ばれてたっけ?そいつに水が激しく激流となって押し流していく・・・。


 あ!そんな状況に僕は、水の中でも活動ができるイルカに変身してたんだけど・・・だからなのかスポッと下半身の服が流されちゃった!!


 ま、今はそれどころではないか。よく見たら、アカリンが、あの巨人の男、不死鬼だったっけ、その男の背後に回り込んでいたのが見えた。


 そうか!アレをやる気だ。サワをやったときのチャクラショックを与えるんだな。


 不死鬼も、豺狼もまったく反応できていないように見えた・・・。




 これは決まったか!


 僕はそう思った。そして、次の瞬間、巨人の不死鬼の後頭部をアカリンが殴りつけた。


 「これで、おねんねしてなさい!」


 アカリンが勝ち誇った声で、そう言った瞬間、なんと、その巨体がまったく意に介さなかったかのように動き、その両腕で、アカリンを捕えた。


 「なっ!?なぜ? このグローブは、直接脳にダメージを与える・・・どんな能力者でも耐えることなんてできないはず・・・。」




 「甘いのぉ・・・嬢ちゃんや。うちの不死鬼の能力『生まれて来なければ本当は良かった弱虫の偽善者』、その真髄は不死身の肉体なのだよ!物理攻撃は効かんのだよ!」


 「くっ・・・!そんな!?」


 「アカリン!今、助けるのら・・・あっ!!」


 サーシャが後ろ小さな悲鳴を上げた。なんと、あの丸いイワン坊やという・・・坊やにしてはでかすぎる太った男が、なんと流されずに突進してきたのだった。


 サーシャは不意を突かれた様子で、跳ね飛ばされてしまった・・・。一気に水が引く・・・。


 僕は、ミギトの姿に戻った・・・。


 「な・・・なんだ・・・お前・・・変態じゃったのか? なぜ今、ハダカになっておるのじゃ? ヤバいヤツじゃのう? わしら以上に・・・。」


 豺狼が僕を見てそう言う。





 「あああああああああ!」


 そうだった・・・。 さっきイルカの姿になった時、下半身の服は脱げたんだっけ・・・。


 「きゃあ!」


 アカリンが僕のほうを見て、悲鳴を上げた・・・。


 「ぐが・・・おま・・・え・・・へん・・・たい・・・。」


 「なんだよ。不死鬼ってやつ喋れるんじゃないか・・・こんな時だけ、喋ってくるなんて・・・。僕がホントのヘンタイみたいじゃないか!?」


 「おま・・・へん・・・たい・・・。」


 「うるせー。」





 「う・・・うぅ・・・なぜ流されないのら?」


 サーシャが、ふらふらと立ち上がった。どうやらなんとかイワン坊やがぶつかる瞬間に水流でガードしたようだった。


 「ふふ・・・イワン坊やの能力『この腐敗した世界に堕とされたゴッドチャイルド』の能力は念動力だ。水流ごときで流されたりはしない。」


 豺狼がまた自慢気に語る。




 サーシャが僕のそばに来て囁いた。


 「なんとかアカリンを助け出さないとなの・・・。私が水流をあの巨体のヤツにぶつけるのら。そのスキになんとかアカリンを救い出せる?・ ・・って、先にこれ、履いてね。」


 サーシャは僕のジーパンとパンツを差し出した。


 僕は急いでジーパンを履くと、


 「わかった。なんとかやってみるよ。」


 と、何事もなかったかのようにサーシャに返事をした。


 サーシャがなんか顔が赤い気がしたけど、そこは気にしないでいこう。





 「ぐるる・・・」


 不死鬼がアカリンを持つ両手に力を込める・・・。


 「あ・・・あぁ!!」


 アカリンが苦痛に声を上げ、顔を歪める。


 「やめろ!!」


 僕は思わず叫んだ。




 「くくく・・・不死鬼、やってしまっていいぞ。」


 「がぁ・・・!」


 その瞬間、ものすごい轟音とともに激流が不死鬼にぶつかる。


 「ぐぅ・・・。」


 さすがに不死身の肉体を持つと言っても、その勢いになんとかふんばろうと腕の力を緩めたようだった。


 そのスキに、僕は能力でサワ・チョマレヨの姿に成り切っていた。


 そして、サワの能力をコピーし、僕自身のチャクラをエネルギー弾に変えて、思い切り蹴り飛ばした。


 見事にそれが、不死鬼の両手に命中。思わず、不死鬼はアカリンを落としてしまった。


 「ナイスなの!」


 サーシャが水流を操り、僕たちの元へアカリンを運んできた。




 まさに狼の顔をした豺狼が、その瞬間、僕に向かって遠吠えをした。


 「ぐっ・・・。」


 息ができない・・・呼吸が急にできなくなり、チャクラが練れなくなった・・・。


 僕はその場にしゃがみこみ、サワの姿からまた元のミギトに戻ってしまった。


 まだ息ができなかったが、周りの空気が急に押し寄せて来てものすごい風を巻き起こした。


 僕たち三人はふっ飛ばされてしまった。



~続く~



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