第16話 復讐編 『出会い』
僕(=ヒョウリ)、サーシャ、アルミーナ、コニーシの四人は、定食屋『飯ーな師範代』に着いた。
ここのマスターは立派な泥鰌髭の生えた人で、アジアエリア中を料理武者修行してきたツワモノだった。
料理人ランキングで実は、130位という実力者なんだ。表には出していないんだけどね。
真っ先にメニューをガン見しているサーシャ・・・。本当に食い物のこととなると人格が変わる。
食いしん坊サーシャ、大食らいサーシャなどなどいろいろ呼ばれているが、本人はまったく気にする素振りはない。
アルミーナは、おずおずと、水を飲んでいる。みんなが決めるのを待っている様子だ。
コニーシは、さっさと水を一気飲みして、
「すいませーん!『名物ヘルクライム・ピラフ』をください!」
コニーシはさっそく決めてもう注文していた。早いな、さすが役が決まってすぐに坊主にしているだけのことはある。
ま、坊主にする必要はないというので、意味はわからないが、やる気はあるというのが如実にわかる行為ではあった。
「じゃぁ、あたしも『ヘルクライム・ピラフ』とぉ~、『うぶ毛が全部抜け落ちるほど美味いランチ』をくださーいなの。」
サーシャも決めたらしい。
おっと、僕も決めなきゃな・・・そうだな、やっぱり、『一秒間に10回呼吸してしまうほど辛いカレー』がいいな。
「じゃ、僕は『一秒間に10回呼吸してしまうほど辛いカレー』をください!」
そう、僕が言ったら、アルミーナがすかさず、
「私も同じものを・・・」
あ、やっぱり彼女は奥ゆかしいな。
料理が運ばれてくる前の待ち時間に、コニーシが水をもう一杯、セルフで汲んできたところで、口を開いた。
「それにしても、今度の公演はチャンスだな、俺たちも。」
「そうなのら。あたしも初めて、ちゃんとした名前のある役をもらったのら。」
「ボ、ボクもあんな長いセリフの役もらえたの初めてだから、今からもう緊張しちゃってる・・・。」
あ、そういやアルミーナってボクっ子だった。
「それに、ヒョウリは今回、初の主演だな!まずはおめでとう!」
コニーシは、先輩なのに本当に嬉しそうに言ってくれる。彼は心底、いい人だ。
「そうなのらー。ヒョウリ君って舞台映えするよね~。今から楽しみだな~」
「ボ、ボクもお祝いの言葉を言いたいよ。おめでとう!」
ヒョウリの僕としては嬉しいやら、申し訳ないやら、なんだか複雑な気持ちだった。
「ありがとう!素直に嬉しいよ。」
そう言ったところで、コニーシが、なにか思い出した感じで、
「そういや、ヒョウリの幼馴染のあいつ、ミギトはどうしたんだ?最近見なくなったな・・・。」
ドキンっ!!!
心臓の鼓動がひときわ大きく鳴ったような気持ちだった。
「ホントなのら。どうしたんだろうね、ミギト君。」
「あ、ミギトはやめたんです。怪我しちゃって、役者は・・・
・・・やめたんです・・・。」
僕は改めてそのことを自らの口で言ったことで、非常に物寂しい気分になった。
「そっか・・・それは残念だな・・・。彼は実力とやる気は同期の中でもトップクラスにあったと思うんだけどな。」
そう言ったのはアルミーナだった。アルミーナは僕(=ミギト)のことを高く評価してくれていたらしい。
複雑だけど、素直に嬉しかった。
「やめたいやつは辞めたらいいんだ・・・。この世界はそんなに甘くない。」
そう言ったのはコニーシだった。彼も必死で演技力を磨こうと努力している。彼の気持ちもわかるから、その言葉は僕をナイフのように切り裂いた気がした。
一瞬、ヒョウリの演技が解けそうになってしまった。もう一度、精神チャクラを練り直したら、すっかりヒョウリの気持ちになった。
「そうだな。ミギトも本当は悔しい気持ちでいっぱいだったみたいだ。あいつはアクション俳優を目指していたからな。
この間の事件の怪我の後遺症で、身体がうまく動かなくなったから、思うような演技は今後できなくなると考えたんだろう・・・。あいつも辛いんだよ。」
「そっか、そんなことだったのら・・・それは悲しいね・・・。」
サーシャはそう言いながら、『うぶ毛が全部抜け落ちるほど美味いランチ』のシャボンシチューをがつがつと口に運んでいた・・・。
セリフと行動が一致しないのも彼女の長所(?)なのかもしれない。
「そっか、また会えるといいな。」
アルミーナはそう言って、スプーンでカレーをすくい、口に入れて、顔を真赤にして、呼吸を十回ひはひはしながら、水を飲んだ。
僕も、同じようにカレーを食べては汗を流して、水を飲んだ。
「そっか、そいつは悔しいだろうな。ミギトに会ったら、謝っておいてくれな、ヒョウリ!」
コニーシがそう言って、高く積まれたピラフを崩した。
「あぁ、わかった。」
そんな話をしながら、ご飯を食べ終わり、会計はオートペイで済ませ(本当に安い!)定食屋『飯ーな師範代』の外に出たところで、みんなが歩き出したところで、
僕は、突然、後ろから誰かに声をかけられた。
「君・・・ヒョウリ・イズウミくんだよね?んーミギトくんって言ったほうがいいのかな!?」
(な、なんだって!?)
まさか!? 僕の正体に気づいている・・・!?
僕はびっくりして勢いよく、振り返った・・・が、そのとたん、声をかけてきた主が勢いよく僕にぶつかった。
ドキューーーン!
そりゃそうだ・・・後ろから勢いよく近づいて声をかけてきたんだ。僕が止まって振り返ったら、ぶつかってしまうよね。
だが、僕はその時、その感触が、なんだかとてつもなく柔らかい・・・そう、弾力のあるものだったことに、気がついた。
(な、なんだ、この大きいマシュマロのような、ふわふわしていてもっちりな弾力感!!)
そう浮かんだ疑問は目の前の、なんだか吸い込まれそうな谷間によって、一瞬で解決となった!
「き、き、き、きょにゅーーー!!!!」
「き、き、き、きみぃーーーー!!!」
そのふくよかな、お胸氏は、そう叫び返してきた!
「す、すみません!急に声をかけるから!思わず振り返っちゃって・・・」
あ、ヤバい!精神チャクラが動揺して、ヒョウリの成り切りが解けてしまうかもしれない・・・。
僕は、思わず、その、お胸氏の胸ではなく、手をとって、通りの影に引っ張り込んで・・・。
角からひょいと首を出して、みんなに向かって・・・。
「ごめーーん!先に戻ってて!僕はこのきょにゅー・・・いや、このヒトと話があるので!!」
「わお!君ってヤツは!私はきょにゅーとか言う名前じゃなーーーい!!」
「わーわー、後で話しよう、ちょっと落ち着ける場所で!!」
それから、僕は巨乳の謎(?)の彼女の手を取って、数百メートルは走ったと思う。
そして、『ハートボックスカフェ(個別の部屋に仕切られたボックスタイプのカフェ)』に彼女を連れ込んでしまった。
んんーー、ここ付いてくるのって僕を警戒してないのかな・・・このヒト・・・
敵としても見てないし、僕のことオトコとしても見てないのかな? ううーーーん・・・複雑・・・。
「で、アナタは何者なんですか!?」
その胸の大きな女性は・・・僕を見つめてゆっくり微笑んだのだった・・・。
~続く~
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