第15話 復讐編 『主役抜擢』




 ところで、劇団『チョーサ劇団』の話に戻そう。




 ヒョウリが主演に抜擢されてから、1ヶ月みっちり稽古をする予定だった。

この間、僕は山奥でビヨンド能力の修行をしながら、舞台稽古に通うという殺人スケジュールをこなすことになる。


 それを可能にしたのは、ナオト兄さんの自家用飛行車『ヴェネツィアの獅子』があったからだ。

なんてったってマッハ1のスピードが出る超化け物飛行車だったから、可能にしたんだけど・・・。



 


 


 で、そのおかげで僕は殺人的スケジュールになっちゃってたわけなんだが・・・。

ビヨンド能力が磨かれていくにつれて、それに比例するように演劇の演技力が上がっていく日々だった。


 それはそうだよね、なりきる能力がパワーアップするんだから、演技力はより本物に近づく・・・。

心からなりきれるんだからね、どんな人物になりきるのも簡単だった。



 


 


 僕がヒョウリに成り切って、病院から退院したのは、孤児院消失事件が起きてから2週間が経ってからだった・・・。


そして、その足で、チョーサ劇団の稽古場に一目散に向かったヒョウリこと僕だったんだけど。


 入り口のすぐ隣りにある事務所から、事務長のハーンズ・ゾーイ・クラヴィッツさん・・・ちょっと変わった性格の女性なんだけど・・・

歌が超うまい、時々事務員だけど演劇の歌姫として参加することしばしば…。黙っていれば、ホントにきれいな女性だった。


 事務の仕事をしているときは黒縁のメガネをかけていて、なんだかそんなに魅力があるとは見えないんだけど。


 舞台上で、歌を歌う彼女を見たことがある人なら、誰しも彼女の虜になってしまうと思う。


 


 


 


 彼女・ハーンズさんが変わっているのは、彼女がとても動物好きな点なんだけど・・・


 動物好きなら女性なら別に変じゃないんだけど、彼女は奇妙な動物や植物が好きなんだ・・・見た目グロテスクな奇妙キテレツな生き物ばかり・・・。

家に何十匹も飼っているという噂もあるくらい・・・奇妙な生物のことを語る時の彼女の目が、本気でヤバい・・・


 

 

 「おおーーーっ!!ヒョウリじゃないか!? もう体は大丈夫なのか?」


 「あ、ハーンズさん、はい、ご心配かけました(ニコリ)」


 ハーンズさんは、病院にお見舞いに来てくれたんだ。1週間くらい経ったとき、訪ねてきて、なんだか奇妙な植物を植木鉢ごと持ってきた・・・。


 ま、病気や怪我のお見舞いに、「根付く」から植木鉢は縁起が悪いって聞いたことがあったような気もしたんだけど・・・。


 悪気はなさそうだったので、ハーンズさんにはお礼を言って受け取ったけどね。


 


 ハーンズさんはその植物・・・なんだか大きな口がついていて、昔に流行ったというフラワーロックみたいな、なんというか人食い植物の小さなヤツみたいな感じだった・・・

それを、『幸運を呼ぶアメージングプラント』だって言っていたな。なんだか、ヒトの心を読み取って元気づけるように花を咲かせるらしい・・・。


 んーー、それってホントに大丈夫な植物なのかは疑問?だったけど。



 ハーンズさんは熱くそして真剣にその植物の素晴らしさを語って、ひとしきり喋ったあと、


 「じゃ、またな。早く元気になれよ」


 と言って、帰って行った・・・。まぁ、悪い人ではないんだよな。

 


 そして、劇団にやってきた僕にいの一番に声をかけてくれる・・・ま、根は優しい人だよね。


 「ヒョウリ。エルヴィス団長が団長室にいるから、先に挨拶しておいて。その後、これからのスケジュールを伝えるよ。」


 「はい、わかりました。」


 そう言って、僕は、2階の団長室へ急いだ。




 2階の団長室の扉の前に立ち、ノックした。


 コン、コン!


 「おー!入っていいぞ!」


 エルヴィス・スミスリー団長の渋いバリトンボイスが響き渡る・・・。


 こんな普段から、腹から声を出していて、よく通る舞台映えする声だなと僕は思った。


 (さすが、団長だ・・・!)



 


 「失礼します!」


 ヒョウリである僕は、ドアを開けて、部屋の中に一歩、歩を進めた。


 エルヴィス団長を見て、まずは挨拶をした。


 「団長!ただいま参上しました!」


 「ヒョウリ・・・心配したぞ。大変だったな。詳しい事情はハーンズから聞いている。」


 「はい!」




 

 

 

 エルヴィス団長が一呼吸して、


 「大変だったな・・・。だが、おまえが生きていてくれたことは私にとって本当によかったことだ。」


 「はい・・・。ご心配をおかけしました。」


 「いや、出身の孤児院が災難だった・・・。お悔やみを申し上げる。」


 「あ、はい・・・。だけど前を向いていかないと行けないって思っています。」


 「そうだな。今は舞台に集中して何もかも忘れるくらいのほうが良いのかもしれないな。」


 「はい。」



 


 「以前に伝えたように、今度の公演の主役にお前を抜擢したい。

公演の演目は、『ライオン王子、ライオン王に俺はなる!』だ。まあ、演劇をやっているものなら一度はやってみたい演目だということは言うまでもないだろう・・・。」


 「はい。もちろんです!」


 「うむ。お前なら必ずや期待に答えてくれると信じている。」


 「は!がんばります!」


 「よし!今度の公演に全て、心臓さえ捧げるのだ!演劇に捧げろ!」


 「はっ!!」


 僕=ヒョウリは敬礼をした。


 


 そこで、僕はエルヴィス団長から台本を渡された。


 「それを熟読し、世界観をつかめ。そして、1週間後に初回の稽古をする。」


 「わかりました!」


 「うむ。下がっていいぞ。」


 「かしこまりました。」


 



 こうして僕は団長の部屋を出て、控室に戻り、台本を早速、開いてみた。


 ぱらりと開いてみた。


 ●ライオンジュニア・・・・・・ヒョウリ・イズウミ


 ●ライオンパパ・・・・・・・・・エルヴィス・スミスリー


 ●ライオンヒロイン・・・・・・ミカ・サー・ダグラス


 ●ライオンワル・・・・・リーヴァイス・ジィーンズ


 ●シルバーウルフ・・・・・・ジャック・ジャンモード


 ●キャットガール・・・・・・・サーシャ・チャ・五條


 ●ハイエナリーダー・・・・・コニーシ・カツユキ


 ●ハイエナニャン・・・・・・・アルミーナ・トミナガ


 ●ハイエナワオン・・・・・・マルコス・エックス


 ●ナレーション兼ライオンシンガー・・・・・ハンズ・ゾーイ・クラヴィッツ


 そして、その他についていろいろな人の名が書かれていた・・・。


 


 



 まずは、配役の役者を見てみた。ヒョウリ以外のメンバーは、エルヴィス団長や、この「チョーサ」劇団の看板俳優の、リーヴァイスさんはもちろん絶対的存在であった。


 だが、注目するところは、ヒロインのミカだ・・・。彼女は僕やヒョウリと同期の存在だ。ヒロインも大抜擢ということか。


 ミカは、最近、一人演劇なんかもやっていて、俳優ランキング77位に急上昇してきた若手屈指の人気の実力派女優である。


 また、ジャック・ジャンモード・・・たしか彼は本業は役者ではない。プロ格闘サッカー選手のトッププレイヤーだ。

 格闘サッカーランキングで、トップ30位以内に入る凄腕のプレイヤーだ。


 たしかに、彼はトップアイドルに負けず劣らぬほどのイケメンで、かつ身体能力が高く、スタイルはプロのモデルもやっているほどなので言うに及ばない。


 ちなみにモデル人気ランキングでも世界トップ50位以内に入っている・・・。


 ・・・そうか、ついに彼は役者の道にも入ってきたのか・・・。


 こうして、キャストを見ると、若手がずいぶん起用されているということに気がついた。


 


 



 今度の公演は、エルヴィス団長の新たな挑戦なのかもしれないと思った。


これは改めて気合を入れて取り掛からないといけないな・・・と、僕は思った。


 そう思ったらなんだかお腹が空いたな・・・。


 近くの定食屋さんに昼ごはんでも食べに行こうか・・・まだ、初稽古まで1週間あるんだし。


 今から緊張してても仕方がない。そう思い直して、近くの定食屋さん、「飯ーな師範代」という修行中の僕らにとっての憩いの場所でもあるごはん屋さんに行くことにした。


 そして、部屋から出た瞬間・・・。


 


 「おおお!!みーつけた!ヒョウリ君なのらーーー!」


 そうなんかデカイ声でヒトの名を呼ぶヤツ・・・背の低い女の子で、見た目は幼児体型、頭脳も幼稚園児並みかって思うサーシャ、サーシャ・チャ・五條が現れた。


 サーシャは僕やヒョウリよりひとつ下の女の子、だけど劇団には先に入っていたから先輩なんだけど、このあたりがややこしい関係なんだけど。

なんでも五條家の血統らしいんだけど。五條家は、旧家・非常に古い血縁の家柄で由緒正しいってやつだ。

 名家ランキングで50位以内に入っている。本来は近寄れないほどの名家のお嬢様ってわけなんだけど・・・。


 ま、サーシャにそんな雰囲気はまったくないけどね。


 「ヒョウリ君、大変だったのら。元気を出すんだよ。」


 本当に心の底から心配してるって空気感まんまんの表情を浮かべ、サーシャは一呼吸してから微笑んだ。


 これは、癒やされる感じの笑顔だな・・・僕はそう感じたのはごく自然のことだった。


 


 「一緒にご飯食べに行くのら!」


 「あ、僕もちょうど食べに行こうと思ってたんです。」


 「ん?どうしたの?なんだかあらたまって・・・ヒョウリらしくないよ。」


 「あぁ・・・(汗) いや、やっぱサーシャ先輩だし、今度も舞台共演させてもらうので、そこはきちんとしてたほうがいいかと・・・。」


 僕はドキリとした。ヒョウリはサーシャ先輩のことは呼び捨てだったし、タメ口だったんだよな。

僕・ミギトは先輩には敬語だったんだけど・・・。


 「何言ってるのら!?他人行儀なのはいらないのら!」


 「わかったよ、じゃあ、今まで通りで行かせてもらう。サーシャ、飯行こうか!?」


 「了解なのら。」


 




 ふぅ~・・・危なかった・・・つい、ミギトの調子で話しちゃった・・・。


でも、まぁなんとかごまかせたようだな。今後は気をつけないとな・・・。



 そう言って出口に向かったところで、アルミーナ・トミナガとコニーシ・カツユキもいたので一緒に行くことになった。


 アルミーナも同期だった。アルミーナは普段はおとなしいが、やるときはやるってタイプの女の子で、コニーシは一つ上の先輩だけどコニーシはすごくひょうきんで気さくな先輩だった。



 


 



 こうして、僕たちは四人で『飯ーな師範代』へお昼ごはんを食べに出かけたのだった。



 そこで、衝撃的な出会いが待っていたのだったが、まぁ、それは後から振り返ってみたらそうだったってこと。



~続く~



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