第9話 孤児院消失事件 『能力の目覚め』
黒煙が晴れて現れた人影2つは・・・なんと、2つとも瓜二つとも言うべきライオンマスクが二人であった・・・。
つまり、ライオンマスクが二人になっていたのだったーー。
ベリアルは素直に動揺を隠せなかった。
「ど・・・どういうことですか!?これは?
ライオンマスクが二人???」
ただ二人の決定的な違いは、一人のライオンマスクはぐったりしていて、もうひとりのライオンマスクに支えられている。
そんな状況だった。
「ふぅ・・・なんというか。遅くなってすまないな。だが・・・、真打ち登場というやつだ!」
ぐったりしているライオンマスクを木の幹にもたれかけさせながら、そう言ったライオンマスクがベリアルの方へ振り返った。
木の陰に座ったほうのライオンマスクは・・・チャクラが薄れ・・・なんと、ミギトの姿に変わっていく。
そう、ミギトがライオンマスクになりきっていたのだった。
さきほどのベリアルのもの凄い攻撃を2回もくらったため、ミギトは全生命力を集中し、防御したのだった。
そのため、ぐったりしていたのだった。
あとから現れたライオンマスクこそ、本物のライオンマスクその人だった。
孤児院が危機に陥ったことを感じ取ったライオンマスクが、駆けつけてくれたのだった。
ベリアルは舌打ちをした。
「ちっ・・・。なるほど、本物の登場というわけですか・・・。」
そう言って、再び、ライオンマスクと対峙するのだった。
―――時刻は、ここでまた少し遡る―――。
ミギトは、ベリアルの黒炎雷をくらう瞬間、生命エネルギー・チャクラを最大限に高めて、精神力を奮い立たせた・・・。
ミギト!強い心を持て!
僕は自分自身にそう言い聞かせた。そうだ、成り切るんだ・・・絶対折れない心を持つ英雄に・・・。
ミギトがイメージしたのは、僕たちの孤児院『とらっこハウス』出身の、正義のプロレスラー・ライオンマスクだった。
本名は、ナオト・デイト。獅子の仮面をつけて、日本のプロレス界に燦然と輝く王者であり、正義の人だった。
もちろん、折りに触れ、孤児院にも来てくれ、ランドセルなど寄付してくれたり、本当に優しく、偉大な英雄だ。
僕たち孤児全員が、ナオト兄さんのことを誇りに思い、憧れていた。
ミギトがライオンマスクの姿のナオト兄さんを思い浮かべ、強く精神力を持った瞬間、そのイメージとミギト自身のチャクラが合わさって・・・。
そう、ライオンマスクになり切ったのだった。心から・・・肉体まで変化させ演じる能力・・・。
ビヨンド能力・ABCが発現したのだった。
そう、この時、無我夢中でミギトはその固有能力『トビウオニギタイ』に目覚めたのだった!
能力名は自身の精神エネルギーに由来する・・・自然とそのスキル名が心にはっきりと浮かんだ・・・『トビウオニギタイ』と!
そして、自身に迫ってきたベリアルの『黒炎雷』を正義のバリアでなんとか耐え切ってみせたのだった。
たしかに、ベリアルの『黒炎雷』は、破壊力から見ればもの凄いエネルギーであった。
が、しかしー。
実は、この時、ミギトが推理していたベリアルの能力の根源はほぼ当たっていた。
ヤツの力の源は人々の恐怖・・・。それをエネルギーに変えて幻覚を見せたり、実際の力としても具現化できる能力だったのだ。
そして、そのことは、つまり、ミギトがライオンマスクをイメージし、強い正義の心を持ったことで、ベリアルの能力を弱め、『黒炎雷』の直撃から身を守ったのだった。
そして、その後、完璧にライオンマスクの動き、力、その能力までも成り切って見せたミギトは、ベリアルとの格闘戦においても、互角に戦った。
が、その後、ベリアルがその生命チャクラを振り絞り、二度目の『黒炎雷』を放ったのだが、
さすがに、能力に覚醒したばかりのミギトに、二発目の『黒炎雷』を耐えきる生命チャクラは残されていなかった。
だが、それでも最後の生命チャクラをなんとか振り絞ったのは、ミギト自身の力というより、なりきっていたライオンマスクの力だった。
正義のヒーローは、ピンチになっても決して諦めない折れない心を持っているからだ。
ミギトは、それほどライオンマスク・・・ナオトのことを信頼していたのだった。
「うおおおおおおーーー・・・、ナオト兄さん、僕に力を貸してくださいっ!!」
そう叫び、二発目の『黒炎雷』を必死の思いで耐えるミギト。
ミギトが諦めたら、セイラも殺されてしまう。
なんとしても、それだけは防がねばならない・・・。
そう考えていた。
そして・・・。
僕は必死で黒炎雷の放たれた激痛・破壊力・恐怖と戦っていた。
長い・・・ものすごく長い永遠かとも思えるその時間の中で、僕は確かに聞いたのだった。
懐かしい、ナオト兄さんの声をーー。
「待たせたな! ミギト!よくやった!」
その瞬間、黒炎雷の破壊エネルギーは霧散し、あたりに静寂が訪れた。
僕は、意識が薄れていくのを感じながら、奇妙な安心感を得ていた。
なぜなら、僕の身体を力強く支えてくれている腕、触れている肉体・・・まさに僕が成り切って見せたライオンマスク、その人であったからだ。
「に・・・兄さん・・・セイラがあちらの木陰にいます。助けてやってください・・・。」
「わかった!安心して眠れ。ミギト!後はこの私に任せろ!」
こうして、僕は意識を失ってしまった。
その後、夢を、見ていた。
ヒョウリや、ガストーン、キャシー先生、シスター・テレサ。そして、子どもたち、僕に意地悪だったコールカスまで僕に笑いかけている。
そうだったな、コールカスも昔は僕とも仲がよく、一緒に遊んだよなぁ・・・。
みんな、みんな、楽しそうに笑っていて、ガストーンは相変わらず豪快でー。
キャシー先生はいつも厳しかったが、僕たちを本当に心から愛してくれているのが溢れ出ていたなぁ。
シスター・テレサ、彼女は辛い経験から、本当に誰にでも優しい女性だった。憧れていた女性でもあったな。
ピピンヌはああ見えて勇気のある子どもだったー。
ジュードはセイラのことが好きだったんだな。いつもセイラにかまっていたな。
他の子どもたちも、僕とヒョウリにすごくなついてくれていて、本当に可愛い弟、妹たちだった。
僕たちはみんな家族だったのだ。その家族たちを、僕は、どうしようもない状況だったとはいえ、見捨ててきてしまった。
いわば、生贄に捧げたも同然の行為だと自分を責めた。
本当に・・・『ショック』だった。
ヒョウリ――。
彼は僕の幼馴染であり、兄弟であり、将来の俳優王への夢のライバルでもあり、同志でもあり、そして、憧れ・希望でもあった。
ヒョウリなら、必ずや俳優ランキング1位になると僕は信じて疑わなかった。
もちろん、僕も2位になるつもりだった。
ヒョウリと二人、満席の大劇場でダブル主演・・・そんな演技をしたかった。
ヒョウリ・・・。その最後の言葉が、たしかにはっきりとまた聞こえてきた。
目の前に、死んだはずのヒョウリが立っていた。
いや、幻覚か?それにしてもリアルすぎた。
ヒョウリは黙って頷き、またあの言葉を繰り返したー。
「ミギト!君のこれからの道標となるように、このペンダントに刻まれている言葉を捧げよう!
『OUL』 未来を見通すミネルヴァのフクロウの賢さを君に!
そして君の未来へ僕の魂も連れて行ってくれッ!」
そこで、OULの文字の前に、“ S ” という文字を、文字通り血文字で書き、続けて叫ぶ。
「僕の・・・『SOUL(魂)』をっ!!」
ヒョウリの遺志・能力・魂まで受け継いだ僕は、こんなところで倒れているわけにはいかない。
「ヒョウリ、わかったよ!立てっていうんだろ? ・・・いつも君は厳しいよな。でも僕自身をいつも立ち上がらせてくれるのは、君だった!」
僕はまた力が蘇ってくるのを感じた。
たしかに、ヒョウリは僕の中で生きている。いやヒョウリだけではない。
キャシー先生やシスターテレサ、ガストーンたち孤児院のみんなが僕の中で息づいている。
そう感じざるを得なかった。
~続く~
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