第10話 孤児院消失事件 『決着』

 


 僕が夢を見ている間、ナオト兄さん、真のライオンマスクが、ベリアルと戦っていた。


 「ふぅ、これはしんどいですねぇ・・・。」


 そう言いながら、ベリアルがライオンマスクに黒炎をまとったブロウを放つ。


 が、あっさりそれをかわし、ベリアルの背後に回り込みながら、その両の手をクロスさせるように、鋭い爪の一撃を放つ。





 

 しかし、それをやはり、間一髪で地面に倒れ込みながら交わしつつ、距離を取るベリアル。


 だが、やはり2発の黒炎雷という大技を放ったベリアルの動きには当初の精彩は失われていた。


 「ふっ!足元がふらついてるんじゃあねえか?悪魔さんよっ!」


 「言ってくれますねぇ・・・まぁ、本当にしんどい人だな。


 さっきの小僧もあなたと全く同じ動きをしてましたよ・・・まるで格闘ゲームの2ラウンド目を私だけ一人で戦ってるようですよ?」




 

 

 「ふふふ・・・そうか!それほどの力だったか・・・嬉しいねぇ」


 「むぅ・・・しかし、あなたも私に攻撃を当てることはできていませんよ?」



 

 

 二匹のネコ科の獰猛な猛獣同志が、じゃれ合うかのようにお互いがお互いを攻撃し、交わし、また攻撃しと繰り返す。


 このまま、永遠に続くかのようなその攻防は、紙一重でかわされるそのお互いの超人的な見切りにあった。


 これは、あとから知ったことだが、生命チャクラには、直感のチャクラというものがあり、事前に相手の動きを予想し、感じ取ることができるという。


 もっとも、そんなことができるのはビヨンド能力者の中でも、かなりの使い手ということではあるが。



 


 ガキィ――――――ンッ!!!!


 金属が激しくぶつかったような、つんざくような音が鳴った。





 


 ついに、ライオンマスクの放った一撃が、ベリアルの腕でガードされたため、激しく音が鳴り響いたのだった。


 思わず、ベリアルは、そのまま、ライオンマスクの射程外に距離を大きく取った。





 

 「ふぅ・・・やはり、しんどいですねぇ・・・。


 まぁ、悔しいですが、このままあなたとやりあっても、どうやら、今の私では不利なようですね・・・。」




 


 「おとなしく、負けを認めて、捕縛されてくれるってのかい? ・・・なら、助かるんだがな。」



 「くっくっくっ・・・本当にあなたは愉快な人ですねぇ・・・。


 まぁよい。今回の最大の目的は果たしましたからね・・・。ここは引かせてもらいますよ・・・。」



 

 「逃げられると思っているのか?このオレから・・・。」


 「関係ありませんね・・・誰だろうと私を捕まえることはできない・・・。」


 「何だと!?」




 


 その瞬間、ベリアルの姿がぼやけ始め、あたりの景色に消え入るかのように姿が消えていく・・・。


 「なっ!? チャクラがまったく感じ取れないだと!?」


 ライオンマスクは、今の今まで間違いなく感じ取っていたベリアルの生命チャクラが、まるで煙のように消えていき、その姿まで消えていくのを呆然と見てしまっていた。





 

 慌てて、今そこにいるはずのベリアルに、刹那のタイミングで駆け寄り、蹴りを放つが、

揺らいで行くベリアルの姿はまるで蜃気楼のように、その攻撃に対して空を切らせたのだった。


 「まさか!!これはヤツの能力か・・・!?」





 


 その通りだった。ヤツは心に幻影を見せるビヨンド能力を使うこともできた、その真髄はまだまだまだ底知れない力を秘めていたのだった。


 相手の認知能力そのものを狂わせることができる。まったく恐ろしい隠形の術だった。




 

 


 「ふっふっふ・・・次に会うときは、万全の状態でやり合いたいものですねぇ・・・


 ふっふっふっ・・・」






 


 不気味な声だけを響かせ、やつはその場から、姿を完全に消し去った。


 が、同時に、ヤツが攻撃に転じたとしても、ライオンマスクはその能力『鬣なびかせてIikeライオン』により、どんな攻撃にも耐えきることができることは必然であった。


 なぜなら、ベリアルの最大の攻撃が、黒炎雷であり、それを成り切っていたミギトが、2発目はライオンマスクの力を借りたとはいえ、2発も防ぎきったからであった。


 たとえ、その完璧な隠形の術からの、黒炎雷であっても、ライオンマスクはしのいで見せるだろう。



 


 それを察したから、ベリアルは逃げの一手に転じたというわけだった。


 また、次の機会に狙えばすむこと。


 ベリアルにとっては、今回の最大の目的であった孤児院の破壊・消失、キャサリン・リペトア・イズウミ孤児院院長の暗殺は成し遂げていたからー。





 


 苦々しい顔を浮かべながら、ライオンマスクは、ミギトの下にセイラを抱きかかえ、駆け寄った。


 「くっ・・・逃してしまったか・・・。だが、今はミギトとセイラの命を守れただけ、良しとしよう・・・。」


 

 

 

 僕が意識を失ってから、そこまで、ほんの数分だった。



 

 


 僕が目を覚ましたのは、病院の病室だった。まわりには誰もいなかった。

世界立ハイジノ聖バーナード病院・・・ここの院長イワジン・ジュツヨネ・ドクターは、世界の優しさランキングでトップ30に入る人格者だった。


 ライオンマスク・・・いや、ナオト・デイト兄さんが、ここにセイラと僕を運んだのは、正しい判断だった。



 

 現にこの病院では、貴賤の別け隔てなく、患者を診察することで有名な病院だった。



 そんな病院のベッドの上で、目を覚ました僕は、まず最初に、あれはすべて夢だったのかと一瞬、思った。


いや、思いたかっただけだったのかもしれない。



 


 そして、自身の中に流れる生命チャクラの流れを感じるとともに、あれが現実に起きたことだと思い知らされた・・・。


 ヒョウリや、キャサリン先生、孤児院のみんなは、死んだのだ。


 もう帰ってこない。死はとても残酷であり、公平であった。たとえ宗教が統一されようと、人類平等に訪れる。



 

 そう思ったら、涙が溢れ出て、止められなかった。


 まだまだ未来があったはずの親友ヒョウリ、、、その将来の夢・俳優王になるはずだったヒョウリ・・・。彼をその夢の舞台に立たせたかった。


 僕も、もちろん俳優王になりたかったし、ヒョウリと同じ夢を持っていたライバルであったことは間違いない。


 だけど、同時に僕はヒョウリにその夢を叶えてほしかったのだ。



 


 僕はヒョウリが大好きだった。自分が生き残り、ヒョウリが死んだことは僕にとって耐え難きことでもあった。


 なぜ、ヒョウリが、、、僕よりヒョウリに生きててほしかった、そう心底思った。


 せっかく、主役に選ばれて、これからだって時に・・・。神様はあまりに残酷だ。


 そう思って、ヒョウリを強くイメージした瞬間、僕の生命チャクラと、精神イメージがまたしても、融合したのを感じた。



 


 そう、またしても僕はそのビヨンド能力『トビウオニギタイ』を使った。前回ライオンマスク・・・ナオト兄さんになりきった時は無我夢中だったから、今度は意識的にはっきりとその能力を使ったのだった。


 

 僕は、ヒョウリの姿になっていた。そうヒョウリに成り切ったのだった。


 鏡を見て、自分でも驚くほど正確に、ヒョウリになっていた。精神は肉体をも変化させ得る、それをまさしく実感した。



 


 すると、突然、病室のドアが開き、セイラが勢いよく入ってきた!


 「え!? ヒョウリ兄ちゃん!! 生きてたの?」


 セイラは、涙を浮かべながら、そう言った。


 










 「いや、僕はヒョウリじゃな・・・」


 と、ここまで口にしたところで、僕ははっと思い当たった。


 「いや・・・セイラ!心配かけたな・・・、怪我はあったけど、なんとか生き残れたよ。」





 そう、僕はヒョウリになりきった姿のまま、答えたんだ。


 そして、僕はそこで決心したのだった。これを機に、ヒョウリとして生きていこう。僕の人生はヒョウリに捧げる!


 二人の夢を叶えるのだ。そう心に誓ったのだった――。




~続く~



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