第8話 孤児院消失事件 『獅子の力』

  

 

 僕は逃げたのだった・・・。だが、決して臆病風に吹かれたとかそういった話ではない。


 だが、その逃げるという判断が早かったからか、孤児院の敷地を僕は飛び出し、その向こうの通りを全速力で走り抜けられた。

通りの向こうは入り組んだ通りがいくつもあり、そこを右左と駆け抜けていく。


 僕たちは土地勘がある。逃げ切れると思った。すでに、後ろから邪悪な気配は感じない・・・。





 

 僕の背負っているセイラは怪我はなかったようだ。眠っているだけだ。

2階から落ちたときも、ヒョウリが全力でかばったに違いなかった・・・。



 ヒョウリ・・・本当に優しすぎた男だった。


 僕の親友・・・ヒョウリの魂は僕に受け継がれた!


 僕はそう思って、眼に浮かぶ涙を必死でこらえながら、走り続けた。



 

 この通りの先を抜けると小さな広場があり、そこは僕たち孤児の遊び場だった。


 そして、広場に出た瞬間、僕はゾッとした。



 なぜ? どうして? 




 通りには、シスターの服を来た赤い悪魔が静かに立っていたのだった。



 「ふむ・・・ご苦労さん・・・。君はまだ目覚めたてのようだから、チャクラを感じ取れても、隠形の技はわからなかったようだね。」



 

 「そう、私は悪魔ベリアル様の能力、『The brainless throngs steps of horror』はその炎の熱の力で、空を飛ぶことだって簡単なんだよ?


 空から君たちの姿は丸見えだったのさ・・・。さあ・・・観念しな。」




 

 

 そ・・・そんな、、、僕は深い絶望感に襲われた。 


 もはや、絶体絶命か・・・。


 なんとか、セイラだけは守ってあげたい。ここで死ぬわけにはいかない。

みんなの思いを無駄には決して・・・できない!


 

 だが、同時に策は何も思いつかなかった。





 

 「では、特大のヤツをお見舞いして、すべての証拠を消し去ってやるとするか・・・。」


 そう言って、ベリアルは、その両腕を天に掲げた。



 上空から、とてつもなく恐ろしい気配がした。



 

 

 「ファイナル・フィアー・ファイアー・フォーリングダウン!!!」



 そう叫んだヤツの両腕から、天に向かって黒いオーラがほとばしり、上空から感じていた恐ろしい気配がスパークしたように見えた。



 黒のスパーク・・・。


おそらく、この周辺の地域の人々の恐怖を増幅させ、それと自身のチャクラを上空で混ぜ合わせ、一気に対象に向かって雷のようにぶつける技のようだった。





 

 

 これは、ヤバいな・・・直感でわかった。くらったら、骨も残らないだろうな。


 セイラをここで僕は一瞬のうちに広場の向こう側の草むらに置き、そしてまた広場に戻って、囮となることにした。


 そうしなければふたりとも死んでしまうからだ。


 そして、ここからだ、上空で禍々しい黒の炎雷が黒い稲光を光らせた。





 

 おそらく・・・ヤツの力の源は人々の恐怖・・・。それをエネルギーに変えて幻覚を見せたり、実際の力としても具現化しているということだ。



 ミギト!強い心を持て!


 僕は自分自身にそう言い聞かせた。そうだ、成り切るんだ・・・絶対折れない心を持つ英雄に・・・。



 

 僕がイメージしたのは、僕たちの孤児院『とらっこハウス』出身の、正義のプロレスラー・ライオンマスクだった。

本名は、ナオト・デイト。獅子の仮面をつけて、日本のプロレス界に燦然と輝く王者であり、正義の人だった。


 もちろん、折りに触れ、孤児院にも来てくれ、ランドセルなど寄付してくれたり、本当に優しく、偉大な英雄だ。


 僕たち孤児全員が、ナオト兄さんのことを誇りに思い、憧れていた。


 あんなに正義に燃えている、すごい人を僕は他に見たことがなかった。




 

 

 この時、彼・ライオンマスクのイメージが浮かんだのは、当然といえば、至極当然だった。



 


 「死ねっ!小僧っ!!この『黒炎雷』を受けて、無事だったものはいまだかつていない!


 さっきのヒョウリの時に、食らわせた『黒龍炎』とは、破壊力は100倍違う!」



 「あの世に行って、孤児院のみんなと自分たちが我々に楯突いた愚かさを後悔するがいいいいいいいいいぃ!!!」



 


  黒い光が瞬間にマックスとなり、弾け飛んだ・・・ように見えた刹那・・・



 

 


 

 ゴオオォグオォゴオオオオオオオオ―――――ンっ!!!!




 

 わずかほんの一瞬の後から、もの凄い轟音があたり一面に鳴り響き、大気が鳴動していた。



 

 

 

 僕がいた広場の真ん中にあった噴水は、跡形もなくなってしまっていたー。




 

 ベリアルは少し息を切らせていた。

ヤツにとっても、大技で、チャクラをかなり消費した様子だった。

 それほどの破壊力があった・・・。


 ベリアルは、仕事をやり終えたと確信し、つぶやいた。



 

 「さて、あそこで眠っているお嬢ちゃんをあとは始末するだけだな・・・。」


 そう言って、広場を見た瞬間ーーー。


 ベリアルは信じられないものを見た。



 


 そこに、ライオンの仮面をつけた筋骨隆々の男が、悠然と立っていたからだ。



 「き・・・貴様! いつの間にそこに・・・。誰かが近づいてくる気配なんてまったくなかったぞ!」




 

 「正義のヒーローはピンチに必ず駆けつけるものだ!」


 「減らず口を・・・。」


 「貴様の、『黒炎雷』とやらは、私の絶対的正義の心を破壊することはできなかったようだな。」




 


 ベリアルはすぐさま冷静さを取り戻した。


 しかし、まわりにさっきの小僧はいない。つまり、さっきの小僧・ミギトは『黒炎雷』で消し去ったのだろう・・・。

ヤツ、ライオンマスクはその後に隠形の技で現れたに違いない。


 「ふん・・・、私が隠形の技で気づかないほどの見事な隠形だったな・・・。だが、お前は『黒炎雷』を受けたはずがない。


 私を謀ろうだなんて、2000年早いわ!!」



 


 そう言って、一瞬のうちにライオンマスクの至近距離まで詰めたベリアルは下から黒い炎をまとったブローを放った。


 あっさり、それを受け流し、その空いた左手で、必殺のライオンクロウを放つライオンマスク。


 ライオンマスクが試合で使う必殺技の一つだった。鋭い爪が一瞬、さらに鋭くなり、風切り音とともに相手を切り裂く。


 悪役レスラーは、血しぶきを上げて倒れる・・・そんな威力のあるライオンマスクの必殺技の一つだ。



 


 「ぬぅ・・・!!」


 それを背後に飛んで交わすベリアル。


 そこから回転し、シスターの制服から獣の脚が見え、ライオンマスクに蹴りつけた。



 

 それを悠然と腕一本でガードするライオンマスク。


 そこから常人には見えないスピードで動き、技を繰り出しあう、二匹の猛獣・・・。


 まわりから見ればそうとしか見えなかっっただろう。



 そして、激しい攻防がその後しばらくの間繰り返された。



 ライオンマスクのほうが若干、優勢にも見えた。

それほどの攻防が繰り広げられる中、ベリアルは、冷静に上空にまたしても、炎雷を集めていた。








 禍々しい黒雲が二人の、いや二匹の激闘の真上に渦巻いていた・・・。



 ベリアルは心のなかで、勝利を確信していた。



 格闘では、二人の力は拮抗し、ややライオンマスクが優勢であった局面・・・。



 ベリアルは、さっきの大技をもう一度、虎視眈々と準備していたのだった。




 ライオンマスクはそこに気づいているのかいないのか、まったく変わらず攻防を繰り返していた。


 時々、獅子の爪が、ベリアルの皮膚を切り裂いていた・・・。



 



 しかし、ベリアルはそこで、邪悪に微笑んだ。


 そして・・・。









  「死ね!ライオンマスク!」


 「ファイナル・フィアー・ファイアー・フォーリングダウン!!!」



 上空に渦巻いていた黒い渦がその言葉に呼応し、黒光りした。







 またしても、さきほどと同様、黒い光が瞬間にマックスとなり、弾け飛んだ・・・



 その後・・・。



 黒煙が晴れてきたその場所に、人影が2つ・・・あったーー。




~続く~



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