第7話 孤児院消失事件 『最後の遺志』

 


 ヒョウリはその言葉を聞き、遠い目をしながら、僕にこう告げた・・・。




 「僕とミギトは同じ俳優王を目指していて、小さな頃から演技力を磨いてきた・・・僕とミギトとの間には、その夢を追いかける意思も、その演技力もすべてにおいて差はまったくないと思っている。




 そう・・・幼馴染であり、兄弟であり、ライバルであり、そして同志であり、一心同体だったと思っている・・・。




 僕の力の全てを、ミギト・・・君に託す!そして・・・




 僕は君といつまでも一緒だ・・・そしてミギト! 君は僕よりも自由に演技ができる! 僕は君を信じている!




 君は・・・俳優王になるよ・・・。そして、これからは僕の魂も一緒に連れて行ってくれ!」






















 ヒョウリは咳をゴホゴホっとした・・・血がそこからあふれる・・・。






 そして・・・、ヒョウリは胸からいつも身につけていたペンダントを外し、手にとった。




 このペンダントは、孤児院の前にヒョウリが赤ん坊の時に捨てられていた時、その身に着けていたもので、おそらくヒョウリの実の両親との唯一のつながりだった。








 このペンダントに刻まれているのは、「OULアウル」という文字と、ミネルヴァのフクロウの絵柄だった。




 「OULアウル」は古英語でオウル、フクロウのことを指し、ミネルヴァのフクロウは賢さを意味する・・・




 おそらく何か止むを得ない事情で、ヒョウリを手放さなくてはいけなかったヒョウリの親が、ヒョウリに賢い子どもに育ってくれるよう願いを込めたんだろう。




 ヒョウリも片時も手放さずに身に着けていたものだった・・・。








 ヒョウリはその大切なペンダントを僕の手に握らせ、その上から両手を握り、




 「ミギト!君のこれからの道標となるように、このペンダントに刻まれている言葉を捧げよう!




 『OUL』・・・!! 未来を見通すミネルヴァのフクロウの賢さを君に!




 そして君の未来へ僕の魂も連れて行ってくれッ!」








 そして、ヒョウリは血のついた指で、OULの文字の前に、“ S ” という文字を、文字通り血文字で書いた。




 「僕の・・・『SOUL(魂)』をっ!!」




 そう言って、ヒョウリは僕の手を握りしめ、その生命チャクラを輝かせ始めた!




 ビヨンド能力・ABCに目覚め始めていたヒョウリは、その全生命力を、僕に注ぎ込んだ!




 一瞬、あたりは暗くなっていたのに、光り輝いたように見えた!




 あたかも、花火が最後の輝きを大きく派手に光り輝かせるように、七色のチャクラが・・・僕に流れ込んだ!










 そして・・・。














 ヒョウリは眼を閉じ・・・髪も真っ白になり、その生命すべてが燃え尽きてしまったように・・・動かなくなった・・・。














 


 夕闇の中・・・孤児院の建物が炎に包まれていた――。












 僕はその建物の入口から、誰かが出てくる気配を敏感に感じ取った。




 すると、建物のまさに燃え盛る入り口から、ゆっくりと慌てた素振りもなく人影が見え、外に出てきた。






 悠然と歩いてくるその人影は・・・シスター・テレサだった。








 




 シスターは。僕の方を見つけると、不思議そうな顔をした。




 そして、あの優しかったシスター・テレサの笑顔を変わらず浮かべた・・・。








 「まあ!?ミギト! 大変だったのよ!?




 孤児院が火事になっちゃって・・・」










 




 僕は一瞬、そのシスターテレサの笑顔に、心がズキンと痛んだ・・・。




 シスター・テレサは、まさに、孤児院の子どもたちや、ミギト、ヒョウリらにとって姉のような存在であり、いつも優しかった。






 「シスター・・・」










 だが、ミギトはヒョウリから受け継いだ能力の目覚めで、シスターからどす黒い肥溜めよりも臭いチャクラを感じ取っていた・・・。






 「ミギト、あら?その子はセイラちゃんじゃないの?怪我してるの?




 こっちへおいで・・・。怪我を手当てしなきゃ・・・。」








 


 「いえ・・・シスター、このまま僕が病院へ運んで行くので、大丈夫ですよ・・・。」






 そう言って、じりじりとセイラを抱きかかえ、後退りするミギト。








 「どうしたの?ミギト・・・。」






 そして、シスターが近づいてこようとした瞬間、シスターの後ろの建物から、誰かが出てきた・・・。










 それは傷ついたガストーンだった。




 「ミギトっ!! シスターから離れるんだっ! ゴボっ・・・」




 そう叫んで、ガストーンは血を吐いた。








 「キャシー先生は・・・そいつに殺られた・・・。そいつはシスターじゃない!化け物だ!」




 ガストーンはおそらく、ヒョウリと同じように脇腹を怪我していた・・・。




 あの出血量・・・おそらく助からないだろう・・・。




 ガストーンのことだ、キャシー先生を最後まで守ろうとしたんだろう・・・。




 そして、ガストーンだけが建物の外に出てきたということは・・・キャシー先生はもう生きてはいないのだろう・・・。








 「ガストーーーン! もう、しゃべるな!」




 ・・・・・・そいつがシスターじゃないのは知っている・・・ヒョウリから聞いたから・・・」










 「ほお・・・バレていたのか・・・じゃあもう、この姿は必要ないな・・・。」




 さっきまでのシスターテレサの優しいい声とは全然違う、地の底から響くような恐ろしい声だった。




 シスターテレサの笑顔が徐々に、恐ろしい悪魔の顔に変わっていく・・・








 その後ろで、ガストーンが倒れた・・・。




 そこへ振り返った赤い悪魔が、その両手から黒い炎を巻き上げると、ガストーンにその炎を容赦なく浴びせた。




 「ヘル・フィアー・ファイアー!!」










 ガストーンはさきほど、ヒョウリとセイラの頭上から落ちてきた黒炎と同じように包まれ、姿が見えなくなった。




 僕は、ガストーンがもう死んでいるのがなぜだか、わかっていた。倒れた時にはすでに息絶えていたのだ。




 彼から、その生命チャクラが、完全に消えたのがわかったからだ。










 僕は、この赤い悪魔――『ベリアル』とヒョウリは言っていたな――と、戦っても勝てる見込みがないことはわかっていた。




 だから、ヤツがガストーンのほうを振り返って、その両腕から黒炎をまとった瞬間に、セイラを抱えたまま、一目散に逃げた・・・。






 ヒョウリやガストーンの遺体を前に、逃げることは非常に、辛く耐え難いことだった・・・。




 が、生命チャクラを感じることができるようになった僕は、燃え盛る建物の中に生命反応がまったくないことも感じ取っていたし、


何よりも、ヒョウリやガストーンの遺志を無駄にはできない・・・そして、まだ生きているセイラを何としても守り抜かなきゃいけない・・・。




 それだけを考えていたのだった・・・。








~続く~






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