第6話 孤児院消失事件 『惨劇』


 

 

 一方、ベリアルは素早く移動しながら黒炎を撒き散らしていた。

どうやら、孤児院ごと焼き尽くすつもりのようだった。



 

 まわりの部屋の中にまで黒炎が暴風となって入り込んでいく様子は、黒いヤマタノオロチのようでもあった。






 

 

 


 赤い貴公子ベリアルは、廊下を黒い炎で包みながら進み、子どもたちの大部屋がある前にやってきた。

そして、勢いよく扉を開けて、中を見た。


 「んん・・・??」




 

 中には誰の姿も見えなかった・・・どうやら隠れたらしい・・・。


 「ふん・・・なにやら賢い子供がいるらしいね・・・おそらくセイラちゃんかな?」


 そう、ベリアルはここ数日、シスターテレサに化けていたため、子どもたちのことも知っていたのだった。


 そして、次々と机や家具をひっくり返し始めた。





 

 「わっ!!」


 「ぎゃっ!!!」


 「ああ!!」



 

 物陰に隠れていた18人の子どもたちは次々と見つけられ、その瞬間に無慈悲にもベリアルは黒炎でその身体を焼いていった・・・。



 まさに、外道! 悪魔の所業・・・



 

 部屋の隅に追いやられていく子どもたち・・・


 「ぎゃああ!」


 「うわぁああああん」


 「ギギギギ・・・・」




 


 阿鼻叫喚の地獄が、この世に再現されていた・・・。






 


 部屋の片隅に、ピピンヌとセイラ、ジュードの三人の子どもたちはは固まっていた。窓のすぐそばだ。


 セイラがヒソヒソ声で、二人に告げる・・・。


 「この窓から飛び降りるのよ・・・」



 

 「いや、だって・・・ここ2階だぜ・・・」


 「逃げなきゃ確実に殺されちゃうわ・・・」


 「わかった、でも先にセイラ、君とピピンヌが行くんだ・・・」



 

 一瞬、ジュードの言う言葉を反芻したセイラが、必死な顔で言った。


 「ダメよ!!ジュード!あなた、ここに残るつもりね・・・」


 「早く!!ピピンヌ!!セイラを頼んだぞ!!」


そう言ってピピンヌにセイラの身体を押し付けたジュードは、一瞬、セイラを見て微笑んだ。




 「気づいていたかもしれないけど、僕はセイラのことが好きなんだ・・・。これは僕の覚悟だ!」



 そう言って、ジュードは物陰から飛び出し、赤い悪魔のほうへ走っていった。


 ・・・大回りに、セイラとピピンヌの隠れている物陰から反対の方向へ・・・。






 

 「やい!この化け物!!シスターの服なんか着やがって!!」


 ジュードの手には、ホウキが握られていた。走りながらホウキを手にしたジュードだった。


 そして、それを、振りかぶり、殴りかかろうとした瞬間だった・・・。




 

 「ほお!勇ましい子は嫌いじゃないですよ・・・!」


 そう言ってベリアルは黒い炎を止め、ホウキを左手で軽々掴んだ。


 「そんなあなたの勇気に免じて、特別に面白いものを見せてあげましょう・・・。」



 


 ベリアルがその顔をシスター・テレサに変えた・・・。


 「え!?シスター?」


 ジュードは、一瞬、そのシスターテレサの優しげな顔に、驚き、止まってしまった。






 「さあ、悪い子はお仕置きしますよ!」


 シスターの声で、シスターの姿で、ジュードに近づいたベリアルは、ジュードを軽々と右手で持ち上げた。


 「シスター・・・どうしたんですか?やめてください!!僕ですよ・・・ジュードですよ」



 

 シスターの姿をした悪魔はそれを聞いてニヤリと笑い、


 「ええ・・・知っていますよ。ジュード・・・。あなたはあの子・・・セイラを守るために出てきたのね・・・」



 「ちゃぁんんと、後であの子も殺してあげますからね・・・安心して死になさい!」


 そう言ったベリアルの口元は悪魔のように醜く裂けていき、ニヤリと残酷な微笑みを浮かべた。





 

 ジュードは何がなんだかわからないといった表情を浮かべ・・・ベリアルの右手から吹き出す黒い炎に包まれた!


 「ヘル・フィアー・ファイアー!!」



 「うわぁあああああああああああ!!!」






 


 一瞬にしてジュードは叫び声とともに、黒い消し炭となってしまった・・・。



 「ふふ、地獄の炎です・・・さぞ恐怖を味わえたでしょう!?」




 ジュードの叫び声を聞き、飛び出しそうになるセイラをピピンヌが抱き止めた。

ピピンヌは歯を食いしばり、唇から血が出てしまっていた。


 「セイラっ!ダメだ!ジュードの意思を無駄にしてしまうことになる。僕たちはここから逃げないと・・・」


 「だ・・・だって・・・」


 ピピンヌの真剣な眼差しを見て、セイラは正気を冷静さを取り戻した。


 セイラは窓の鍵を開け、そこから出ようとした。



 

 その時、背後から恐ろしくも甘い声が聞こえた。


 「見ぃ~~つけた・・・♡」


 ベリアルが、ピピンヌとセイラを見つけたのだった。


 その背後には、焼かれた無数の子どもたちの姿があった・・・が、息をしている様子の子どもは一人もいなかった・・・。




 

 

 さっき、ピピンヌとセイラを守って飛び出したジュードも燃えカスとなってしまっていた・・・。


 「セイラっ!早く行くんだ!そして、ヒョウリ兄ちゃんのところへ、逃げるんだ!」


 「ダ~メダメ♡ 逃さないよ?」



 

 ピピンヌはさきほどのジュードと同じく、セイラの前に立ちふさがり、両手を広げた。


 「セイラっ!早く!!」



 セイラは、ピピンヌの気持ちを痛いほど感じながら、逃げるということを冷静に決めた。

ここで、自分が何としても逃げて、誰かにこの事実を伝えなければ、ジュードやピピンヌ、他の子どもたちのことを知るものがいなくなってしまう・・・


 そう思っての行動だった。



 

 ベリアルの右手が、ピピンヌに伸び・・・その身体に触れた瞬間、大部屋の扉から、ヒョウリが入ってきた!


 「やめろ!!この外道!!」


 「僕は無事だぞ!?先生も生きてるぞ!?」


 ヒョウリがそう告げたその声に、ベリアルはゆっくり振り返りながら、右手に黒炎を立ち上らせた・・・。



 


 「ぐぎゃぁあああああーーーーっ!!」


 ピピンヌの断末魔が叫ばれたその時、ヒョウリの身体は怒りの生命チャクラを噴出させた!


 そしてピピンヌの身体を抱きかかえ、ベリアルの右手を強く上方へ蹴り上げた。


 その勢いでベリアルは、体制を崩し、部屋の入口の方へよろめいた。


 ヒョウリは素早くセイラの前に立ち、ピピンヌを見たが、ピピンヌは息絶えていた・・・。




 

 そのまま、ゆっくりピピンヌの身体を下ろすと、セイラに向かって優しく告げた。


 「すまない、遅くなった・・・。みんなを守れなかった・・・。」


 セイラは賢い子だった。全ての状況を理解していた様子だった。じっと泣くのをこらえている・・・。





 

 「わかってる。ヒョウリ兄ちゃん、わかってるよ。来てくれてありがとう・・・。」


 セイラのその眼には今にも流れ落ちそうなくらい涙がいっぱいだった。


 ヒョウリは、窓を見た。セイラを抱えて勢いよく飛び出そうと窓を開けようとした瞬間――。



 

 背後から、ベリアルがその左手に黒炎を纏い、ヒョウリの背中から腹を貫通する一撃を放った!


 ヒョウリは間一髪身体を捻ったが、かわしきれず、横腹をえぐり取られた。


 が、ヒョウリはその勢いをも利用し、窓を開ける余裕がなかったため、自身の体でガラスを突き破り、セイラを抱いて2階からダイブしたのだった。



 空中に飛び出したヒョウリは身体を下に入れ替え、セイラをその身体とチャクラで包みこみ守りながら、落下した。




 

 ベリアルは、赤い顔をさらに怒りで赤くしながら、上から黒炎をヒョウリの落ちていくその場所へ叩き込んだ。


 「ヘル・フィアー・ファイアー・フォーリングダウン!!」


 黒炎はまさに黒龍となって、ヒョウリたちの上から襲いかかったのだった。





 

 「くっ・・・。あのがキめ・・・あんな力を・・・。だが、まあいい。『The brainless throngs steps of horror』の『黒龍炎』が焼き尽くすだろう・・・。」


 それより、ヤツめ。院長先生が生きてると言ったな。まずいじゃないか、任務失敗になってしまう・・・


 先にそっちを今度は確実に始末しなくては・・・やはり直接始末しなくてはいけなかったか・・・。反省点ですね・・・。」





 そう言って、悠然と振り返り、大部屋の扉から出ていった。また元の院長室へ向かっていったのだ。




 

 ヒョウリは上から襲ってきた黒龍の炎を自分の目覚めたばかりの生命チャクラを振り絞り、なんとかセイラを守っていた。


 ヒョウリとセイラの周りはあたり一面、黒い炎と煙で遮られ、何も見えない状況だった。





 

 だがー。それが逆に幸いし、ベリアルはまたしてもヒョウリたちを仕留めたと思い、そのまま窓の下を確かめることをしなかったのだった。



そのまま、少し経ち、黒炎と黒煙が晴れてきだしたころ、そこへ、ミギトとガストーンが駆け寄ってきたのだったー。






 


~続く~



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