4年に一度は8年に一度
きつねのなにか
うらしまたろう
「もうそろそろ帰航だ、準備をしておけよ」
「あー、4年に一度のこの機会楽しみだなあ。カキンは初めての下船だろ、いろいろと覚悟しておけよ」
「は、はいっ」
俺たちの艦は惑星宙域警戒船といって、じゃっぱーん帝国が保持している領土の端にある惑星を光速で巡回している艦だ。
俺ことカキン・シロは18歳の時にこの船に乗った。今は22歳ってところだな。
「まもなく到着する。甲板に出て帽振れ!」
船長の声がこだまする。
宇宙空間でもシールドに守られているので、甲板にも空気がある。
下船作業にあたらない全乗組員が甲板に上がって帽を振る。もちろん俺も。
艦が桟橋に停船する。かなりの人数が出迎えに来ている。俺の、俺の恋人は……いた。ああやはり綺麗だ。ノベル。ノベル・ヨメ。
「おかえりカキン」
「ああ、ただいま」
そういって久しぶりにノベルを抱擁したら、少し大人の香りがした。
食事へ赴いたりウィンドウショッピングしたり、やることやって、ベッドの上に今俺たちはいる。
「ねえ、また乗るの?」
ノベルが俺に抱き着きながらそうつぶやく。
「まあな。エリートが乗れる艦だ、乗らないという選択肢はないだろうな」
俺は頭をなでながらそう答える。
「……私は待てないかもしれないわ」
ノベルは顔をそらしながらそう言う
「4年後を、か?」
「……うん」
「……そうか」
街並みを一人で歩く。4年前、まだ植えたばかりの小さな苗木は一つの木になっていた。
家屋の屋根にはソーラー発電が乗っている。これは4年前にはなかったな。ここまで普及が進むのか。
街の通りにはAIロボットによる案内がおこなわれており、後ろについていけば今日の晩御飯から銃火器まで何でも案内してくれる。
出航の日。
「それじゃあ、行ってくる」
「……うん」
俺は船に乗り込むと甲板で帽を振って惑星から離れていった。
これから4年、過酷な任務が待っている。
任務は過酷ではあったがとても順調だった。光速を落とすことなく終了し、無事に4年たって帰ってきた。俺はもう26だ。
また帽を振って大勢の出迎えを受ける。この瞬間の嬉しさは4年前と変わらないな……。
俺のノベルは……いた。が、小さな子供を連れている。覚悟はしていたがそうか……。
下船をしてノベルに会いに行く。
「久しぶり、ただいま戻ったぞ」
「おかえり、カキン……さん」
「やはり難しいか……」
「あなたにとっては4年、でも私達普通の人にとっては8年だからね。最初に旅立ってからもう16年もたっているのよ。私はもう36歳よ」
ざっくりと説明しよう、ウラシマ効果というものが物理学にはあるらしい。速度が速くなれば速くなるほど、時の速度が遅くなるという、うちゅーこーがくそーたいせーなんたらかんたら理論で説明される現象だ。
竜宮城の3日が地上の世界の300年に相当していたというあの話から名前付けられた現象でもある。
俺は普通の人より半分の時の流れの場所で生活していた。そこでの4年はほかの所の8年に相当する、というわけだ。
「もういいかな?」
旦那さんであろう人がそう声をかけた。
「あ、はーいあなた! じゃあ、行くね」
「あ、ああ」
といってノベルは俺から離れていった。
街並みを歩く。一つの木になっていた樹木はそれこそ樹木といえるほどに成長していた。
家屋の屋根にはなにやらソーラー発電ではないものが乗っているではないか。なんかよくわからないが凄そうだ。ソーラー発電はもう陳腐化されたのか全くと言っていいほど見ない。
街の通りには拡張現実、ARによる案内がおこなわれており、眼鏡もどきを一つ貰えば眼鏡の前には麗しいお嬢様による案内が待っている。案内用AIロボットのごみ置き場があったのが少々悲しかった。
――ここは俺の場所じゃあない。
艦は夫婦で乗る船員が非常に多かったのだが、それが分かった。ここは俺の場所じゃあない。この時間は俺の時間じゃあない。
幸い新たな恋人を船内で見つけた。俺もここの時間で過ごすとしよう。
4年に一度は8年に一度。俺には竜宮城が適しているようだ。
4年に一度は8年に一度 きつねのなにか @nekononanika
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