第276話

 「そうか……。メンバーは?」

 やっと諦めたのか、不思議そうな顔をしつつも、話題を戻すパパ。


 「ええっと、メンバーは……。リーダーとして、おねぇ、ゲフンゲフン。リミア。道具選別係りとして、ウサギさんと、ゴブスケさん。後は、物々交換に使う肉を、大ムカデさんが運んで、言語が話せる交渉人として、例の人間の男性も、村へ向かいました」


 「……シェイクさんは、大丈夫そうだったか?」

 そういうパパは、私達を心配するときよりも、不安げな声を出す。

 それに嫉妬しそうにもなるが、多分、その差が、信頼なのだろう。


 私やお姉ちゃんは、ある程度の事なら、自分たちで対処できると、信頼されているのだ。


 信頼されているとは、頼られていると言う事、認められていると言う事。

 それに、その分、パパの心労が減っていると思えば、悪い気はしなかった。


 ……それに何より、守る対象の娘では、いつまで経っても、パパの隣には立てないのだ。

 守る対象ではなく、支えあうパートナーとして……。一人の頼れる女性として、パパの隣に立っていたい。


 「えぇ、まぁ……。彼も、そうするしか、正気を保つ術がないと言うのが、本音でしょうけど……。なんだかんだで、パパを信頼している様でしたし、その点、私を含め、皆が感心していましたよ。

 元々、知識と建築作業等の重労働では、能力を買われていましたし、今回の件で、上手く取引が行われれば、彼も、仲間内で、一定の地位は得られるかと……」


 私は、そんなパパの信頼に答えるべく、しっかりと、聞かれた以上の情報を返す。


 「そうか……。それならよかった。拠点の方は変わりないか?」


 「そうです。その拠点についてなのですが、この近くに良い場所があったので、そこに移転しましたよ」


 「こんな危険な場所にか……?それも、冬が差し迫っている状況で?」


 「はい。確かに危険ではありますが、ここの洞窟からは、無限に思える程、食料が手に入るので……。それに、洞窟から凶暴な生物が出てこようとする気配もありませんし……。一応、私達は、その監視役だったのですが」


 「なるほど……」と、考えるようにしながら呟くパパ。


 「加えて、私は良く分かりませんが、昔の拠点に建てられていた住居の大半が、試作品だったらしいので……。今回はしっかりと冬に耐えられる家を建てて、水を引いたり、区画整理をする意味でも、移転は丁度良かったらしいですよ?」

 私はスラム街の様な旧拠点を思い出しながら、ウサギさん達の言葉を伝える。


 「……詳しくは、ウサギ達に聞くしかないか……」


 「ですね……。私もそうした方が良いと思います」

 力になれないのは悔しいが、そこは適材適所。

 出しゃばり過ぎるのは良く無い。


 「ただ、現状、竪穴式住居の様な、住人の大半が収容できるシェルターができていますし、それ以外にも、人が収容できる家屋が建ち始めているので、冬の寒さはなんとかなるかもしれません……。

 それに何より、現場監督であるウサギさんとゴブスケさんが無策に現場を放り出すとは考えにくいですし……」

 パパの思考材料になる様、一応、私の楽観的な主観だけは伝えておいて。


 「まぁ、シェルターは快適には程遠いですし、衛生的にもよろしくないので、他の住居建築が急がれる所ではありますが」

 と、懸念点も付け加えておく。


 「そうか……」

 そう呟くパパの視線は、自然と人間の少女へ、吸い寄せられていった。

 多分、私の説明で、心配の度合いが、皆から、彼女へと移ったのだろう。


 やはりと言うか、それはそれで釈然とはしないが。

 パパの不安を少しでも取り除けたのなら、それに越したことは無かった。

 

 「……リミア達が出かけて、もう、随分と経つのか?」

 視線を人間の少女に移したまま、呟くパパ。


 「……?……いいえ、一時間ほど前、私が拠点を離れる時にはまだ、拠点に残るコグモさんと、皆が話し合いをしていて……。

 初めの内は、拠点周辺の警備に就いているコトリさんの部隊から、上空からの警備用に、何人貸し出すか、の話し合いだったのですが、いつの間にか、渡す食料は小出しにするべきか否かに、議題がすり替わり……。

 いつまでも、警備のリーダー二人が現場を抜けている訳にもいかなかったですし、話し合いが長引きそうだったので、私は狼部隊から何名か派遣して、早々に、会議から抜けて来ちゃいました……」


 実の所、ウサギさんと、コグモさんの冷戦の様なやり取りに気おされ、逃げて来たと言うのが本音だが……。

 幸いにも、コグモさんを真似ていたお蔭で、冷静な時に、しらを通す技術だけは一人前になっていた。

 

 「そうか……。それなら、まだ出発していないか、していても、荷物を持って集団行動を取っているリミア達には追い付けそうだな……」


 ……どうやら、パパは皆を追いかけるつもりらしい。

 それならファースト達の鼻と背中を借りて、先導してあげれば、その間私はパパを独り占めに……。


 「ここの警備は、引き続き任せて良いか?」


 「え……?あ……。は、はい……」

 警備のリーダー役を出しに、会議から抜け出してきた私には、そんなの、私がいなくても大丈夫とは、言い辛かった。 


 「一応、洞窟の入り口付近には、俺の作ったキメラが門番役で配置してあるが、本当に強い相手だと、どこまで持つかは分からないからな……。

 クリアなら心配いらないと思うが、もし、洞窟から何か出て来そうになったら、油断せず、キメラが交戦している間に、逃げて、皆に知らせるんだぞ……。

 んじゃ、後は任せた!」


「えっ……?ええっ……」

 私を信頼してくれるのは良いが、これは些か扱いが雑過ぎやしないだろうか。


 それに、キメラって、一体何の話?

 

 私は、歩きだした少女の後を追って、木々の間に消えて行くパパを、ただただ、呆けて見送る事しかできなかった。

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