第267話
緊急招集の遠吠えを聞いた私達は、共に居たファーストの背中に飛び乗り、声がが響いて来た、拠点への方向へと向かっていた。
「ファースト!もう少し!頑張って!」
息を荒くしながら、山道を走るファーストと、そんな彼を励ますクリア。
彼の背に乗る私達が出来る援助は、精々その程度。
しかも、私より適任なクリアが、その役目を買って出てくれているので、私は手持ち無沙汰になってしまう。
(拠点の方向。緊急招集の鳴き声……。何があったの?皆は無事?)
例えば、魔力で変質した生物に襲われたとか、人間が脅威を取り除く為に動いたって可笑しくない。
する事の無い私の頭は無駄に働き、悪い事ばかりが浮かんでは消えて行く。
でも、何もできない。今、私に出来るのは、ただ待つ事だけ。それだけだ。
「…………」
歯痒い。
今すぐにでも、この背中方飛び出して、先行したいものだが、生憎、私の移動速度では、ファーストを追い抜けない。
今、私に出来る事は無い。
静かに待ち続ける、これが拠点にいち早く到着する為の、最適解。
だから、これで良い。これで良いの……。
いくら自分にそう言い聞かせ様とも、無駄な思考が不安だけを募らせ、もっと、自分に出来る事があるのでは無いかと、自身を追い立てる。
「……リミア?」
気付けば、クリアが心配そうに、こちらの顔を覗き込んで来ていた。
(私を心配……?クリアだって、同じはずなのに……)
……いや、彼女は、一度、もうこの想いを経験しているのか。
帰って来ないルリ達と、飛び出した私を、ただ、ひたすらに待つ事で。
「ん……。何でもない」
私はクリアに心配をかけるのは違うと思い、俯いていた顔を上げる。
すると、もう、そこは見覚えのある場所だった。
クリアの言葉通り、本当に、あと少しで目的地に着くと言う事が分かり、安堵する私。
(……クリアは、この想いを、終わりが見えない中、耐えてた。……凄い)
……そうか、これでは私が心配されるのも当然だ。
なんせ、この件に関しては、私よりも、乗り越えた苦しみの量が違うクリアの方が、強くなっているのだから。
彼女と言う存在が生まれてこの方、彼女を守るべき存在……。いや、私よりも弱い存在だと勘違いしてしまっていたが。
私の方が長く存在していようが、元が同じであろうが、独自で思考し、意志を持った時点で、もう、クリアはクリアなのだ。
私の方が、偉いなんて事も無ければ、強いなんて事も無い。
ましてや、私と"同じ"だなんて……。そんな事は決してないのだ。
「クリアは、怖くないの?」
相手を対等だと理解出来た瞬間、素直な疑問が口をついて出た。
「……怖いですよ……。でも、パパがいれば何とかしてくれていますって!!」
それは、私に無い物。
ルリに対する、絶対的な信頼だった。
私は、初め、ルリの愛情を信頼できずに、彼の身を危険に晒し、その肉体を滅ぼさせてしまった。
二度目も同じだ。
私は、ルリに拒まれる事が怖くて、自らの体を捨てて、逃げてしまった。
それでも、彼は……。ルリは私を愛してくれた。
それこそ、自身の心を壊しかけてでも、私を復活させようと、尽力してくれた。
その結果が今の私と、クリアなのである。
だから、今の私は、嫉妬する事はあっても、ルリの愛情を疑ってはいない。
でも、その身体的な強さでは、まだ、信じ切れていないのだ。
それに、頭だって良くないし、余計な物ばかりを背負い込んで……。
挙句の果てに、いつも土壇場で、自身のみを顧みない様な無茶な行動ばかりして……!
それで、体を失って!心まで壊しかけて!
……それでも、最後には、いつも、私達を助けてくれる。
「……ん。ありがと」
やはり、ルリの全ては信頼できないが。
どんな状況からでも、私達を救い出してくれるルリだけは信じても良いのでは無いかと思えた。
「え……?ええっと……。どういたしまして?です」
私の唐突なお礼に戸惑う、クリア。
この察しの悪さは、やはり、私とは"同じ"では無いのだなと、内心、苦笑する。
いや、ここは、クリアの様に、人前で、感情を上手く表に出す練習をしてみよう。
そうすれば、私もクリアの様に、愛嬌のある女性になって、ルリを独り占めに……。
(ええっと……。こんな感じ……?)
「ヒッ!!」
クリアが怯えたので、即座に止めた。
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