そして、王になる。
第260話
朝日を浴び、抱き着いていたリミアとクリアを引き離しつつ、久しぶりにのんびりとした朝を満喫していた俺。
「……んで、詰る所、俺は王になったって事で良いんだな?」
そんな俺の下に、朝の支度の為に部屋へ入って来たコグモから、衝撃の告白があった。
「はい……。状況が状況だったとは言え、勝手に祭り上げてしまい、申し訳ございませんでした」
そう言って朝の支度を終えたコグモが頭を下げて来る。
「いや、別に良いよ。王様って言っても、皆の意見が纏まるまでの、仮の役職なんだろ?それに、こいつらも、こいつらで頑張ったみたいだしな……」
そう言って俺は未だ眠っているリミア達を座っていた椅子の上から見つめる。
「えぇ、それはもう……。特に、皆の前に立っての、ルリ様への愛の告白は凄まじい物が有りましたよ……?私も、つい、ルリ様に嫉妬してしまいました」
そう言って苦笑するコグモは、リミア達を庇っていると言うより、本心からそう感じている様に見えた。
「……聞きたいですか?」
黙ってコグモを見つめていると、何を勘違いしたのか、悪戯っぽく笑いながら、何とも言えない提案をしてくる。
「いや、良い……」
俺は咄嗟にコグモから顔を逸らす。
興味はあったが、それ以上に、一度聞いてしまったら、何んか、こう……。後戻りできなくなってしまう気がしたからだ。
「そうですか……。まぁ、私としても敵に塩を送る気は無いので、聞いた所で教える気は有りませんでしたけどね♪」
いつもより、少し意地悪なコグモ。
俺に嫉妬したと言う件は、やはり、本当らしい。
「なんだよ敵って……。リミアと何か勝負でもしてるのか?」
俺はこれ以上、コグモの玩具にされない為にも、適当なツッコミを入れ、話題を逸らす。
「はい。今回、リミア様が戻って来た事で、クリア様と私との間で結ばれていた停戦協定も終わり、そこにリミア様も加えて、正式にルリ様を巡る戦の火蓋が切って落とされましたので……」
戦だと言いながら、心底楽しそうに語るコグモ。
しかし、その話の内容は、俺の意識を溜息と共に遠退かせる物で、まるで、俺の元気をコグモに吸い取られている気分だった。
「……聞いてますか?ルリ様」
頭を抱えた俺の顔を覗き込んで来るコグモ。
どうしたのかと聞いてこない辺り、確信犯で間違いないだろう。
「あぁ……。なんで、コグモはこんなに性格が悪くなってしまったんだろうな。と思ってな」
俺は深いため息を吐きながら、嫌味を返す。
「ん~……。そうですね。ルリ様がどんな私でも受け入れて、守ってくれるので、本性が出て来たのかも知れないですよ?」
笑顔でそう語る彼女は、確かに、いつになく身軽な態度で、心底、楽しんでいる様だった。
それは、俺が心の底から望んでいた事で……。
「……はぁ……」
そうなれば、俺は大きなため息を返す事しかできなかった。
「んっ……。もう……。そんな大きなため息を吐いてどうしたんですか?貴方の愛するコグモさんが、こうして朝早くから身支度を整えに来て上げたと言うのに、何が不満なんですか?」
「うぉっ……」
不満そうな表情を見せた彼女は一転、微笑むと、椅子に座っていた俺の膝の上に飛び込んで来る。
「………………」
彼女は、俺の脚の上に両腕を組む様に置き、その上に顔を押し付けて来くると、そのまま黙って、動かなくなってしまった。
「お、おい、どうしたんだよ。急に……」
俺は彼女の見た事も無いような行動に、状況を理解できず、少し慌ててしまう。
「……本当にありがとうございます。お嬢様を無事救い出してくれた事も、食糧の不足にも、外敵にも怯えず、こうやって、他愛ない日常を送れるようにしてくれた事も……」
顔を埋めたまま、そう呟く彼女。
……あぁ、そうか、これは……。
つい忘れてしまいがちになるが、彼女は俺は勿論、リミアよりも年下なのだ。
それでも、皆を守る為に必死になった結果、俺より少し大柄になってしまった彼女。
俺は、そんな彼女の頭を静かに撫でる。
「ふふふっ……。ルリ様を独り占めです」
そう、おちょくりつつも、その場から動かない彼女。
まだ、甘えるの事に慣れておらず、恥ずかしいのだろう。
俺は「言ってろ」と、悪態を吐いて、その頭を撫で続ける。
開け放たれた窓からは、朝日と共に、少し冷たい風が入って来るが、何時まで経っても、俺の膝の上は温かいまま。
「んんんっ……」
俺に抱き着いて寝ていたせいか、寝ぼけたリミアに抱き着かれ、一回り小さなクリアが寝苦しそうにしている。
騒がしい朝を迎えるまでには、まだ、少し時間がある様だった。
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