第257話
ルリ様と別れた私は、糸を伝って、下の階へ降りようとする。
と、降下の途中、私を見上げる様にして、こちらを見つめるリミア様、クリア様と目が合った。
どうやら、待ってくれていたらしい。
しかし、私を見るや否や、途端に向けられる、訝し気な視線。
親切心で待ってくれていた。という訳では無い様だ。
「すみません。お待たせ致しました」
今にも、何をしていた?と聞いてきそうな、お二人。
何かを言われる前に、軽くお辞儀をしつつ、相手の敵意を削る。
.
「ん……。次は早くする」
「そうですよ!パパと二人きりなんて……。ある事、ない事、疑っちゃいます!」
軽く
大人と、子どもの様にも見えるが、リミア様が普段上手く表に出せず、燻っている感情を、クリア様が表現しているのかと思うと、腑に落ちた。
(っと、いけませんね。もう、クリア様とリミア様は別人なんですから……)
混同して考えるのは失礼という物だった。
「申し訳ありません。ルリ様の寂しそうなお顔が、私を離してくれなかったもので……」
と、削いだ敵意を再び過熱させる様な、それでいて明らかな冗談を飛ばして、会話の主導権を譲らない私。
最近気が付いた事ではあるのだが、会話は駆け引き、ある意味、戦場なのである。
言葉さえ巧みに扱えれば、実力を行使せずとも、相手を屈服させる事が出来る。
ある意味、これも"力"なのだ。そして、武力を持ち入れない関係性であれば、この力こそが大いに役立つ。
「次は襲っちゃうかもしれませんね♪」
(本当は、もう襲っちゃいましたけど)
満面の笑みで、冗談と、嘘を使い分ける私。
しかし、そろそろ、呆気に取られ、固まっている二人が正気を取り戻し、言葉として、その怒りが噴出してくる頃合いだ。
「……っと、お互い積もる話もあるでしょうが……。皆様を待たせている事ですし、一旦、皆様の下に移動しませんか?」
私からも、何か話がある様に振り、二人を冷静にさせた後に、大人の対応を迫る。
「ん。分かった。そうする」
「そうですねー。コグモさんに私達を待たせた愚痴を言って、私達が皆を待たせていたんじゃ、世話無いですし」
素直に従ってくれるリミア様と、しっかりと嫌味をぶつけて来るクリア様。
どちらか片方であれば完封できそうなものだが、タイプの違う二人が同時に相手となると、多少の反撃を貰ってしまう事は致し方ない。
上手く話を逸らせただけでも上出来だ。
「参考までに御聞きしたいのですが、リミア様は最近の出来事をどこまで……」
話をしながら、外に出ようと扉を開ければ、そこでは、コトリを筆頭に、大ムカデやゴブスケさん、ファーストやウサギさんなど、それぞれの中心人物が待ち構えていた。
そして、その後ろには、多くのゴブリンや、大ムカデが配下の虫達、コトリの鳥類兵団に、ファーストの家族であるオオカミ達が集まっている。
「あら……」
私達も忘れるなと言うばかりに、木の上から、私の私兵である小蜘蛛達も降りて来きた。
改めて目の前にすると、本当に、よく、これだけの種族と人数が一堂に集まったものだ。
それも、皆、利害関係は有れど、互いが互いを理解し、共生している。
本来であれば食い合う、或いは一方的に食われるだけの関係。
そんな彼らが、こうして、仲間として集まる事が出来たのは、ルリ様を筆頭とする、3人家族の御陰だ。
私と、コトリ、大ムカデはそれぞれの想いでリミア様の下に。
ファースト率いるオオカミ達は、餓死寸前の所を救って頂いたクリア様の下に。
ゴブスケさんや、ウサギさんは、慕うルリ様の下に。
そして、その長たる三人が、三人とも、お互いを思い合っている。
だからこそ、この纏まりの無い群れは、仲間として、家族として成立したのだ。
だからこそ、これからも、皆がこの関係を保ち続けるには、互いの信じる長を、長同士だけではなく、その下に
そして、長の長たる三人。
今この場にいるのは二人だが、彼女らには配下全員から、尊く思われ続ける義務が発生する。
これは途轍もなく大変な事だ。
少なくとも、凡人である私には、そう思う。
しかし、この家族を成立させ続けたいのであれば、そうするしかない。
そして、彼女らにはそれが出来ると私は信じている。
だから、そうであると、皆にも信じさせてやって欲しい。
私は無言で頭を下げ、道を開けると、リミア様達を誘導する様に、腕を動かす。
リミア様それだけで自身の役割を察して、迷う事無く、足を踏み出してくれた。
クリア様も、きょとんとした顔ではあるが、空気を呼んでか、その後に続く。
飾る所、飾らない所。
大人らしさと、無邪気さ。
それぞれの、らしさが前面に押し出された歩みを、ある者は固唾を吞んで、またある者は、愛おしそうに、心配する様に、喜ぶように見守る。
暇そうに欠伸をしているウサギさんは視界に映らないで欲しいが……。
それもまた、彼なりの、何も心配していないと言う意思表示なのだろう。
それを見て、何処か安心してしまう私にも腹が立つ。
……兎にも角にも、三者三様、皆の視線を一点に受けながら、立ち止ったリミア様が、口を開いた。
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