第240話
魔力を払った事で、完全に意識を失い、ぐったりとするコグモ。
『早く行く。早く行く』
脳内に抑揚の無い声が響いて来るが、流石に、動けないコグモをこの場に置いて行く訳には行かない。
いや、動けない彼女を無理矢理移動させるより、この場で安静にしていてもらった方が、安全なのかもしれないが……。
正直、動けない相手を一人、置いて行くのはトラウマなのである。
それに、魔力を払って、大人しくなったは言え、目を覚ました時の彼女の精神状態は測れない。
やはり、一人で置いて行くのは得策でない気がした。
「待ってくれ。今、目覚めたばかりで、体の調子が悪いんだ。少し、体を慣れさせてくれないか?これじゃあ、狩る所か、狩られっちまう」
『狩られる……?それは駄目。お腹、満ちる。知る機会、無くなる』
俺は嘘ではない言葉で、彼女?を牽制すると、軽く体を動かしながら、作業を進める。
(んでも、連れて行くには、この糸がな……)
コグモの糸に、俺が太刀打ちできないのは分かりきっていたし、実際、引き剝がそうとしても、びくともしない。
コグモの吐き出す溶解液さえあれば、一瞬で溶けだすのだろうが……。
(……仕方ない。かなり強引だが、脳に刺激を送って目を覚まさせよう)
まぁ、強引さなら、この状況を作り出したコグモの方が上か。
……そう考えると、再び怒りが湧いてきた。
(そうだよ。なんで俺が、こんな自分勝手な奴に気を遣わなきゃいけないんだ。それに、そもそも、俺は、もう、俺のしたい様にするって決めたじゃないか)
だから、今から俺が行う事は、ただの我儘。
そう、コグモ達が俺に行ってきた事と同じだ。
(俺がいつも、お前らの顔色を窺っているからって、調子に乗りやがって!)
しかし、俺も、気概が足りなかった。
したい事は、欲しい物は力づくでも手に入れると言う、その気概が。
きっと俺は怖かったのだろう。我儘を通し、関係に瑕が入るのが。その責任を取るのが。
でも、今の俺は違う。失う恐怖を再び思い出し、コグモの、わが身を犠牲にしてでも、我儘を突き通す覚悟も感じた。
こんな事を度々されては堪った物では無い。
だから、俺は、俺なりの覚悟と力で、コグモの覚悟を踏みにじる。
完膚なきまでに叩きのめして、そんな気が二度と起きない様、力づくでコグモの全てを俺のモノにする。
『おい。黒いの。後で腹一杯食わせてやるから、今だけは邪魔をするなよ?』
『……?私?』と、反応する彼女に、俺は『あぁ、そうだ』と答える。
『分かった。少しだけ待つ。でも、少しだけ。早くする』
抑揚の無い声だが、リミアと過ごしたおかげか、その中から、焦りと言うか、苛立ちの様な物が感じ取れる。
この様子では、長く待っては貰えなさそうだ。
「だとよ、コグモ。そう言う事だから、とっとと初めさせて貰うぞ」
俺はそれだけ言うと、意識の無いコグモの口から、糸を伸ばしていく。
これだけの糸で支配してしまえば、もう、コグモは俺に逆らえないだろう。
その、狡猾な頭の中だって、糸が届く範囲に居る時は、四六時中監視させてもらう。
そうすれば、二度とこんな事態は起きないだろう。
『準備はこんなもんか……。ほら!目を覚ませ!』
彼女の眠っている脳を、信号で無理矢理覚醒させる。
「カハッ……!!」
彼女はその衝撃に、苦しそうに、体をのけぞらせ、目を見開いた。
「やばい!!」
瞬間、彼女の中から感じたのは、強い恐怖。
その瞳は見開いたままで、焦点が合わず、確実にこちらを認識していない。
「何なんだよ?!」
無理やり目覚めさせた事が原因か、或いは、魔力による精神汚染の影響か。
いや、今はそれを考えている場合ではない。
「クソッ!」
何かに怯え、力一杯、体を動かし始める彼女。
俺と同じ糸が、ある程度使える様になったせいで、耐性ができているのか、口から挿入した、見えないほどに細い糸の束程度では、彼女を抑え付ける事が出来なかった。
「やめろッ!!」
リミッターを越えた力に、彼女の外装が悲鳴を上げている。
彼女を物理的に抑えつけようにも、力の差は圧倒的で、すぐに振り解かれてしまう。
このままでは、内部で外れた骨格によって、彼女の外装が引き千切れかねない。
彼女がリミアへの忠誠の証として、大切にしているその外装が。
何事も効率的に行おうとする彼女が、効率を捨ててまで、俺の為に、少しでも残そうとしてくれた外装が。
いや、下手をすれば、その骨格が彼女の本体を気付つける事だって……。
「クソッ!!だから、やめろって言ってんだろッ!!」
俺は、暴れる彼女の顎を掴み固定すると、無理矢理にその唇を奪った。
俺は、一度舌を噛み千切られるも、すぐに修復すると、暴れる体と頭を無理矢理抱き寄せ、逃がさない。
そして、彼女の自傷を抑える為にも、彼女の体の全ての支配権を奪い盗った。
「んぅ!?んん~~~!!」
未だにパニック状態から抜け出せず、両目を潤ませているコグモ。
俺はその外装を腕で抱きしめ、口から流し込んだ糸で、彼女の本体を包み込んでいく。
俺の支配に抵抗して、痙攣する様に動く糸が喉を振るわせるが、その振動すらも、俺は口を使って逃がさない。
(お前の全てを俺のモノだ。
その体も、一生も、不安も、恐怖も、何もかも……)
「んっ……!……んんんっ……」
俺は彼女が落ち着くまで、抱擁し、舌を絡ませ続ける。
大丈夫だ。戻って来いと、信号を送り続ける。
「んっ……。んん……。んっ……」
その内に、彼女の力は抜けて行き、自ら舌を絡ませてきた。
「ん、んんんっ……。ぷはっ……。はぁ、はぁ、はぁ……。もう御仕舞ですか?」
もう大丈夫だろうと、唇を離せば、拘束された、痛々しい姿のまま、両目を潤ませ、とろん、とした表情で、彼女が呟いた。
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