第239話
「ハァ、ハァ、ハァ……。ゆ、夢……?じゃないよな……」
先程までが夢だったのか、今が夢なのか、それすらも良く分からない。
「んでも、魔力……?は無くなってるな……」
俺は、まるで自身の体ではないのではないかと思う程、重い体を動かし、ゆっくりと、辺りを見回す。
「コグモ?!」
そこには、自身の糸に身を絡ませ、その中から、弱々しくも、必死に抜け出そうとしているコグモの姿があった。
「大丈夫……。では無いよな……」
俺の声にも反応せず、糸から出ている頭部を必死に伸ばし、糸から抜け出そうとする彼女。そこに、理性は見られなかった。
「まだ、中には残ってるのか……」
辺りの魔力?は晴れた様だが、どうやら、一度中に入り込んだモノまではどうにもならなかったらしい。
「繋ぐぞ。コグモ」
俺が意識を失っている間に、相当暴れたのだろう。
関節なども外れ、正直、見るも堪えない姿になっているが、これはタダの外装だ。
俺は、コグモの中に残る魔力を払おうと、食べ物を求める様にパクパクと開閉する口から糸を入れ、彼女の本体に接続する。
『……単色ばっかりだな』
彼女の中は、自我や、欲する理由すらも忘れ、ただ食らい、満たされたいとだけ願う魔力で溢れ返っていた。
『……いや、野生に近いからこそ、純粋な欲の方が親和性が高いのか?』
しかし、それでも、元々、食欲や生存欲求が低かったと言うコグモを支配してしまうとは恐ろしい。
強い自我を持ち、生存欲求も低いコグモでこれなら、大抵の生物は一瞬で魔力に飲み込まれてしまうだろう。
『ま、どちらにろ、単色相手なら手間無く済むな』
俺は、彼らの記憶を読む事なく、欲求が満された感覚を与え、一方的に、コグモの中に巣食う単色達を消し去って行く。
『……さて、と。こんなものか』
後に残るのはコグモの記憶だけ。
『……あんまり、仲間の記憶を探るのは趣味じゃないんだけどな……』
しかし、何かがあって、手遅れになってからでは、もう遅い。
対策を練る為にも、どうしてこの様な状況になったのかだけでも知って置きたかった。
『……悪いな』
俺は謝罪しながらも、彼女の真新しい記憶に触れて歩いた。
『ふむふむ……』
読めば読むほど、現在、起きている状況が理解出来て来る。
『ほうほう……』
記憶を読み進めれば読み進めるほど、当初抱いていた、謝罪の気持ちは消し飛んで行った。
『……成程な……』
最後に残るのは、怒りのみ。
もはや、そこに込められた彼女の想いなど、どうでも良くなる程に怒っていた。
それもそのはず。現在起きているこの惨状は、全て彼女の策略によって引き起こされた物だったからだ。
それこそ、彼女の考えていた、俺にとっての最悪なシナリオを回避できていたから良い物を、そうでなければ……。考えたくも無い。
『こりゃぁ……。現実的な問題と向き合って、長として賛同したゴブスケは兎も角、ウサギとクリアにもお説教が必要だな……』
しかし、俺の知らない所で、クリアがこんなに悪い子に……。俺の都合の悪い子になっているとは思わなかった。
と言うか、先程の件が夢じゃないとするならば、もう一人の俺と、白衣の彼女は何処に消えたのだろうか?
「うっ……!!」
瞬間、腹に痛みが走り、現実に意識が引き戻された。
『お腹空いた。あれ、食べたい』
俺の中から、何かが語り掛けて来る。
(……いや、これは……。この子は、あの黒い球か?)
と言うか、彼女?の言うアレって、どう考えても、目の前にいるコグモだよな?
『食べたい、それ、食べたい。お腹減った。お腹減った?私、お腹減ってる。お腹減るって、不思議……。早く、早く満たされたい。それ、食べる』
「うっ!!ぐふっ!!や、やめっ……!」
どうなっているのかは分からないが、確かに腹の中で、黒い球と思われる人格が暴れだす。
食糧問題も解決した訳じゃないと言うのに、どうしてこうも、問題ばかりが続くのだろうか。
「分かった!分かったから!でも、目の前の"ソレ"は食べられない!今から探しに行くから勘弁してくれ!」
『食べられない?食べられない……。確かに、食べられない物ある。いっぱい記憶見て、知ってる……』
彼女が、どう解釈してくれたのかは分からないが、少なくとも納得してくれたようで、胸を撫で下ろす。
「はぁ……」
もう、溜息しか出てこない。
『早く行く』
「うぐっ……!!」
いや、追加で涙ぐらいなら出せそうだった。
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