第219話
「…………」
ギュゥっと、一回り以上小さい私には、少し強いぐらいの力で、抱きしめて来るパパ。
……でも、それだけ求められていると思うと、悪い気はしない。
例え、本当に求められているのが、私でなかったとしても、この温もりだけは私の物。
「あ……」
私から、離れて行くパパに、思わず声が出てしまう。
「……ありがとな。クリア」
パパは、それに気付いていたのか、いないのか。
少なくとも、名残惜しそうにする、私の顔を見て、優しい笑顔で、その頭を撫でてくれた。
今度は、混じりっ気なく、正真正銘、私に向けられた愛情。
「ん……」
私は、目を瞑って、全てを預ける様に、それを受け入れる。
(……やっぱり、誰かの代用品としてギュっと、されるよりも、ずっと幸せ……)
心地の良い手つき。
先程の抱擁とは違って、身も、心も、全てを預けられた。
「……ん」
パパが私の頭から手を放す。
満たされた私は、先程とは違って、自然と、それを受け入れられた。
(……うん、やっぱり、中途半端な愛情を求める物じゃないわね……)
私は、満足感を胸に抱きながらも、頭を回転させ、パパの望む、子どもらしい笑顔を返す。
(実質、私のお母さんに当たるクリナさん。現、恋人?のコグモさん。
パパが好きになる相手の傾向を見るに、包容力のある、大人の女性が好みなんだろうけど……)
私の中に居座り、認めたくは無いが、非常に認めたくは無いが、立場的にお姉ちゃんに当たる、自己中で、メンタルクソザコな、引きこもリミアに意識を集中させる。
(…………)
しかし、こちらからのアクセスなど、完全にシャットアウト。
糸の扱いだけは、私以上なので、意識や記憶を探ろうにも、お手上げだ。
『ねぇ?あんたが出て来てくれないと、いつまでも、私、子どもの役を続けてないと、いけないんだけど?』
(…………はぁ……)
聞いているのか、いないのか。
返事すらしないダメ人間に、内心、溜息を吐く。
(今、パパに、異性として好きってアピールすれば、引きこもリミアの引け目もあって、確実に落とせるだろうけど……)
それでは私が満足できなだろうし、何より、パパの心に負担がかかる。
それは、お互いに良くない気がした。
(……まぁ、リミアが帰って来るまでは、コグモさんとも、休戦協定を結べたし、ウサギさんは、なんだかんだで奥手だからな……。
強敵である事には変わりないけど、様子を見つつ、危ない様だったら、牽制して行けば良いよね)
休戦協定を持ち掛けた時のコグモさんは、驚いたような顔をしてたけれど、何も言わず、すぐに私と言う存在を理解して、受け入れてくれた。
やっぱり、そう言う所、大人なんだなぁ……。って、憧れる。
多分、パパも、そう言う所に惹かれるのだろう。
「……あぁ、そうだ。改めて聞くけど、今って、どう言う状況なんだ?」
パパが思い出したかの様に聞いて来る。
正直、私も忘れていた本題だったので、聞いてくれて良かった。
私はすぐに思考を切り替える。
「ええっとね……。パパが何日も、連絡も無く帰って来ないから、私達で村に潜入しようとしてたの。
……で、どうやって潜入するか検討した結果、村人を襲って、その亡骸を被って、村に潜入する事になって……」
そこまで話した時点で、パパの顔が曇る。
やはり、パパは、人を殺す事に関して、まだ、抵抗があるようだった。
「そりゃぁ、勿論、私だって反対したよ?でも、パパが心配なのは確かだし、この子達の餌も確保しなくちゃいけなくなった分、獲物の種類も選んでいられなくなって……」
そう言って、私が乗っているオオカミのファーストに『隠れている皆を呼んで』と、信号を送る。
「ワォーン!」
ファーストが鳴くと、パパと、その場に崩れ落ちていた、おじさんが、驚いたように顔を上げ、その後に、森の中から現れた複数のオオカミに、目を丸くしていた。
「……この子たち以外にも、まだまだいるし、ゴブリン達も、食べ物に困っているみたいで、あれから、家のグループに加わりたいって子が増えてるの……」
(……後は言わないでも分かるよね?)
私は、潤んだ上目遣いで、パパを見つめる。
……こういう時、子ども役は便利だなと、思った。
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