第86話

 「……おはよう」

 目を覚ました俺は、下着の上から、被るように服を着ているリミアを見かけ、声を掛けた。

 

 「おはよ」

 服に入った髪をかき上げながら、振り返るリミア。

 瞬間、彼女のうなじが見えた。本当に、白くて、美しい肌だ。

 ……まぁ、相手が相手なので、全くいやらしい気持ちにはならないが。

 

 「……あ。…エッチ」

 思い出したかのように、体を腕で隠し、恥ずかしがる態度を取る、リミア。

 その無表情では、全く罪悪感がない。

 

 「……萌えた?」

 小首をかしげ、無表情で聞いてくる彼女。

 

 「萌えないし、変な事、聞くな」

 俺は軽く突っぱねると、ベッドから這って移動する。

 10cmの俺には、このベッドのしわの山を越えるのも、一苦労だった。

 

 「……しかし、こう見ると、お前も大きくなったな……。4、50cmぐらいか?」

 ベッドのふちから、立っているリミアを眺め、呟く。

 

 「正確には分からないけど、多分そのぐらい。…でも、耐久力下げれば、もぉっっと大きくなれる」

 両腕を上に伸ばして、その大きさを表現してくるリミア。

 表情はないが、その動作が子どもらしくて、可愛らしい。

 

 「萌えた?」

 ……狙ってやってたのかよ……。

 

 「確かに、可愛らしいとは思ったが、全く萌えてない。そもそも、自分の娘に萌える奴があるか!」

 俺の突っ込みを無視して、一人、無表情ながら顔を赤く染め、頬を両手で抑えながら「可愛らしい」と、呟くリミア。

 

 本当に、調子が狂う。

 ……でも、まぁ、俺が生きていた頃のリミアは、確かに、こんな感じだったな。

 

 「はいはい、可愛い可愛い」と言って、俺はベッド淵から、彼女を見守る。


 正直、移動して、このダンジョンともいえる、家の中を探索したいのだが、リミアから逃亡する時に、大半の糸を放出し、回収し損ねた俺は、精々、人形の手足を操って歩くのが精一杯だ。


 10cmの大きさだと、リミア用のベッドの段差ですら、自分の身長程はあるので、降りるのが怖い。


 それに、貧弱な俺では、部屋の重い扉を開けるとも出来なければ、あの高い、吹き抜け上下通路を使うのも、糸の残量的に難しいだろう。

 

 ……と、言うか、そろそろエネルギーが底をつきそうだ。誰かからエネルギーを貰わないと……。

 リミアは無いとして、やっぱり、コグモだろうか?

 

 コンコン。

 そこに、扉を叩く音が響いてくる。


 「入って良い」

 表情を戻したリミアが、呟く。

 

 「失礼します。朝食をお持ち致しました」

 そこには扉を開けて、台車の上に朝食を乗せ、運んでくるコグモ。

 台車の上には、カラや臓器が抜かれ、見た目的には虫に見えない食べ物が並んでいる。


 しかし、俺にとっての朝食はコグモだ。

 

 「ここに置かせて頂きますね」

 コグモが机の上に食事を用意し終えるのを見届けてから……。

 

 「なぁ、コグモ。俺をここから降ろしてくれないか?」

 俺はコグモを、笑顔で呼び寄せた。

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