第87話

 俺に呼ばれたコグモ。

 彼女は、何の疑問も抱かずに、素直な声で「はい。只今」と、答えると、こちらに向かって歩いて来る。

 

 すまないコグモ。これは、俺の食事の為なんだ……。

 

 俺は、俺を抱きかかえたコグモに、短い糸を忍び込ませる。

 

 (あった、あった……)

 彼女の中に残っていた糸を見つけると、操作している糸に結び付け、しっかりと固定する。

 

 (コグモ、コグモ。聞こえるか?)

 俺はコグモにだけ聞こえる様に、糸を通して言葉を発信する。

 

 「はっっ?!」

 声を上げようとしたコグモの口を、動かなくする。

 

 (すまない。リミアにばれる訳には行かないんだ……)

 俺に視線だけを合わせ、素直に首を縦に振るコグモ。


 動けない幼女を無理矢理……。かなり、犯罪臭が……。

 ええぃ!余計な事は考えるな!

 

 (実はな、俺、お前無しでは生きていけない体になってしまったんだ……)

 実際は、他の生物からでもエネルギーを吸い取れるが、こちらの方が、コグモも断りにくくなるだろう……。

 

 (……?!私無しでは生きられない体?!それはいったいどう言うことですか?!)

 ちゃんと、糸を介して言葉を返してくれるコグモ。

 

 (俺は、他の生き物から栄養を吸い取らないと、生きていけない生物なんだ……)

 俺が言葉を返すと、コグモは(あぁ、そういう感じのですか……)と、冷めた返答が返って来た。


 他にどう言う感じのがあるのだろうか?他種族に詳しくない俺には、ぱっと思い浮かばなかった。 


 (……あれ?と言う事は、今、私から、その栄養とやらを吸い取ってるって事ですか?!)

 やっと状況を飲み込んだのか、驚いたような声を上げるコグモ。

 

 (そうだ。悪いな……。お前と遭難していた時に、お前から栄養を分けて貰っていたら、他の奴の栄養が吸えなくなるほど、はまっちまったんだ……)


 まぁ、実際、中毒にならないまでも、今まで吸ってきた栄養の中では、かなり上質な部類だ。

 きっと、種族が似ていて、必要な栄養が似通にかよっている事と、健康状態が良い事が主な要因だろう。

 

 (つ、つまり、ルリ様は今も、私の体液から栄養を吸い出している訳ですね!?エッチです!!お嬢様に報告します!!)

 

 (ええっ?!どこが?!どこがエッチなの?!)

 予想外の反応に、たじろぐ俺。

 

 (じゃあ、考えてみてください!!私が、ルリ様に噛み付いて、その血をじゅるじゅる吸っていたら、どんな気持ちですか?!)

 黒髪メイド幼女が、俺の腕に噛み付いて、ちゅるちゅると血を吸うイメージをする。


 (エッチだ!!)

 思った以上にエッチだった!!

 

 (そうでしょう?!分かったならやめてください!!)

 エッチなのは分かった。分かったが、俺にも譲れない物がある。

 と言うか、それを想像しちまったら、余計、他の奴に頼み辛くなったわ!!

 

 (そ、そこを何とか頼む!!今の話を聞いて、改めて思った!俺はお前じゃないとダメなんだ!!)

 必死に頼み込む俺。

 先程から一向に動かない俺達を、リミアが不審がっている。

 残された時間は極わずかだった。

 

 (い、今の話を聞いて、私しかいないと思ったんですか?!変態です!!変態の中の変態です!!)

 (何と呼ばれようが構わない!お願いだ!リミアに黙って、お前の血を吸わせてくれ!!バレれば殺される!!出来る事なら何でもするからさ!!)

 もはや、プライドなんていう物はない。リミアにばれれば、死より恐ろしい事が待っている気がする。

 

 (な、何でも、言う事を聞くんですか?)

 ちょっと食いついたコグモ。これを逃さない手はなかった。

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